11.執事
グマーレン侯爵家の執事であるミーグル。
彼は長年この侯爵家のために尽くしてきた。
ということは、勿論違法人身売買にも加担していたわけで。
がっつりミーグルが関わっていた証拠がある筈なのに、何故自分は捕まっていないのか私に聞きにきたのだろう。
答えは簡単だ。
「ミーグルが犯罪に加担した形跡を、全て私が隠滅したからよ」
「なっ…!」
そう。当然両親が犯罪の首謀者だという証拠と共にミーグルが関わっている痕跡もあった。
それもほとんどの管理を任されていたようで、あのまま家宅捜査をされたら次責任者としてミーグルも相当な罰を受けただろう。
なので、私がその証拠を全て排除したのだ。
というのも、今後の懸念事項の一つとして絶対的な人員不足があったから。
ただでさえ人員コストをケチった侯爵家には使用人が少ないのに、件のせいであのままでは半分以下になってしまう体たらくだった。
それでは屋敷の維持や領地再興もままならない。
何故なら私は侯爵家について何も知らないから。
ゲームに出てきた情報以外は何も知らない。
無論一から調べることもできるが、学んだことを実行する人がいなければ意味がない。
私がどんなにチート能力を持っていたとしても、一人の力では高が知れている。
それに人を動かしてこそ真の指導者、正なる貴族。
皇帝陛下にいただいた準備期間を有効活用すべく、使えそうな人材は捕まらないよう細工したのだ。
だって陛下、『悪事へ関わりのない者達への一切のペナルティを科さない』という条件を許可してくださいましたよね?
言い換えれば、犯罪へ関与した証拠が見つからない限り何のペナルティもないということだ。
お優しい陛下は私から、ひいては侯爵家から優秀な人材を奪わないでくれた。
聡明な陛下のことだ、私の発言の裏には気付いていたはず。
全て分かった上でわざわざ1日も猶予をくださった。
これだから大好きである。
それに、何も優秀な人材という理由だけでミーグルを救ったのではない。
「こっ、侯爵様…! 何故そのようなことを…! この老いぼれは旦那様と奥様と共に破滅の道を行く所存でしたのに…!!」
「だから、よ」
ふふ、ミーグルったら取り乱しちゃって。
そんな大層な覚悟を決めていたところ悪いが、あなたがクズ達と心中する必要なんてこれっぽっちもない。