懇願
「……どういうことだ?」
純粋な疑問を、バーダックにぶつける。
俺は今まで、命乞いをされたことはあれど、殺してくれだなんて言われたことがない。
……こいつは、何を考えているんだ?
「俺は、この五年間、ずっとラバンジュラに利用されてきたんだ……」
「……で?」
「苦しかった。つらかった。罪のない人間を殺すのは、本当に苦しいんだ。分かるか、この痛みが?」
「いいや、まったく」
そんな事いちいち考えていたら、この仕事は務まらない。
「……そうか。殺し屋と言っていたな。お前に同意を得る方がおかしかった。でもな、本当につらいんだ」
積年の想いを吐き出すように、バーダックは言葉を続けた。
「あいつといる間、俺はずっと怯えていた。ラバンジュラは、殺しをしなければ、俺をヴァンパイアハンターに売ると言ってきたんだ。脅してきたんだ」
「……へえ」
……少しばかり、この話に興味が湧いてきた。
最初はくだらない身の上話かと思っていたが、どうやらそうではなさそうだ。
……ヴァンパイアと、ヴァンパイアハンターの存在を知る一般人、か。
「なあ、お前はヴァンパイアハンターじゃないんだろ?」
「ああ。ただの殺し屋だ」
「なら、俺を殺してくれ。一思いに。お前なら、ハンターみたいな残虐なことはしないんだろ?」
「……まあ、な」
この間の仕事を思い出し、若干言葉が詰まってしまう。
それにしても、どこのヴァンパイアも一緒なんだな。
俺の叔父も、ヴァンパイアハンターはヴァンパイアを苦しめて殺す、みたいなこと言ってた。
まあ、子供を躾けるための脅し文句的な意味でもあるんだろうけど。
「なら、お願いだ。頼む。俺を殺してくれ。俺は、俺は……これ以上、人間を殺したくないんだ……」
涙を流し、バーダックはそう懇願してきた。
…………。
「……いいぜ。俺が、責任もって殺してやる。……まあ、腕を切った時点で、出血多量で死ぬことは確実なんだけどな。でも、その前に、なるべく楽に殺してやる」
「本当か!?」
「ああ。言ったろ? 俺は殺し屋だ。殺しの依頼なら引き受ける。……ただし、少しだけ条件がある」
「……なんだ?」
怪訝そうな表情で見つめてくるバーダックに、俺は淡々と言葉を告げた。
「お前の能力で、ラバンジュラが見える位置まで連れてってくれ。場所はどこでもいい」
「……それだけか?」
「いや、もう一つだけ。俺が合図を出したら、ラバンジュラの目の前に移動してくれ」
「……承知した」
「あんがと。あ、一応言っておくが、殺しのタイミングは俺に任せてくれよ?」
「分かった。この地獄から解放されるなら、なんだって聞こう」
その言葉と同時に、バーダックの手が肩に乗った。
そして、次の瞬間には、また別の路地へと場所が変わっていた。
……まったく、あの男はなんて事をさせるんだ。
私に、人殺し?
……できるわけがない。
だが、もしここで殺さねば、奴と協会との間に軋轢が生じてしまう。
……本当に面倒だ。
「……ラバンジュラさん。私は、ヴァンパイアハンターです」
「ああ、知ってるよ。それがどうかしたかい? ああ、名刺交換でも……」
「私の標的は、あくまでもヴァンパイアです。ですので……」
……広さは十分。
ラバンジュラの話を無視し、私は──
「今から行うのは、あくまでも拘束です」
──足に力を籠め、全力で能力を発動した。




