15.出発
食事を食べ終わった後はミーグルから残った使用人の状況を聞いて、必要に応じて人員募集をするよう命じた。かなり人が減ってしまったので、無駄に大きな屋敷を維持するためにも人を雇わないと。
その後自室に戻ったが、さっきまで寝ていたので当然睡魔はやってこない。
暇だから明日行く領地について勉強でもするかな。
書庫に行ってそれらしき資料を数冊持ってくる。
さすがミーグル。犯罪資料を読んだ時も思ったけど、整理が上手いな。領地の腐敗具合がよくわかる。
よくもまあここまで放置したものだ。
何年も収穫が悪くてこんな財政状況じゃ領地民達がまともに暮らしていけない。
何かしら対策すればいいものを、あの毒親達は私腹を肥やすのに必死で見向きもしなかったのだろう。
ゲームにはそんなルートなかったけど、これじゃあ謀反が起きても何ら不思議ではないな。
まあいいや。詳しくは明日確認するとしよう。
ゼロから、というかマイナスから状況を立て直すのなんて初めてだから楽しみだ。
結局、あれからずっと資料を読むのに夢中で朝が来てしまった。
これじゃあ完全に昼夜逆転生活だ。
まあ前世でもこういうことはよくあったし特に気にならないけど。
「侯爵様、本当に領地の視察に向かわれるんですか…?」
「ええ、何か問題でも?」
朝ご飯を食べてすぐに向かおうとしたら、ミーグルが不安そうな顔で止めてきた。
「女性だけでは危ないのでは…やはり私も行くべきかと…」
「何言ってるの。あなたはやることがいっぱいあるでしょう。侯爵家には私兵なんていないし。いざとなったらラピを囮に逃げるから大丈夫よ」
「はい! 侯爵様! 命懸けで侯爵様をお守りするのでご安心ください!」
「…冗談よ、ラピ。死なない程度でお願い」
ちょっと抜けているラピが心配だけどまあ大丈夫だろう。
一応書庫にあった魔法書で最低限の護身術魔法は覚えた。
相手を転ばす魔法や霧を出す魔法など、一晩じゃしょぼい魔法しか覚えられなかったけど何とかなるだろう。
「…わかりました。夜になる前には絶対お帰りくださいね」
「ええ」
納得いってなさそうなミーグルだけど承諾してもらえた。
そんな彼に手を振って、ルンルンと楽しそうなラピと共に馬車に乗り込む。
「領地に行く前に帝都でドレスを買うわ」
「かしこまりました! 御者にそう伝えますね」
そうして馬車は走り出した。
──なんだか今日は何かが起こる予感がする。
それが良いことであろうが悪いことであろうが、きっと楽しい1日になるだろうと思った。