治療
おぼろげだった意識が、段々とはっきりしてくる。
それに伴い、俺が誰かに背負われている事に気が付いた。
「……ベツレ、ヘム……?」
「あ、起きたの、兄ちゃん?」
「ああ。まだ脳震とうが残って……。いっつ……!!」
全身が痛い。
腕と頭が特にやばい。
……久しぶりにはしゃぎすぎたな。
「ベツレヘム。お前の方は大丈夫なのか?」
「兄ちゃんのおかげで、片腕イカれた。でも、それ以外は大丈夫だよ」
「……そうか」
流石は、俺の自慢の弟だ。
頑強さが桁違い。
とはいえ、傷を治さないとやばいはずだ。
……まあ、今回はカルミアという保険があったからこそ、あれだけ暴れられたのだが。
「おっ、そろそろか?」
「うん。ちょっとだけ飛ばすよ」
「おう」
力の入らない腕で、全速力のベツレヘムになんとかしがみつく。
そして──
「──到着!!」
「ありがと、ベツレヘム」
そう言ってベツレヘムの背から降り、体の調子を確かめるように首をゴキゴキと回す。
……うん、骨折してるところがやばいな。
それに、思った以上に頭部近辺のダメージがえげつない。
ここ最近の仕事だと、ここまでの負荷では追わなかったから、ある意味では新鮮だが。
「……なあ、兄ちゃん」
「ん?」
いつになく神妙な面持ちで、ベツレヘムが話しかけてくる。
「兄ちゃんは、あのヴァンパイアハンターの事──ベルの事、どのくらい信用してる?」
「微塵も信用してない」
俺は即答した。
……多分だが、あいつはまだ何か秘密を隠し持っている。
それも、俺にとって不利なものを。
それに──
──さっきの戦いの間も、ずっと奴の気配を感じていた。
ベツレヘムが勘付いたかどうかは分からないが、俺が全力を出さなかった時点で、何となく察しているかもしれない。
……だが。
「一応言っておくぞ。信用しないからって、あいつを家から追い出すなんてことはしないからな」
「分かってるよ。兄ちゃんの事だもん」
そう言ってベツレヘムは、ニッと笑った。
「でも、兄ちゃん。中途半端な優しさは、破滅を呼ぶこともあるよ?」
「……知ってる。というか、お前はそんな事をどこで学んだんだ」
「ゲーム」
……しばらくゲーム禁止にしようかな。
「あと、もう一つ。俺があいつを置いてやっているのは優しさなんかじゃない」
「利用?」
「そゆこと。あいつには、利用価値がある。いざとなれば、ハンター協会との交渉にも使えるかもしれない」
「かもね」
「なんだ、気のない返事だな」
「だって、兄ちゃんがそんなことする人間じゃないって知ってるもん」
「……そうでもねえぞ?」
「そうだよ」
……まあ、そんな事をする覚悟がないのは事実だが。
にしても、ベツレヘムにここまで見透かされるとはな。
……双子だし、当然か。
「ま、いいや。とりあえず、中に入ろうぜ。いい加減に治さないと、流石にやばい」
「だね。俺も兄ちゃんほどじゃないけど、結構やばい」
そんなことを言いながら二人で苦笑いをし、俺たちは夜の街に響かぬよう、静かに扉を開けた。
「二人とも、やりすぎです」
「「すみません」」
傷に障らないように正座をしながら、二人してカルミアに謝る。
「とりあえず、パパッと治療しますけど、説教はたっぷりさせてもらいますからね」
「はい」
「ごめんな、カルミアちゃん」
俺たちが申し訳なさで頭を垂れている間にも、カルミアは手際よく傷の様子を見ていた。
そして──
「『ヒール』!!」
そう叫んだ瞬間、カルミアの手が淡い緑色に光った。
「はい、エーデルさんはこれでおしまいです。もうあらかた治ったでしょう?」
「ああ。サンキュな」
「これに懲りたら、二度とこんなになるまで遊ばないでください」
「はい」
……やっぱ便利だな、カルミアの能力。
あれだけの傷が、一瞬にして治るとは。
骨もきれいにくっついている。
それに、上手く使いこなせるようになってる。
少し前にルドルフのところに連れて行ったのが、功を奏したな。
殺しに関しては俺が、能力に関してはルドルフがそれぞれ修行を付けている。
……こりゃあ、近いうちに俺の事も追い越されるかもしれないな。
まあ、それはそれで楽しみだが。
「それじゃ、次はベッツさんですね。『ヒール』!!」
「……おぉ。うん、バッチリだ」
「それなら良かったです。ベッツさんの方は傷も浅かったので、すぐに治せましたし。でも、ベッツさんももう二度としないでくださいね?」
「はーい」
ベツレヘムの方も感心した様子で、治った傷口とカルミアの顔とを見ている。
「それじゃ、私はもう寝てきます。まだ夜中ですし、眠くて眠くて……」
「悪いな、叩き起こしちまって」
「ほんとですよ。説教は、明日、やりますから……。……ふぁああ。おやすみなさい」
「「おやすみー」」
眠そうな声と大きなあくびを残し、カルミアはリビングを後にした。
「……カルミア、随分と能力操作が上手いな」
「ルドルフが見てるからな」
「ルドルフが……。……どうりで」
こいつも、ルドルフに能力の稽古をつけてもらった口だからな。
あいつの手腕が分かるのだろう。
「……ルドルフは、そのー……大丈夫なのか?」
「年の事か? まあ、大丈夫だろ。あのおっさん、結構頑丈だし」
「そうだけど……」
「それに、カルミアの能力はお前と違って戦闘向けじゃない。多分だが、扱い方と精密性を鍛えてるんだろ」
「……まあ、それもそっか」
事実、ベツレヘムの修業は大変だったと、以前ルドルフから聞いた。
一瞬でも気を抜けば、死に直結する。
そんな能力を──制御もまともにできてない頃に──相手取って修行してたんだから、あのおっさんはやっぱり凄い。
今の俺なら──いや、無理だな。
無理やり抑えることはできても、修行なんてできる気がしない。
「ふぁ、ぁああ……」
「もう眠いのか?」
「うん。兄ちゃんと戦う前に、一徹してたから」
「おまっ……、よくそんな状態でやったな」
「これでも、ヴァンパイアですから。部屋にまだストックが一袋あったから、それを飲んでから寝るよ」
「ああ、分かった。それじゃ、おやすみ」
「おやすみー」
扉が閉まり、明るい声が消え、静かなリビングには俺一人だけが残された。
……俺もそろそろ寝なきゃだな。
流石に今日は、疲れた。
普段の仕事の数倍は疲れた。
こういう時は、寝るのが、一、番……。
そんな事を考えているうちに、俺はプツンと糸が切れたように体を落とし、カーペットの上で寝息を立てた。
そろそろカルミアも活躍させたいです。




