賞金稼ぎ
残酷なシーンが含まれています。
苦手な方はご注意を。
……眠い。
深夜十二時手前、俺は車を走らせていた。
目的地は、ここから数十キロ程度離れた一つのビル。
そこに、今回の標的達がいるわけだ。
「おい、カルミア」
「なんですか?」
「今回こそは、お前のお手並みを見せてもらうぜ?」
「……! 了解です!!」
こいつの本気がどの程度かはわからないが、俺が働く羽目にならなきゃいいなあ。
「よし、ここだ。車を降りろ」
なるべく小さな声を出し、カルミアに指示を出す。
ここからは、俺も一応は仕事モードに切り替えないとだな。
「エーデルさん、エーデルさん」
「どうした?」
「本当に、このビルなんですか?」
「ああ。ルドルフからの情報だし、間違いない」
まあ、疑問に思うのも無理はないか。
どう見たって、普通の会社だし。
「ここからは、極力会話は避けよう。どんな危険があるかわからない」
カルミアは静かに首肯し、先に歩き始めた俺の後ろをついてきた。
……相変わらず、気配を消すのがうまいことで。
「ここだ」
エレベーターを使うのはリスクが高いため、階段を使って上ったのだが……。
「エーデルさん、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だ……」
すっげえ疲れた。
あんまり音立てちゃいけないのに、すごく息が切れてる。
「と、とりあえず、扉を開けるぞ」
「はい」
三、二、一……。
ドアノブに手をかけ、素早く扉を開ける。
事前に得ていた情報通り、鍵はかかっていなかった。
しかし。
「動くな」
……これは、想定外だったな。
目の前には、十名程度の完全武装した男たちが立っていた。
各々が銃を持ち、俺たちの急所を狙って構えている。
「お前たち、賞金稼ぎだろ?」
「……俺たちが許可するまで、一切口を開くな」
あらら、怒られちゃった。
でもまあ、ルドルフのおかげで大体のことはわかってるんだけどね。
……例えば。
「お前たちは、ド素人の集団なんだ、ろ!!」
足に力を入れ、全力ダッシュをする。
やっぱりだな。
いきなりの攻撃に、狼狽えてやがる。
そんなに隙だらけだと、すぐに殺されてしまうぜ?
「カルミア、三人ほど任せた」
一人目。
喉笛を切り、一瞬で絶命させる。
……おっと。
「素人に毛が生えたレベルの腕前じゃあ、俺に傷一つ付けられねえに決まってんだろ!?」
飛んできた銃弾を避け、驚いたところで脳天に一撃。
これで、二人目だな。
カルミアは……。
「……なるほど」
流石というか、なんというか。
カルミアが来た当日、ルドルフに頼んで多少の情報は得ていたが……。
まあ、独学にしてはかなりうまい方だな。
背後に回り、首の裏を切り裂いた。
これで、一人目か。
やっぱ、大人数との戦いはなれてないっぽいな。
ほら、早速背後に回られてる……。
「よそ見をするな!」
「してねえよ、大馬鹿野郎が」
態勢を低くし、そのまま相手の足を薙ぎ払う。
バランスを崩したところで、そのまま心臓に一突き。
……三人目。
カルミアも、さっきの奴はやれたっぽいな。
ちょうど半分やれたな。
「おい、もう攻撃はお終いか?」
…………はぁ。
先に仕掛けてきたのは、お前らのほうのくせに。
「人を殺すってのは、それなりに覚悟が必要なんだ。お前らみたいな、普通の奴に務まるわけがねえんだよ!」
怯えた表情を浮かべ、逃げようとする五人。
きっと、俺の顔は怒りに染まっていることだろう。
ヴァンパイアに捧ぐ、か。
面白くない冗談だぜ、本当に。
「助けてください、ロベリア様!!」
ロベリア?
リストには載ってなかったはず……。
まずい!!
