8.襲名
「はっはっはっは! 実に面白い!」
ジッと皇帝陛下を観察していると、いきなり天を仰いで笑い出した。
周囲では「陛下が声を出して笑うなんて…」とかなり驚いている様子だ。
私もゲームで相当厳しい御方としか表記されていなかったので、こんな豪快に笑うとは思わなかった。
まあここ数分の様子を鑑みるとこっちが本性なのかもしれない。
ただ今まで陛下を笑わせるような面白いことがなかっただけで。
「先程騎士に連れられてきた時から雰囲気が違うとは思っていたが、やはり今までとは明らかに別人だな。今まで余が見てきたそなたは仮初めの姿だったのか? とてもこんなことができる頭脳を持っているとは思わなんだ。狐に化かされていた気分だ。これほどの成果、一朝一夕で成し遂げられるとは思えない。まさか、この時のために長い間準備を? 身内に気取られないよう、道化を演じていたとでもいうのか?」
おお、陛下ったら余程興奮しているのかすごいマシンガントーク。
皇太子も目ガン開いてるし。あれは絶対陛下に驚き過ぎて話についていけてないな。そのまま静かでいてほしい。
さて、とても楽しそうに推理しているところ悪いのだけど、陛下が仰っていることは何ひとつ当たっていない。
別人のように見えるのは本当に別人だからだ。
勿論準備時間も長くない。証拠があることは知っていたので一瞬だ。一朝一夕以外の何物でもない。
なので、ここは意味深ににこりと微笑む。
陛下からしたら肯定しているように見えるだろうが、私は明言していませんよ?
そんなことは露知らず、陛下は私の表情を見て満足そうに頷いた。
「やはりそうか。しかも、切り札をこの場面で出してくるとは考えたものだ。タイミングまで見計らっていたのか」
おお、嬉しいことに更なる勘違いをしてくれたな。この勘違いは利用する他ないだろう。
「ええ、まあ。手持ちのカードは最良のタイミングで切ることで一際効果を発揮しますから。コレさえあれば、寛大な陛下は私の些細なミスなど見逃してくださると思ったもので」
「ほう、そのミスすら計画通りと申すか。実に愉快。それで、その後の侯爵家はどうするつもりだ? グマーレンには男児がいない。父親が捕まれば普通ならば爵位返上となるが──」
ふふ、よくぞ聞いてくれました。
次のお願いとしてそれを言うつもりだったが、向こうから聞いてくれるとは。
私達かなり相性良いのでは? と烏滸がましくも思ってみる。
「その爵位、私にください」
陛下の目を見てきっぱりと言い放つ。
瞬間、陛下はニヤリと笑みを濃くし、周囲は今日一番のざわめきを見せた。
それもそのはず。この世界で女性が爵位を受け継ぐことはまずないとゲーム内で言っていた。
しかし母親が来る前に書庫で調べたら、法律で禁止されているわけではなかった。
つまりこれも、今まで爵位を貰うに相応しい女性がいなかっただけ。
だけど陛下、あなたなら私を認めてくれますよね?
「よろしい。新しいグマーレン侯爵が誕生したことをここに宣言する」
──さあ、プレイシア・グマーレン侯爵の快進撃の幕開けだ。