家事
……ゴクリ。
「こちら、ビーフシチューでございます。有り合わせの材料で作ったのですが、もしもお口に合わないようでしたらお申し付けください」
「おいしそー!!」
「……これ、ほんとにうちにある材料だけで作ったのか?」
「はい」
プロの料理人が作ったとしか思えないレベルなのだが。
香りも見た目もめちゃくちゃいい。
「そ、それじゃ、いただきます」
「いただきまーす!」
……美味かった。
正直、ここまでとは思わなかった。
「ねえねえ、ベルちゃん! 今度、時間があったら私にも料理教えてくれない?」
「ええ、いつでも」
「やったー!」
やけにハイテンションだな、こいつ。
まあ、久々に同年代の同性と話せてうれしいのだろう。
「じゃ、俺はベツレヘムに食事をやってくる」
「……血液ですか?」
「そゆこと。あ、この家は自由に使ってくれ。……俺の書斎と地下室以外は」
「承知しました」
「はいベツレヘム」
「サンキュ!」
お皿に移した血液を美味しそうに啜る。
「……ごちそうさま!!」
「はいよ。じゃ、皿を」
「ほい」
皿を受け取り、ゆっくりと腰を上げる。
「ゲームもほどほどにな」
「わかってるよ。……もう少しでハイスコア更新できそうだから、それまでにしとく」
「オッケー。それじゃあ、おやすみ」
「うん!」
「……まだ起きてたのか」
「ハンターですので」
そういやハンターも、ヴァンパイアを狩るために活動時間を合わせてんのか。
「部屋は適当なところを使ってくれ。無駄に余ってるからな」
「ありがとうございます」
「……なにしてんの?」
急に手を掴まれたんだけど。
「いえ、皿を洗おうかと」
「いいよ、そんくらい」
「ですが……」
「……分かった。その代わり、割ったら弁償だからな? そこそこ高価な奴だから、気を付けてくれ」
「…………」
「そういうことで、俺が洗うからな」
一瞬硬直した隙を突き、スッと流しで皿を洗いはじめる。
「まあ、この家に置いてあるものは全部その辺に売ってある安物だから、別に割っても大丈夫だからな?」
「……騙したんですか?」
「騙される方が悪い。それに、こういうのは自分でしたい派なんだ」
元々家事を自分一人でやってた名残かもしれないが。
「……多分だけど、しばらくはハンターの仕事もないんだろ?」
「まあ、はい。そうですね」
「じゃあ、ここにいる間だけでも普通の人間らしい生活リズムに整えておけ」
「…………」
「大丈夫、安心しろ。うちの夜更かしヴァンパイアは、夜な夜なゲームをしてるだけだから」
「……ゲームなんてするんですね」
「ああ。今度一緒にやるか?」
「……いえ、遠慮しておきます」
やってみると結構楽しいんだけどな。
シューティングゲームはあいつがダントツで上手いが、落ちゲーだけは俺も自信がある。
「……ところで、あんたは俺が仕事する間もついてくるのか?」
「はい」
「じゃあ、邪魔だけはしてくれるなよ?」
「重々、承知しております」
「ならいい」
割って入られて万が一殺してしまっては、目覚めも悪いからな。
「……ついでに聞くけど、ハンター協会の場所とかって……」
「教えません。襲いに行く可能性が十二分にもありますので」
「ですよねー……」
まあ、いざという時はこいつ使えばいいか。
「ほら、良い子はもうおねんねの時間だ」
「ですから……!」
「いいから、今日は寝とけ。俺は今から仕事に行かなきゃならんのだ」
鳩尾に打った拳を抜き、そのままベルを肩に担ぐ。
こいつ、疲れが相当溜まってるっぽかったからな。
目の下に隈も出来てたし、睡眠時間も削っていたのだろう。
……ここにいる以上は、快適に、だ。
ハンター協会からあらぬ疑いをかけられたくはない。
……そしてついでに。
「じろじろ見てんじゃねえぞ、ごみ共が」
バチっと音を立て、隠しカメラと盗聴器が壊れた。
少しの間は泳がせておいたが、流石に四六時中生活を覗かれるのは気分が悪い。
まったく、いつの間にこんな数隠したのやら。
ベル、こいつを放っておくと、やばいかもしれないな。
「ほいよ、おやすみー!」
その辺の部屋にあったベッドにベルを寝かせ、そのまま俺は書斎へと向かった。




