瞬間移動
「どうしたのですか? あなたともあろうものが、あんなにあっさりと引き下がるだなんて……」
「お前が単純すぎるからだよ。それに、俺の前だったから、全力を出しづらかったんだろ? どうせ、俺に能力を見せる気もねえんだろうし」
「…………」
はい、図星ー。
「そんな状態で戦われても、足を引っ張られるだけだ」
「……では、何か考えが?」
「まあな」
ま、ベルが了承するかは分かんないけど。
「なあ、ベル。俺はさ、事前にこの仕事の詳細をある程度知っていたわけだ」
「はい。それが何か?」
「つまり、ヴァンパイアがいることも知っていた。だから、銀のナイフもちゃんと持っているんだ」
「はい。それで? ……いや、ちょっと待ってください。少々、嫌な予感がするのですが……」
「俺がバーダックを殺すから、ベルはラバンジュラの方を殺してこい」
「なんてことを言いだすんですか!? 私は、ヴァンパイアハンターですよ!?」
「知るか、そんなこと。一度俺の仕事に協力するって言ったんだ。最後まで付き合え」
「ふざけないでください。そんなこと、絶対にできません」
「でも、ラバンジュラ相手だったら、能力も本気も使わずに戦えるだろ? それに、俺に協力したってことで、俺からの信頼も得られる」
「…………」
「あと、一応言っておくと、俺はいつでもお前を殺せるような状態なんだからな? そこんとこ、分かってるのか?」
自分が未だに抱えられているということを思い出したのか、ベルは黙り込んだ。
「ということで、ベル。お願いな。バーダックの方は、俺が殺してやるから」
「……絶対に、あなたのことは許しませんからね」
「それは結構なことで。それじゃ、さっきの現場に戻るぞ」
タッと近くの壁を蹴って方向転換をし、そのままラバンジュラたちの方へと走り出す。
……足音。
あと数十メートルでバーダックと遭遇、といったところかな。
でも、こっちとしては、二人同じ場所で仕留める方がありがたいんだよなぁ。
ルドルフにさせる処理の手間が減るし。
そんなことを考えながら、何度か方向転換を行い、バーダックを上手いこと都合のいい方向へとおびき寄せていく。
そして。
「よっ、また会ったな」
「……バーダックはどこに行った?」
「もうすぐ来るんじゃね? ……ほら」
飛び上がり、バーダックの攻撃を避ける。
それと同時に、腕の中のベルを着地点から少し離れた場所へ放る。
「それじゃ、作戦通りお願いな」
「…………」
無言のままベルが走り出し、それを阻止しようとバーダックが動いた。
「させるか!!」
銀製のナイフを取り出し、バーダックの腕を切り落とす。
「ぐあっ!!」
「銀は初めてか? 痛いだろ?」
「この、やろ……!!」
「うおっ!?」
残った腕で俺をつかんできやがった!?
……あ?
「……なるほど、これがお前の能力か」
俺とバーダックは、体勢は変わらぬまま、ベルたちのいる場所とは全く別の路地にいた。
……瞬間移動、といったところか?
「……お前たちは、俺ら二人を殺しに来たのか?」
「ああ、そうだ」
「……そうか」
その瞬間、ぼさぼさの前髪の隙間から見える瞳から、涙が数滴零れた。
「お願いだ、早く殺してくれ」
涙をこぼしながら、バーダックはそんな言葉を呟いた。




