ベルの弱点
──コツ、コツ、コツ。
暗闇になか、革靴の音がやけにうるさく響いている。
ここからの距離は、およそ五十メートル。
人通りの少ない路地だから、標的の位置を把握しやすいな。
もうちょっとで、俺の行動圏内。
あと十歩。
路地の反対側に視線をやり、ベルの様子を確認する。
「…………」
人とやるのが初めてだからか、かなり緊張している様子だ。
……まあ、しょうがねえか。
元々、あんまり戦力に数えてはいなかったし。
今回は、見学だ。
見て、そして学べ。
俺がやっている仕事と、お前らがやっていることとの違いを。
さて、そろそろだな。
三、二、い──
「どうした、バーダック?」
「……不審者を、見つけた」
まずい!!
バーダックと呼ばれたそいつは、音もなく標的の後ろに現れた。
「ベル!! いったんこの場から離れ──ぐおっ!?」
一瞬で距離を詰められ、後頭部を思いきり地面に叩きつけられた。
くそっ、なかなかに力が強いな!!
細身に見えたから、油断した!!
「エーデル!?」
「こっちは大丈夫だから、早く逃げろ!!」
「逃がすか!! 追え、バーダック!!」
「……承知した」
バーダックはとてつもない速度でベルに近づき、そして──
「……あなたが、ヴァンパイアね?」
俺でさえもゾッとするような表情を浮かべたベルに、思い切り蹴り飛ばされた。
「ナイスだ、ベル」
「油断していたんですか?」
「ま、ちょっとだけ」
ふらふらと起き上がりながら、胸ポケットに手を入れる。
「よしっ」
取り出したナイフを鞘から取り出し、静かに構えをとる。
「ラバンジュラというのは、お前で間違いないな?」
「ああ。それで、君たちは?」
「お前を殺すよう依頼された殺し屋、とだけ言っておく」
「私は、ヴァンパイアハンターです」
「……なるほど。確かに、俺たちを狙いに来たようだ。だが、どんな殺し屋だろうとヴァンパイアハンターだろうと、バーダックには敵いっこないさ!!」
「……あっそ」
足を一瞬だけ弛緩させ、そのまま全力で踏み込む。
「ハッ!! やっぱお前、こういうのに慣れてないだろ!?」
「な!?」
俺に合わせて飛び込んできたバーダックの目の前で、軽々とジャンプする。
そのまま中で一回転し、細く、オオカミのように背を曲げたバーダックの姿を視界の中心に入れる。
三、二、一。
「グアッ……!!」
「へっ、ざまあみろ!!」
背中に本気の拳を入れ、そのまま足払いをかけると、バーダックは軽い音を立てて地面に倒れた。
「俺の標的は、あくまでもお前なんだよ!!」
「ヒィッ!!」
目を見開き、悲鳴を上げているラバンジュラへ、ナイフを構える。
この位置からなら、簡単に殺せるな。
再び足に力を入れ、そのまま踏み込み──
「させ、ない……!!」
「うおっ!?」
急に割り込んできたバーダックに、ナイフが深々と突き刺さった。
「ラアッ!!」
「おわっ!?」
薙ぎ払うように振られた腕に弾かれ、俺はそこそこのスピードで壁に激突した。
「ヴァンパイアは、私の獲物です」
そう呟きながら、ベルが空中からバーダックに攻撃を仕掛けた。
しかし。
「なっ!?」
途中でナイフを下ろし、そのまま後方へと下がっていった。
……ハァ。
ベルの視線の先には、にやけ面でバーダックを守るように大手を広げて立っているラバンジュラがいた。
「やはりそうだ。お前たちヴァンパイアハンターは、人間を殺せないんだろう?」
「くっ……」
バーカ、そんな反応したら、バレバレだっての。
……さーてと。
「……おい、ベル」
「なんですか?」
「一旦退くぞ!!」
「キャッ!?」
片手でベルを抱え上げ、俺は全力疾走でその場を離れた。




