不器用な二人
大好きのまま、終わった。
「あはは、これが失恋、ってやつかな」
誰もいない空き教室の一角。そこで私は体育座りして小さくうずくまってる。
今にもあふれてしまいそうな涙を流すために一人になっていた。あとは、思い切り、不細工に泣き散らかすだけ。
そのはず、なのに。
「そー落ち込むなよ。元から叶わないってわかってたことだろ」
「うるさい、なに後をつけてんのよ。このストーカー」
閉め切った扉の前に立った幼馴染が、こうして邪魔しに来ている。
こいつの前で泣くのは恥以外の何物でもない。早くどこかに行ってほしい。
「そう言うなよ。これでも慰めに来たんだぜ」
「余計なお世話。消えて」
「ひっでぇな、おい……」
「――来ないで」
近づいて来ようとするのを止める。
「それ以上近づかないで」
「気にすんな。昔からお前が泣きそうになったら、」
「うっさい。いいから出て行って」
「拒絶しすぎだろ……。そこまで言うなら俺もう行くからな。さっさと泣いて遅くならないうちに家に帰れよ」
そう言って教室から出ていった。
あぁ、やっと一人になれた。
これで思い切り泣くことが出来る。
――そう、思ったのに。
「なんで、一つも流れないの」
「……そりゃ、そうだろ。ルーティンになってんだから」
「ひっ」
思わず声がした方に顔を上げると、アイツが立っていた。
ビックリした……。いつの間にいたの。
「数分前から中にはいたぞ。それ以外はずっと外にいたけどな」
「……ホントにストーカー」
「うっせ」
有無を言わせてくれないまま、すぐ隣に座ってくる。
そのまま何もせず、ただそこにいるだけ。
たった、それだけなのに、
「う、うぅ……」
さっきまで出る気配も無かったはずの涙と嗚咽が、漏れ始めてくる。
なんでっ、いつもいつも、こんなみっともないところをコイツに……っ。
「好き、だったぁ……。ほ、ホントにぃ、好きだったのに……」
「…………」
口からこぼれた泣き言をきっかけに、涙がボロボロと流れてきた。
それにつられて、声が静かな教室に響き渡る。
隣にいるコイツも、そんな私になにかすることも無くただ座っているだけ。
「アンタ、いっつも、そうっ! 私の泣いてるところ見て、なにがしたいのよっ」「悲しんで泣いて怒って、不器用なのにそんなに一遍に出来てすごいな」
「うっさい!」
少しだけ顔を上げてにらみつける。
そんなことしてもコイツが怯んだりしないのはわかってる。けど、そうしないとコイツのせいでできたこのイライラが溜まっていくだけだから少しでも発散させたい。
「もういいから、もう涙出始めたから、どっか行ってて」
「ヤダ」
「……はぁ?」
せっかくぽろぽろと流れていた涙が止まる。
「俺は不器用だからな、こうするって決めた」
何を言ってるのかわからない。一瞬、ふざけているのかとイライラが溜まっていく。
けど、その横顔は、いつものへらへらとしたものじゃなかった。
「アンタ、何言って――」
「もういいだろ、はやく泣き止め」
「むぐっ」
半ば無理矢理に頭を下に向けさせられる。
そしてまた、条件反射のように涙があふれてきた。
私は、器用じゃないから一つのことしかできない。
でも、そんな中でも。
最後に見えた、赤く染まったアイツの横顔だけは、なぜか頭から離れなかった。