3.憑依
『地獄のユートピア』は以前オタクな友達にゴリ押しされてかじったことのある乙女ゲームだ。
誰にでも良い顔をしていた私は交友関係が広かったため、そういう友達もそこそこいたんだよね。
リアルに飽き飽きしていた私にとって、非現実を体験できるゲームの世界は割と好きだった。
乙女ゲームやギャルゲーは幾つかやってみたけど、恋愛シミュレーションゲームの中でも『地獄のユートピア』は難易度が高くて面白かったのを記憶している。
確か登場人物が異常な奴ばっかりなんだよね…。
気に食わないことがあるとすぐに暴力を振るう男、性犯罪者並に女癖が悪い男、魔法を極めすぎて頭がイカれた男、あと快楽殺人鬼みたいな男もいたっけ…。
リアルでそんな男達まずお目にかかれない。
というか、多少面白そうだなと思って近付いても私を好きになるとつまらない男に成り下がるんだよね。
だからリアルの恋愛にはあまり興味がなかった。
その点この『地獄のユートピア』は一歩間違えれば即バッドエンド突入。
ヒロインなのに殺されたり犯されたり魔法で石にされたり。
『は? これマジで乙女ゲーム?』なんて内容のめちゃくちゃ酷い(ものすごく面白い)ものだった。
この私が丸一日費やしても攻略できなかったのはこのゲームだけ。
だから当然記憶には残っているのだけど、さっきは知らない世界に迷い込んだばかりで混乱していたのか直ぐに思い出せなかった。
そっか…『地獄のユートピア』の世界だったのか。
一瞬夢かと思ったけど、さっきあのぶくぶく泡吹き男を投げ飛ばした時の感覚は本物だった。
それに直前神様にお願いしたこともあるし、ほぼ間違いなく現実だろう。
これはゲームのキャラに憑依したってこと?
オタク友達がそういう系の小説があると言っていたけど、まさか自分の身に起こるなんてね。
しかもあの最悪最高のゲームの悪役令嬢。
ヒロインですら攻略対象達に苦労したのだ。
勿論悪役令嬢はそれ以上に悲惨な目に遭う。
まず、序盤で十中八九死ぬ。
好きな男に恋人ができた挙句婚約破棄され、後日恨みつらみをヒロインにぶつけようとしたら近くにいた元婚約者に殺された。
他には、両親が違法人身売買を行ったせいで一家没落して路頭に迷っていたところ盗賊に襲われたり、なんの前触れもなく快楽殺人鬼に殺されたり。
死ななかったパターンがあるとすれば、ヒロインに嫌がらせしようと思って攻略対象に近付いたら即犯されて変な薬盛られて、娼館で性奴隷の如く暮らしたルートかな。
いやぁ、どれも悲惨だ。
そんな悪役令嬢に憑依しちゃったのか…。
──それって、最高に楽しそうじゃない?