「動くなよ、小僧」
……くそ野郎が。
カルミアが首を締めあげられ、気絶させられていた。
首にはナイフが押し当てられており、こちらも迂闊には動けないってわけか。
……主犯格は、あいつだな。
「おい、お前らの目的はなんだ?」
「そう易々と教えるとでも?」
ですよね。
でもまあ。
「お前ら、俺の仕事を邪魔したうえに、あんな冗談まで書いたんだ。早く目的を話したほうが身のためだぜ?」
「冗談だと?」
「死体の横に書いてあった奴だ」
「……ああ、あれか。依頼に含まれていたもんでね」
依頼か。
……なるほどねえ。
「ところでだが、お前らは、ヴァンパイアの存在を信じているのか?」
「……どういうことだ?」
「純粋な疑問だよ」
「……さあな。でもまあ、この仕事をしていたら、不可解な出来事の一つや二つ、経験しているもんだ。そういうのがいてもおかしくはねえと思うくらいにはな」
「……そうか」
こいつらは、ヴァンパイアを崇めるタイプの組織だと踏んでたんだがな。
それが違うとなると、また新しく問題が増えそうだな。
「ヴァンパイア、会ってみたくないか?」
「は?」
「会えるんだったら、会ってみたくはないかな?」
「お前、何を言って」
「それじゃ、後は頼んだぜ。ベツレヘム」
その一言を合図に、凄まじい熱と光が背後で起こった。
そこから一つの影が走り出し、未だに気絶しているカルミアを抱え込んだ。
呆気にとられ、硬直したままのロベリア。
だが、それも一瞬の間で、すぐにその影に向かって切りかかった。
しかし。
「残念、外れでしたー」
影はそれよりも速く、俺の真横に移動してきた。
「兄貴、少しの間お願いな」
はいはい。
カルミアをお姫様抱っこする形で渡され、そのまま影、ベツレヘムはロベリアに向かって走り出した。
「ごめんな、少し熱いかもしれないぜ」
ロベリアの腹を掌で打った、その瞬間。
ベツレヘムの手を中心に発生した炎に呑まれ、そのままの勢いで後方の壁に叩きつけられた。
「兄貴、終わったぜ」
「おう、お疲れさま」
相変わらず、派手な殺し方だな。
「とりあえず、車に戻ろうぜ。ごめんな、行きは走らせちまって」
「問題ないよ。久しぶりの外なんだ。思いっきり走らなきゃ損だぜ」
「そうか」
……はぁ。
車に向かいながら、大きな溜め息を吐く。
さっきのロベリアとの会話でわかったことが一つ。
こいつらには、まだバックがいる。
……まあ、心当たりがないといえば嘘になるが。
ったく、面倒事が増えるのは本当に……。
「おや、失敗したか」
賞金稼ぎを使って殺すの、行けそうだと思ったんだがな。
「会長に、なんて言い訳をしようか……」
賞金の手配だって大変だったのに、失敗したなんて知れたら殴られてしまう。
……老齢の体には厳しいな。
「師匠」
「どうかしたか?」
「先ほどのは、能力……でいいんでしょうか?」
「ああ。現段階で二番目に強い能力保持者だな」
炎を操る。
内容は単純だが、なかなかに厄介だな。
あの子の才覚も凄まじいことだし、できれば戦いたくはないな。
「おっとっと」
双眼鏡を外し、ビルから視線を逸らす。
「どうかされましたか?」
ふむ。
「あのヴァンパイアと一緒にいた子がいるだろ? あの子、噂以上に凄い子だぞ?」
「……なにがあったんですか?」
「睨まれた」
「え?」
「この距離で、あの子から睨まれたのだよ」
末恐ろしや。
私の冗談が、それほど気に入らんかったのか。
「さてと、私たちもそろそろ帰ろうじゃないか。会長からの叱責も待っていることだろう」
「そ、それは、できれば避けたいですね」
「まあ、殴られないことだけ祈っておこうかね」
会長は、私以上に厳しい方だからな。
……おお、そうだったそうだった。
このルーティンを忘れるとはな。
「我らハンターに祝福のあらんことを」
胸元で十字を切り、祈りの言葉を呟いた。
ベツレヘムは、人に見つからないように隠れながらエーデルたちの車を走って追いかけていました。
ヴァンパイアの身体能力的には楽勝だそうです。