誘い出す
「…………」
「おいおい、あんま不機嫌なままだと、仕事に支障きたしちまうぞ」
「…………」
無理やり車に連れ込んだせいか、ベルはずっとムスッとしたまま車窓の外を眺めている。
「あのな、お前は別に見ているだけでいいんだよ。なにも人を殺せって言ってるわけじゃねえんだからさ」
「同じことです。見殺しにしなければいけない時点で、それは殺人と同じです」
「そんなもんかねぇ」
俺にはどうも、その感覚が分からんな。
直接手を下した奴とそうでない奴とでは、絶対的な差があるし。
「……あ、でも、手を出したくなったら、いつでも出していいんだぜ?」
「安心してください。そんな時は絶対に来ないですから」
「ふーん。ま、いいや。とりあえず、今回のターゲットの事を話しておくぞ」
今回のターゲットは、とある大企業の社員の一人。
そこそこの地位に就いており、働きぶりも悪くなく、人望もそこそこある。
……そう、特筆すべきは、本人ではない。
問題があるのは、ターゲットの友人。
そいつについては、あまり情報を得られていない。
だが、一つだけ分かっていることがある。
それは、ターゲットの邪魔になる人間を殺している、ということ。
送られてきた証拠からは、殺人に対する慣れが見られる。
恐らく、常習的に殺人を行っているはず。
だが、なぜターゲットに協力しているのかは分からない。
そこで、ターゲットを使って本命を誘い出す、という作戦を考えた――
「――てな感じだ」
「……証拠って、そんな手練れがそう簡単に残すものなのですか?」
「いや、現場にはまったく残っていなかった。ま、今回使ったのは、被害者の一人が持っていたハンカチだ。依頼者、被害者の母親が持ってきたんだが、こいつに血が付着しててな。それを使って、ある程度の手口を割り出した」
「……どのような方法を使ったのですか?」
「それは、企業秘密ってことで」
流石に、ルドルフの事をぺらぺらと喋るわけにもいかないしな。
「ま、そんなわけだから、ターゲットをささっとさらって、ささっと本命ぶち殺すぞ」
「ノリが軽すぎませんか?」
「そうか? ……あ、そうだ。一個重要な事を言い忘れてた」
「なんですか?」
「今回の事件、もしかしたらヴァンパイアが関わってるかもしれないぞ」
そう言った瞬間、ベルがこちらに跳びかかってきた。
「なんでそんな重要な事を早く言わなかったんですか!?」
「ちょっ、一旦離れろ!! 前が、前が見えねえから!!」
どうにかベルを宥め、車を車線に戻す。
「お前、死ぬ気か!?」
「す、すみません……。少々取り乱してしまいました」
少々ってレベルじゃなかったぞ。
「ま、いいや。とりあえず、そんなわけだから、多少覚悟しておいてくれよ」
「……承知しました。というか、そう言った事情を離してくだされば、最初から素直に向かったのですが……」
「いや、仕事に参加しない人間に、そう易々と情報を話せるわけねえだろ」
「…………」
再び黙りこくってしまったベルを横目に、車は少しずつ速度を上げていく。
……もう一つの情報も、話しておいたほうがいいのだろうか。
……いや、よそう。
黙ってた方が、面白い。




