年齢
脂っぽい体からナイフを抜く。
お仕事終わり……!!
今日の出来は、中々良くないか?
証拠隠滅はもちろんのこと、殺しもスムーズに行えた。
抱えてる仕事も、残りたった二件。
しばらくは、ゆっくり休めそうだな。
「…………」
「お帰りなさいませ」
この野郎、もう起きてきやがったか。
リビングに入ると、いやに姿勢正しくソファに座ったベルがいた。
ベッドの中で布団の温かさを堪能しとけよ。
「おい、もっと寝ないと肌に悪いぞ」
「……私には関係のない話ですので、ご心配なく」
「若えんだから、もっと美容にだな……」
「師匠よりも口うるさいですね、エーデルさんは」
「な……! ……俺、そんなに口うるさいか……?」
「はい、かなり」
まあ、さっきまではわざとそう言ってたが、普段からそうなのだろうか……?
仮にもカルミアの師匠をしてたんだから、あいつにもそう思われていたのではないかと、少し不安になってきた。
「……はぁ」
「どうかされたのですか?」
「いや、なんでもねえよ……」
「それで、お仕事はいかがでしたか?」
「何の変哲もない暗殺だったよ」
「暗殺というだけで、変哲あるのではないのですか?」
「俺にとっては、日常なんだよ」
「……ご苦労なさってるんですね」
「そうでもねえよ。それより、ベルの方が大変だろ。人間相手より、ヴァンパイア相手の方が難しいだろうしな」
「まあ……、そうかもしれませんね」
「俺が言うのもなんだが、若いのに本当に大変だなあ……」
「お互い様なんじゃないですか?」
まあ、同年代のほとんどが働いている間に寝て、寝ている間に人刺してだからな。
……異常なんだろうな。
「というか、ベルって今何歳なの?」
「……私は別に構いませんが、女性に歳を聞くのはどうかと……」
「あ、いや、その……」
「私は気にしないので、大丈夫ですよ」
分かりやすく焦り、口をごにょごにょしだした俺と対照的に、いつも通り平然としたベルとの様子は、傍から見ればさぞかし滑稽だろうな。
「……十八歳です」
「へ? 何が?」
「年齢がですよ。十八歳です」
「えっ、まだそんな歳なのか!?」
「はい」
「俺よりも二つ下じゃねえか……」
「そう言うエーデルさんは、二十歳なんですね。……てっきり、三十くらいかと……」
……ダンディーに見えてたってことだよな、うんそのはずだ。
「十八歳で、ヴァンパイアハンターか……。真っ当に生きてりゃ、雑誌読んで、服屋行って、ボーイフレンドと遊んで……ってしてる頃じゃねえのかよ」
「同年代の事はあまり分からないのですが、そうなんですか?」
「知らん。そうなんじゃねえの?」
お互いに首を傾げる。
二人揃って、世間の一般常識に疎いな……。
「まあ、幾ら想像したって、俺らには関係のない話か」
「ですね」
「……足を洗おうと思ったことはないのか?」
「ハンターになってからは、一度もありません」
「そうか……。まあでも、今の内にやめておいたほうが良いと思うがな」
「どうしてですか?」
「……いつか、お前を手にかけることになるかもしれねえからだ」
「……我々と戦う気ですか?」
「いやなに、今すぐにって話じゃない。当分は、そんな馬鹿なことしねえよ。お前らの方から、馬鹿なことをしてきた時の話だ」
「安心してください。私がいる限りは、そんなことになりませんので」
「そうだと良いんだがなあ……」
ベルの言わんとすることは分かる。
最悪、ベルを人質にとることだってできるし、拷問して場所を吐かせることだってできる。
あいつらにそんなものあるかは知らんが、俺の事を信頼してるぞ、っていう証拠であり、鎖なわけだ。
……俺がどんな人間を殺すかってのを知っての事だろうな。
「……って、もう夜明け前か。そろそろ自分の部屋に戻っときな。人間、寝れるときに寝とくもんだぞ」
「先ほど、充分に寝かせていただいたので、大丈夫です」
「いいから。それに、俺が寝ている間に、またカメラなんかをつけられちゃ、たまったもんじゃねえよ」
「……気付いてたんですか……!?」
「あったりまえだ。殺し屋舐めんな。てなわけで、さっさと部屋に戻れ」
「……分かりました。それでは、失礼します」
「あ、そうだ。ちょっと待て!」
リビングの戸を開けようとしたベルを呼び止める。
「……なんですか?」
「おやすみ、ベル。良い夢見ろよ」
「…………」
せっかく挨拶した俺を無視し、ベルは無言で階段を上っていった。




