罠
あれから、何度かカルミアと仕事を行ってきた。
カルミアは、前からしていただけはあり、かなり手馴れていた。
そして今日も、カルミアと暗殺に行くわけなのだが。
どうしようかなあ。
なんか、面倒に感じてきた。
いや、普段から仕事は面倒なのだが、今回のは何となく嫌な予感がする。
いっそ、カルミア一人に行かせるか……?
「流石にダメか」
一応はあいつの師匠なんだしな。
俺が一人で行くことはあっても、あいつ一人で行かせるのはな。
俺のプライドが許さない。
「……そろそろ時間だな」
荷物の点検も終わってるし、少し早いが出発するか。
「カルミア、準備はできたか?」
「はい!」
てか、俺のことを待ってた感じっぽいな。
相変わらず、仕事が早いことで。
「今回も、基本はお前にやってもらうぞ。万が一の時には、俺も少しだけ手を貸す」
「……さぼりたいだけじゃないですよね?」
「そ、そそそ、そんなわけないじゃないか!!」
「ものすごく焦ってるじゃないですか!」
さーて、何のことだか……。
「とりあえず、先に車に乗っておけ」
「はい」
今回はいったい、どんなトラブルが待ち受けているのやら。
俺が殺しに行くとき、いつもいつもトラブルばかりだもんな。
体質なのか何なのかわからんが、どうにかならないものか。
「よし、それじゃあ出発!!」
今回のターゲットは、ある企業の重役らしい。
自身の権利を利用して犯罪を揉み消しているらしいが、証拠が多数残っていた。
で、その証拠を集めた依頼者が、俺に画像などとともに依頼をしてきたわけだ。
まったく、ほかの依頼者も、このくらいの証拠を集めてから依頼してくれないものかね。
たまにだが、ほとんど証拠のない状態で依頼してきやがるからな。
それ、俺がいちいち探してるんだからな?
正確には、ルドルフがだけど。
その分、依頼料が馬鹿みたいに跳ね上がる。
てか、現物の一つでも郵送してくれれば、ルドルフに調べてもらえるんだけどな。
まあ、これだけ証拠を集めて送ってきたということで、期限は少し短いがな。
依頼人も切羽詰まってんだろうな。
期限は五日以内。
メールを受信したのが三日前だったから、今日中に終わらなくても何とかなるな。
しかも、家から遠すぎず近すぎずな場所だ。
これほどうまい仕事が、今までにあっただろうか、いーや、ない!!
まあ、その分裏もありそうだがな。
「ほら、着いたぜ」
ここからは警戒していかないとだな。
事前の調査通りであれば、標的はいまだビル内を移動中。
ビル内の警備はやや厚い。
だが、カルミア一人でも十分に達成できるレベルだ。
俺、今回は絶対に働かない。
「エーデルさん」
「ん、え、な、何だ?」
「なんでそんなに挙動不審なんですか? えっと、あそこにいるのが今回の標的ですか?」
ビルに入ってから数分後、カルミアが前方を目立たぬように指さした。
離れてるからわかりずらいけど……。
「うーん、そうっぽいな。いけそうか?」
「はい。あの程度ならば問題ありません」
頼もしいな。
「じゃあ、標的の方はお前に任せた。俺は……」
働きたくないってのに。
振り向きながらナイフを構え、標的に聞こえない程度の声で呼びかける。
「お前らは、俺が相手してやるよ」
護衛だか何だか知らんが、ずいぶんと面倒なことしやがって。
まあ、どうせあのデブの差し金なんだろうがな。
罠にはめたつもりかもしれないが、あの程度ならすぐにわかる。
……って。
「多すぎだろ!?」
狭い廊下の両側から、計三十人ほどの武装した連中が来やがった。
ったく、俺は前世で相当な大罪を犯したに違いない。
出なければ、俺の仕事が毎回面倒な事になるなんてことはありえない。
「武器を下ろせ」
おっと、いきなり命令ですか。
「下ろさなかったらどうなる?」
それを言い切る前に、乾いた音が建物に響く。
「ぐ、ううっ!」
右腕を撃たれた……!
痛えんだよ、くそったれ!
「おお、流石は特殊部隊だ!」
「この二人、いかがなさいましょうか?」
「わしが揉み消すから、遠慮なく殺したまえ」
「承知しました」
やっぱりか、くそデブじじい!
物騒なことをぺらぺらと話しやがって……。
こうなったら。
「カルミア、目を瞑って伏せろ!!」
「は、はい!」
ただならぬ雰囲気を察したのか、カルミアが俺の指示に従い、頭を抱えて蹲った。
よし、その恰好なら十分だ。
「これでもくらえ!!」
地面に向かって、あるものを思いっきり投げつける。
ルドルフ特製、閃光弾だ。
時間稼ぎになるかも怪しいが、俺ならそれで十分だ!
カルミアを片手に抱え、急いで廊下を走り抜ける。
特殊部隊がどれほどのものかは知らんが、俺の走りには追い付けまい。
「ぐえっ!!」
やべ、変な声が出た。
てか、走ってる相手の足を狙うなよ、危ねえだろ!!
どうだ、今のコンディションであいつらを殺せるか……?
……無理だな。
ちくしょう、しくじった!
「って、前からも来んのかよ!!」
またはさみうちか、芸のない奴らめ。
とか何とか言っても、ピンチなことには変わりない。
さて、どうするか……。
「カルミア、立てるか?」
「は、はい」
「俺の合図があったら、すぐに逃げ出せ」
「え!?」
「全力でだ。いいな?」
「了解です……」
「その代わり、それまではあいつらをできるだけ殺してくれ」
よし、頷いたな。
なら、俺も行きましょうかね。
「まずは、殺すぞ!」
「はい!」
ナイフ片手に、前方の部隊に突っ込む。
これだけ人が密集してたら、俺も少しトリックが使えるな。
「すまんが、仕事の邪魔なんでな!!」