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ぴんちゃんとちゃめ子はまるで母子

「指、どうしたん?」


 会社の同僚のYさんに聞かれました。


 私はちゃめ子に噛まれた人差し指から血が止まらず、カットバンを3重にしてがっちり貼っていました。


 Yさんにはデグ太を見せて自慢したこともあったので、私がデグーを新しくお迎えしたという話をすると手早く通じました。

 うっかり部屋に放してしまい、捕まえたら思い切り指を噛まれたことを話すと、彼女が言いました。


「そんな子、愛してやる必要ないやん! 殺処分してしまい!」


 私は首を横に振りました。

「ううん。私が悪かったんやもん。怖がるの当たり前やもん。責任とって育てます。いつかベタ慣れにさす」


「いや〜! 人間を噛んだら動物はおしまいやで! 気が知れへんわ。あたしやったら捨てとんな」


 彼女の言うこともよくわかりましたが、私がアホだったんです。ちゃめ子を怖がらせてしまったんです。




 ちゃめ子はケージに入れても私を敵視するばかりで、ちっとも懐いてくれませんでした。

 どうやら相当気が強いようで、私を見ても隠れはせず、でも私が近づくと『ヂヂッ!(敵襲!)』とか言ってサッと逃げます。


「よし……」

 私は仲良くなるための対策を、アホな頭で練りました。

「もう一匹迎えよう!」



 もう一匹迎えれば、その子が私に懐いてくれれば、ちゃめ子も心を開いてくれるかもしれない。そう思い描き、自分に都合のいい展開だけ期待して、前から気になっていたペットショップに行ってみることにしました。




 ネットで知って興味をもっていたそのペットショップは辺鄙なところにありました。

 中に入ってみると、いるいる。デグーさんがいる。

 大きなのもいましたが、目立つのはなんといってもチビの鳴き声。


『ピピピッ、ピピピッ』

『チパピ、チチピ』

『ピーピー、ピーピーピー』


 私が近寄ると、10匹ぐらいのチビたちが、『ピーッ! ピピピッ!』と言いながら一斉にケージの奥へ逃げました。


 これは……生後数日なのでは?

 まだおっぱいが必要そうなチビたちが、たぶん日本一安い値段で売られていました。

 デグ太もちゃめ子もお迎えした時にはおはぎぐらいの大きさでしたが、ここのはどの子もソラマメより少し小さいぐらいのサイズ。

 性別はどの子も不明とのこと。


 こんなものを購入してもいいのだろうか……。

 もしかしたら近親交配で産まれた子だったりするかもしれない?

 店員さんもなんだかインチキ臭そうな、青白い顔に黒縁メガネのお兄さん……。




 ……買っちゃいました。




 性別不明のアグーチカラーの子。

 連れて帰って箱を開けると、豆粒みたいなチビがこっちを見ました。


 しまった。ミルクがいたのでは……?

 そう思いましたが、乾燥カボチャをあげると普通に食べてくれました。

 名前は……性別がわからない(デグーの性別の判断は難しく、小さすぎるとまず無理です)ので、とりあえずどっちでも行けるように『ぴん』とつけました。


 なんにも怖いもののないベビーらしく、私のこともちっとも怖がらずにてのひらの上でカボチャを食べてくれます。

 ハムスター用の小さなケージはあったので、それに入ってもらうことにして、ちゃめ子と早く仲良くなってもらおうと、ケージの金網越しにお見合いをさせることにしました。


 ちゃめ子が興味をもって近づいてきました。

 それを見て、ぴんが大喜び。


『ママだ!』


 そんな感じで、私の手の上から、ぴょんと跳ねました。


 びっくりしたことに、ぴんちゃんはちっちゃすぎて、金網の隙間を通り抜けました。

 中に入ってきたぴんちゃんを見て、ちゃめ子が『なんだコイツ?』みたいに睨みます。

 しまった! 早くぴんちゃんを出さないと……噛まれる!?

 そう思う暇もなく、ぴんちゃんは『ママー!』とちゃめ子に駆け寄り、お腹の下にダイブして、なんとおっぱいを吸いはじめました。

 ちゃめ子は『えっ? えっ?』みたいに戸惑いながら、吸われるがままになっています。

 おっぱいが出ないことに気づいたのか、ぴんちゃんが立ち上がって甘えはじめると、ちゃめ子はバスケットボールを転がすようにぴんちゃんを転がし、まるで笑顔みたいな表情を浮かべました。


 少し時間を置いてからまた見ると、仲良く母子のように、回し車の上に並んで眠っていました。

 あまりにいきなり仲良くなったので、ハムスター用ケージに入れるのはやめて、一緒にいさせてあげることにしました。




 よしよし……。

 これでちゃめ子も気持ちが落ち着いて、私のことも怖がらなくなってくれるだろう。

 そう思ったのが間違いでした。




 ぴんちゃんはよく脱走しました。

 何しろケージの金網を難なくすり抜けられる小ささなので。

 低いところを目の細かいプラスチックの網で囲っても、どこからすり抜けるのか、見るとケージの中からいなくなっていました。


 最初のうちはチョロチョロしてるのを見つけて簡単に捕まえて、ケージに戻せていました。


 でも、そのうちすぐに、私のことを警戒するようになったのです。


 脱走してるのを見つけて、捕まえようとすると、必死に逃げるようになりました。追い詰めると明らかに怯えて震えます。


 ふとケージを振り返ると、ちゃめ子がケージの金網を握りしめて、こちらを見つめていました。まるでぴんちゃんを応援するように。


『ぴんちゃん! そいつに捕まっちゃだめ! 逃げて! 逃げなさい!』


 そんな感じ……。


 そしてぴんちゃんも、それに応えるように、私の手から必死に逃げます。




 デグーは社会生活をする動物です。その多彩な鳴き声は、コミュニケーションするための言葉のようにも聞こえます。


 もしかして……ちゃめ子がぴんちゃんに言葉で教えたのでは?


『アイツは恐ろしい人間だ。敵だよ。あんまり怖いことするからあたし、噛んでやった』


 ……みたいに?



 実際、ぴんちゃんはその後、ちゃめ子よりも私に懐かなくなりました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 分かります。繁殖した時に私も金網抜けされましたw デグー用ケージって網目の細かいタイプと広めのタイプがあるので、広いと子どものうちは普通に抜けるんですよね。 [気になる点] あちゃー。デグ…
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