帰路
車を走らせながら、さっきの出来事を思い出す。
多分だが、あの現場を何者かに見られていた。
直感的に視線がそちらに向いたが、あの方向であってると思う。
可能性として高いのは、賞金稼ぎに依頼した奴が覗いてた線だな。
……面倒だけど、ルドルフに相談したほうが良いのかな。
まあ、答え合わせに行くだけみたいなところはあるんだけどな。
……マジか。
「カルミア。少し寄り道するけど、大丈夫か?」
「は、はい」
……チッ。
「やっぱ予定変更だ。直帰するぞ」
「どうかしたんですか?」
「さっきまで、同じ車がずっとついて来てた」
「本当ですか!?」
「まあ、さっき離れてったんだけどな」
「そ、それって、まずくないですか?」
「ああ。凄くまずい。……まずいけど、離れてったものをわざわざ追いかけることもないしな。」
俺が眠たすぎるというのもあるのだが。
「カルミアはもう寝てていいぞ。気が張って疲れたろ? 少しの間だけでも休んでおくといい」
「で、では、お言葉に甘えて……」
最後まで言い切らないうちに、カルミアは寝息を立て始めた。
ったく、子供みたいなやつだな。
思わず苦笑を浮かべてしまう。
ま、今日くらいはいいか。
カルミアの実力も把握できたし、俺の仕事を邪魔してきていたやつらを一時的にでも潰せたんだ。
十分すぎるくらいには成果を上げている。
「おやすみ、カルミア」
おっと、柄にもないことを。
……つ、疲れた。
カルミアが起きなかったせいで、わざわざベッドにまで運んだんだからな。
布団までかけてやった紳士な俺を、誰か褒めてください。
「というか、ベツレヘム遅いな」
さっき確認したが、牢屋にも戻っていなかった。
ベツレヘムに限って家出なんてことはないと思うが……。
「ただいまー」
良かった、帰ってきたか。
「おかえりー」
「いやー大変だったよ。信号待ってたら、急に変なおっさんに絡まれてさ。急いでるんでって言って、そのまま巻いてきたよ」
「それは大変だったな」
「久しぶりに外出したってのに、最悪の気分だよ。臭かったし」
「ご愁傷さまですな」
欠伸交じりの返事をしていると、急に体が宙に浮いたような感覚を味わった。
というか、宙に浮いてね?
「人間の兄貴には、もう遅い時間なんだ。さっさと寝てろ」
「ちょ、待て、下ろせ!!」
「ほら、良い子は寝る時間ですよー」
「俺のほうが少しだけ年上だ!!」
なんとかベツレヘムの腕から抜け出し、逃げるように部屋に潜り込む。
ったく、まだ眠くねえってのに。
「そうだ、ルドルフに連絡しとかねえとだな」
正直、ルドルフに頼めば大抵のことは上手くいくというのはあるんだよな。
そう思って携帯を開くと、一件の通知が来ていた。
……ルドルフから?
怪訝に思い、メールの内容を見てみると、
『書き忘れてたけど、お前らが乗り込みに行く組織の裏には、ヴァンパイアハンターもいるからな。ごめんね』
ふざけんな。
こいつ、絶対わざと書かなかっただろ!!
にしても、やっぱりヴァンパイアハンターが絡んでやがったか。
ベツレヘムも力の強いヴァンパイアなんだし、警戒されるのも当然ではあるんだけどな。
まあ、そのために俺がいるんだがな。
「てか、ルドルフはどれくらい先まで見越してんのかね」
あいつの場合、未来予知のレベルで先を見通すときがあるんだよな。
今のメールだって、俺に知らせない方が面白そうとかの理由で、帰ってきたタイミングで送りやがったんだろう。
それに、その面白そうにもちゃんと意味を持たせてくるのが怖いところなんだよな。
「はぁ……」
ベッドに寝転がり、大きな溜め息を吐く。
少し調べなきゃならないことが増えたな。
ったく、ルドルフは基本的に肝心なところを隠しやがんだよな。
今度会った時には、絶対文句言ってやる。
ついでに、依頼料も踏み倒してやる。
その時、今度はスマホのほうに通知が入った。
ということは、仕事の依頼か。
最近、立て続けに仕事入るな。
面倒だけど、生きるためだ。
メールを開き、内容を確認する。
特に変わり映えのしない、暗殺の依頼。
……暗殺が代わり映えしないって、相当感覚狂ってきたな。
ま、今更どうしようもないか。
相手は、某企業の社長さんね。
なるほど、犯罪に関する証拠はそろっていると。
なるべく早く殺してほしいが、期限は問わない。
……珍しいタイプだな、これは。
大体の依頼は、一週間以内とか書いてあるんだけどな。
この間とか、三日以内に殺してくれなんて言う無茶苦茶な依頼も入ってたな。
まあ、達成してやったけどな!
……さて。
今日は別件でも片づけますかね。