29.ロシエル・ザクリー
キィィと古びた扉を開ける。
陛下から教えてもらった通り、目的の人物は王宮の外れの塔にあるいかにも怪しい部屋にいた。
まあゲームをプレイしているから居場所は知っていたけどね。
「…誰?」
大きな魔法陣の中心に寝っ転がっていた彼がむくりと起き上がり私を品定めする。
その目には動揺している素振りは見られない。
ここには皇帝だけが持っている結界避けの宝石がないと入れないはずだから、少しは驚くと思っていたのだけど。
「プレイシア・グマーレンと申します」
質問に答えてやると、彼は興味なさげにまた床に寝っ転がった。
「ふーん。で、何の用?」
その様子を見るに、私のことは知らないみたいだ。
基本この古びた塔に篭りっきりなので、王宮がどれだけ騒がしかろうと我関せずなのだろう。
彼の興味を引くものはこの世で唯一、魔法だけ。
何故なら彼は、『地獄のユートピア』の攻略対象である筆頭宮廷魔法師、ロシエル・ザクリーだからだ。
魔法以外にはとことん無頓着なイカれ魔法師。
日々危険な魔法を試すことを喜びとし、その結果どれだけ周囲に被害が出ようとも気にしない。
陛下の頭を悩ます人物の一人だ。
ただ、周辺国から帝国を守るための大規模な結界を張っていることで役に立っている。
だから陛下もこの塔の中では自由にしていいという交換条件のもとこの男を飼っているのだ。
ロシエルはザクリー伯爵家の次男である。
だけど生まれた時から魔法の才能があったため、魔法アカデミーを飛び級で卒業し、史上最年少で宮廷魔法師となった。
今となっては彼の実力は帝国一だ。
だから誰も彼の危険な実験を止められない。
今だって、彼が寝っ転がっている魔法陣は──。
「少しご相談したいことがありまして。それよりも、立派な魔法陣ですわね」
「君なんかが見てわかるの?」
「そうですね…『#古__いにしえ__#の魔王を召喚する魔法陣』でしょうか?」
「…!」
顎に手を当て考える素振りをしながら言ってみると、ロシエルのグレーの瞳が少しだけ見開いた。
「へえ…見ただけでわかるなんて。文献にも載ってないはずなのによく知ってたね」
「ふふ、ありがとうございます」
そりゃあよく知っている。
ゲームにロシエルが魔王を召喚しようとしているって出てきたからね。
ちなみにプレイシアは召喚の際生贄に選ばれて殺されるルートがある。
他にも実験と称して様々な拷問を受けたり副作用で無機物となったり。
ゲーム内でロシエルの好奇心の一番の被害者はプレイシアだと言ってもいい。
勿論、私は黙って犠牲になるつもりなんて全くないけどね。




