【台本】デートの行き先に悩んでいます
兄「ううむ……どうするか、どうするべきか……」
弟「……ん?何やってんの、兄さん。雑誌なんて見つめて」
兄「ああ、実はデートの行き先で悩んでいて」
弟「あー、彼女出来たんだよな。俺でよければ相談に乗るけど」
兄「本当か!さすが冬樹、勉学に励まず遊び呆けているだけはある!この成績底辺男が!」
弟「あれ、俺の知ってる『人に物を頼む態度』と違う……」
兄「それで冬樹!どんなところがいいのだろう。女性はどんなところを好む?」
弟「そうだなぁ……ゲーセンとか」
兄「……げー、せん?」
弟「うん、ゲーセン」
兄「……美味なのか?」
弟「いや食うな食うな」
兄「美味ではないのか?」
弟「美味ではないな」
兄「なるほど、美味ではないのか。だが、良薬は口に苦しとも言うし」
弟「兄さん。ゲーセンっていうのはゲームセンターのことなんだけど」
兄「げーむ、せんたー……」
弟「その『何だそれは』って顔やめろ、まさか知らないわけじゃないだろ?」
兄「と、当然だ、分かっているさ!せ、センターというのは、球技でいう中央のポジションのことだろう?」
弟「兄さん……」
兄「野球では外野の中央部、または中堅手。アメリカンフットボールではスクリメージラインの中央に位置する攻撃側の選手。つまり、スポーツ施設のことを言っているんだな? スポーツジムか、汗を流せばすっきりするだろうしな」
弟「駄目だ、この人本気で言ってる」
兄「だが、デートで鍛錬する意味がよく分からんな。他に案があると嬉しい」
弟「他……じゃあカラオケとか」
兄「からおけ、とは?」
弟「カラオケっていうのは歌う場所だよ」
兄「何故?」
弟「何故って……」
兄「何故歌うのだ。俺も彼女も、歌を職にするつもりはない。授業でやるならまだしも……できるに越したことはないが、何故デートで鍛錬をするのだ」
弟「兄さんって本当に高校生?」
兄「鍛錬以外の案はあるか?」
弟「鍛錬を提案したことないんだけど……じゃあ、遊園地とか」
兄「恐ろしい経験をした挙句金をとられる、この世で最も非効率的な時間の使い方だな」
弟「デートする気ねぇだろお前」
兄「そもそもデートという概念が曖昧すぎる。最初に考えるべきは」
姉「ちょっと失礼(ガラス瓶で兄を殴る)」
兄「ぐあぁ!?」
弟「兄さーーーん!!!」
兄「ぐああああ!!!割られた!!!頭を割られたああああ!!!!」
姉「あらいやね。私が割ったんじゃなくてあなたが勝手に割れたのよ」
弟「分からない!何で姉さんが兄さんをガラス瓶でぶん殴ったのか分からない!」
姉「この子があまりに女心を分かってないからつい」
弟「ついで家族を殺そうとするなぁ!!」
姉「まったく春樹ってば、本当に彼女さんを楽しませる気はあるの?」
兄「当たり前だ!楽しくなくて何がデートだ!楽しんでほしいし、失望されたくないし……」
姉「ふふ、自分のために一生懸命になってくれる彼氏なんて素敵ね。それだけで喜んでくれそう」
兄「そ、そうだろうか……」
姉「ええ。それに、あなたが駄目だと思ったとこも、相手は好きかもしれない。
その上で失敗したら仕方ないわ、次の成功のために頑張りましょう」
弟「いいことを言ってる……兄を殺そうとした姉がいいことを言ってる……」
兄「そうか、そういうものか。なら俺はもっと一生懸命になろう!」
弟「いっそ自分で新しいデートスポットを考えるって手もあるかな」
兄「デートスポットを考える……!?すごい発想だな」
姉「でも彼女さんが絶対行ったことのない場所、って分からないわね」
兄「……少年院?」
弟「行ったっきり帰って来られないだろそれ!!」
姉「ここは難しいことは考えず、シンプルにショッピングはどうかしら」
弟「……そうだ!そうだよ兄さん、ショッピングモールだ!」
兄「ショッピングモール……?」
弟「あそこなら何でもある!映画館も、ゲーセンも、服屋も小物屋も本屋も眼鏡屋も家具屋も食べ物屋も!
兄さんが喜ぶ場所も彼女さんが喜ぶ場所もきっとある!」
兄「そ、そんな万能な場所があるのか!さっすが冬希、勉学に励まず遊び呆けていただけはあるな!」
姉「よく分かってるわね、さすが私の弟!」
弟「だろぉ!?」
兄「そうと決まれば……」
兄「急いでショッピングモール建設の企画書を考えなければ!!!」
弟「……ん?」
弟「それから数年後……」
ニュースキャスター「ウェスタ―モールは、店舗数約290店を超える世界最大規模のオープンエア・ショッピングセンターです」
ニュースキャスター「四つのデパート、一流ブランドブティック、日本未進出のアメリカンブランドやカジュアルウエア、水着専門店、ブックストア、スーパーマーケットなどバラエティ豊かなショップやレストランが軒を連ね、どなたにもショッピングとダイニングをお楽しみいただけます」
ニュースキャスター「あなたもぜひ、恋人と一緒に訪れてみませんか?」
弟「……ってそういう意味じゃねぇよ!!」