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供物

残酷な描写が入っています。苦手な方は注意してください。

 草木も眠り、一部の人を除いて皆が寝静まっているような丑三つ時に、俺はカルミアの部屋を訪れていた。

 こんな時間に女の部屋に行く用事。

 それはもちろん夜這い……ではなく。


「おい、カルミア。仕事の時間だぞ」

「はい。わかりました」


 今日は、こいつを暗殺の現場に連れてくのだ。

 こいつの腕前がどの程度のものかを知る必要もあるし、こいつが仕事をしてくれるのであれば俺は働かなくていいのだ。


「今回の依頼は……、ストーカーの殺害だな」

「ストーカー!?」

「依頼者の友人が以前からストーカーの被害にあっていたらしくてな。最近ではその行為もエスカレートしてきて、夜道を襲われかけたこともあるらしい」

「そういうのって、警察に相談したりするんじゃないですか?」

「なんか事情でもあるんじゃねえの? ま、俺は依頼されたら殺すだけだ。……一応、殺す相手のラインはあるが」

「そうなんですか?」

「基本的に、俺は裁かれていない犯罪者を対象に殺しているんだ。一種の復讐屋みたいなものだと思ったらいい」

「……そうなんですね」

「とりあえず、今から標的の家まで車を走らせるぞ」

「了解です」




「よし、ここだな」


 家から二時間程度車を走らせ、ようやく標的の家に着いた。


「……普通の民家ですね」

「まだ標的は帰ってきてないし、しばらくは車で待つぞ」


 それから数十分が経過し、いい加減眠くなってきた頃。


「エーデルさん、全然来なくないですか?」

「ん? え、ああ……」

「……寝てましたか?」

「いや、大丈夫、寝てない……。にしても、おかしいな。俺の調べた感じだと、もうとっくに帰ってくる時間なんだがな……」

「どうしますか? 家の中でも覗きますか?」

「うーん……、そうするか」


 車を降り、標的の家の周りをぐるりと一周する。

 すると、


「おい、カルミア。ちょっとこっち来い」

「どうかしました……か……」


 二階の、しかも家の裏側の死角になっている部分の窓ガラスが割られていた。

 この感じだと、何者かに侵入されたようだな。


「しょうがない。あの穴から侵入するぞ」


 …………よし、無事に侵入成功。

 カルミアは……、よし、ちゃんと入ってきたな。


「標的に会ったら、迷いなく殺せ。後処理に関しては、俺がちゃんとするから」

「了解です」


 まずは、この家のどこに標的がいるのかなんだが……。


 その時、嗅ぎなれたにおいが家の中を漂っていることに気が付いた。


「……カルミア。さっきの指示はやっぱりなしだ」

「何かあったんですか?」

「後で説明する。今は俺について来い」


 それだけ言って、俺は臭いが濃ゆくなる方向へ静かに移動した。


 ……ビンゴだな。


「この扉の向こうだ」


 ここまでくると、流石に察しがついたのだろう。

 俺の言葉に静かに首肯し、扉をゆっくりと開く。


「うっ……!!」

「これは……、ひどいな」


 部屋の中には、一つの死体が転がっていた。

 ……何度も刃物で切り付けられたみたいだな。

 周りにもかなり血が飛び散っている。


「これって、空き巣の犯行なんでしょうか」

「いや、それにしては手つきが慣れ過ぎている」


 別の殺し屋がやった可能性もあるが……。


「エーデルさん。ここを見てください!」

「ん? どうかしたか?」


 死体の横を指さし、何かを発見した様子のカルミア。

 ダイイングメッセージでも見つけたのか?


「……なるほどな。そういう事か」


 思わず、ぎっと歯を食いしばってしまう。

 死体の横には、血文字でこう書かれていた。


『ヴァンパイアに捧ぐ』


 たまにいるんだよな、こういう勘違い野郎は。

 第一、ヴァンパイアのための死体なら、もう少し血が飛び散らないような工夫をしろってんだ。

 って、そんなことよりも……。


「こういう輩のせいで、俺はいっつも仕事の報告に困るんだよ」

「え、そういう問題なんですか!?」

「こんな、素人に毛が生えた程度の出来だと、証拠が隠しにくいんだよ」

「そ、そうなんですね……」

「ま、しゃあなしだ。一応、隠蔽の手段は持ってるし、あとはそいつに頼むか」

「ということは……」

「今回の仕事はこれにて終了だ。……いや、まだか」

「どういうことですか?」

「これをやった奴を見つけ出して、吊し上げるぞ」


 ベツレヘムにこれを食わせるわけにもいかないしな。

 ……なによりも。


「こいつの手口に少し見覚えがあるんだ。恐らくだが、俺の仕事を何度か邪魔してきている。それに、仮にヴァンパイアの存在を知っていてやっているのなら、情報が外部に漏れる前に抹殺しなきゃならない」

「確かに、ヴァンパイアのことが世に知れるのはまずそうですね」

「てことで、俺はこの件についてもう少しだけ捜査してみるわ。お前の実力を知るのが目的だったんだが……それはまた今度だな」

「とりあえず、今日はもう帰りましょう」

「そうだな。俺もそろそろ眠くなってきた」

「死体を見た後に寝れるって、結構すごいですね」

「昔からこんな生活を送ってきてるしな。ベツレヘムには……、輸血用の血を少し拝借してくれば大丈夫だろ。なんか、輸血用だとあんまり美味しくないらしいけど、我慢してもらうしかないな」


 てことは、あいつのところに行かなきゃなわけだ。

 血のパックと証拠隠滅、あとは情報とその他諸々の依頼をして……。

 ……面倒だなあ。

 ……あいつ、まだ起きてんのかなあ。

 ……起きてなかったらいいなあ。

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