安眠
大きな欠伸をしながら、ぐっと背筋を伸ばす。
なんというか、久しぶりにぐっすりと眠れた。
俺は元々睡眠時間が短い方だったのだが、悪夢の影響もあり、最近は全然眠れていなかったんだよな。
えーっと、まだ仕事は残ってたっけ……?
やだなー、今日はもう働きたくねえよ。
「おはようございます」
「おはよう。やっぱり起きてたのか」
「コーヒーいりますか?」
「ああ、今日はいいかな」
「わかりました。もう少ししたら朝ごはんもできますので、ちょっとだけ待っててください」
仕事早いなあ。
俺、家事なんもしなくていいじゃん。
「なあ、カルミア」
「どうしましたか?」
「お前、疲れとか大丈夫か?」
「え?」
「昨日はここに来て初めての仕事だったわけだし、というか、気絶までさせられていたじゃねえか」
「そのくらいでしたら大丈夫ですよ。一人でやってた時には、あのくらいよくされていましたし」
「それは大丈夫じゃないだろ。てか、よく生きてこれてたな」
「はい、体は丈夫ですので!」
違う、そうじゃない。
「体がいくら丈夫でも、死んじまったら元も子もないんだ。あんまり無理はするなよ?」
「はい。それはわかっています」
「それならいい。体の丈夫さってのは、あんまり当てにならなかったりすることもあるんだ。一見大丈夫そうでも、後になって響いてくることもあるんだ」
「エーデルさんは、そういった経験はあるんですか?」
「まあ、あるといえば……あるのか……?」
カウントしていいのか微妙なラインがちらほらとあるんだよな。
「そういえばなんですけど、エーデルさん的に私は殺し屋に向いていると思いますか?」
「向いてんじゃないの?」
「適当じゃないですか!?」
「いやさ、昨日の戦い方を見た感じだと、躊躇なしに人は殺せていたから、殺し屋をするには向いてると思うんだよ。ただ、若干詰めが甘いところもあったから、そこは修正するべきだな」
「はい、ありがとうございます」
あれ、今の俺って、なんか少しだけ師匠っぽくね?
もしかして、少し格好よかったりする?
「あ。新しい仕事入ってたから、三日後くらいに行くぞ。準備しとけ」
「了解です」
ただの暗殺だし、問題はないだろう。
……とか言ってたら、フラグが立つんだろ?
昨晩調べてみた感じだと、本当に問題はなかったんだよな。
ルドルフが嘘をついていない限り、だがな。
そういえば、ベツレヘムは大丈夫か?
昨日は久々の戦闘だったわけだし、あの問題もあるしな。
……見に行くか。
「ごめん、ちょっと地下に行ってくるわ」
「わかりましたー」
「ベツレヘム、起きてるか?」
「お、兄貴。おはよー」
「おはよう。調子どうだ?」
「うーん、ま、いい方かな」
…………。
「ベツレヘム、嘘つくんじゃないぞ?」
「…………ばれてた?」
「当り前だ」
目を爛々と真っ赤に光らせているな。
まあ、能力を使わせたんだし、そうなっちゃうよな。
ベツレヘムいわく、能力を使用すると、かなり体力を削られてしまうらしい。
体力が削られれば、当然腹が減る。
「ほら、今日の分だ」
「サンキュー」
ヴァンパイアの腹を満たすには、血が必要だ。
こういう時に役立つのが、ルドルフ印のガラス瓶だ。
これがなかったら、ベツレヘムも正気を保つのがかなり困難だろう。
「――ップハ。大分ましになった」
「それならよかった。今度ルドルフに会った時にでも、礼を言ってやれ」
「ああ。ルドルフさん、久しく会ってないな」
「近々、会えるように手配しとくよ」
「ありがと」
どっちにしろ、家に呼ぶつもりだったしな。
「兄貴、そろそろ朝ごはんできたっぽいぞ」
「マジか。行ってくるわ」
「この香りだと、ピザトーストがメインだな」
「流石、ヴァンパイア。匂いだけでそこまでわかるもんなんだな。
「ああ。一応トッピングまでわかるけど、そこまでネタバレして大丈夫か?」
「駄目に決まってんだろ」
「……はーい」
残念そうな顔をするな。
「じゃ、俺はもう少し寝とくわ」
「おう。おやすみ」
「おやすみー」
トッピングはご想像にお任せします