24.帰還
「侯爵様…! 心配しましたよ! 夜までには帰るよう申し上げたのに…!」
侯爵家に帰る頃にはとっぷり日が暮れていた。
屋敷に着くなりミーグルが慌てて駆け寄ってくる。
「ごめんね。お詫びにハイ、これお土産」
「お土産…って人間じゃないですか!!」
後ろから恐る恐るついてきたロペルの背中を押してミーグルに引き渡すと、ミーグルはぎょっとして抱き留めた。
「貴重な働き手よ。存分にこき使ってちょうだい」
「は? 何だそれ聞いてないぞ!」
「何? まさかタダで居座らせると思ったの? 働かざる者食うべからず、よ」
「くっ…」
尤もなことを言う私にぐうの音も出ないのか、ロペルが悔しそうに言い淀む。
ふふふ、騙されたとでも思っているんでしょう。
でも今更帰るわけにもいくまい。
彼にはめいいーっぱい働いてもらおう。
「侯爵様…強引なところはお変わりないようで…」
やれやれといったように溜息を吐くミーグル。
なんですって? 聞き捨てならないな。
ゲームのプレイシアに似ているとこがあるなんて。
「じゃあミーグル、その子無駄に吠えるからよく躾けといてね。新しいグマーレン侯爵家に相応しい人物となるように」
「…! はい!! 勿論でございます!!」
新しいグマーレン侯爵家に反応してピシッと姿勢を正すミーグル。
ふっ、チョロいわね。
メラメラとやる気に満ちているミーグルの目を見てロペルが若干怯えている。
「ラピ、私は疲れたから休むわ」
「はい! お風呂の用意をしますね!」
「お食事はどうなされますか?」
「あー…軽めのものを部屋に持ってきてちょうだい」
「かしこまりました」
私のために動いてくれる侍女と執事にお礼を言って、足早に部屋に戻る。
さて…二人の準備が終わって部屋に来るのにあと10分ってところかしら。
それまでに片付くといいんだけど。
「声を出した瞬間殺す」
自室の扉を開けると、直後に中に引きずり込まれて壁に体を打ち付けられた。
喉元には鋭利なナイフ。
目の前には黒髪金目の美しい男。
…やっぱりね。屋敷に着いた瞬間見張られている気がしたんだ。
案の定一人になった途端接触してきた。
「こんばんは。今宵は月が綺麗ですね」
「…ッ!?」
またまた合気道の技炸裂。
修得したばかりの『相手を転ばす魔法』との合わせ技だ。
すると見事に形勢逆転。
侵入者を押し倒す形となり、しっかりと下半身で相手の体を固定してナイフを目の前にちらつかせる。
相当油断していたのか、案外すんなりいったわね。
…私が知る彼は、皇太子とは違ってもっと手強いはずだったんだけど。
「…あはッ! アハハ! やっぱりキミ面白いね!」
「うふふ、お褒めに預かり光栄だわ」
一瞬だけ目を見開いた彼だけど、すぐに心底愉快そうに笑いだした。
――彼の名は、エトメール。
『地獄のユートピア』の攻略対象であり、闇組織のボス。
「キミのこと、殺そうと思ってたけど気が変わった」
そして、快楽殺人鬼だ。




