弟子
腹抉ったし、流石に死ねるかと思ったんだけどな……。
意識が急速に明るくなっていくのを感じる。
まあ、何回か体験した感覚だし、もう慣れた。
死にかけた後に目が覚めると、こんな感じになるんだよな。
「……エーデルさん!」
「よう、お帰り」
ルドルフと……カルミアか。
カルミアの顔が若干涙ぐんでいるように見えるのは、気のせいだろうか。
ルドルフは、相変わらずだな。
……って、あれ?
「俺、結構深めに切ったと思うんだけど」
「ああ。病院にすぐ連れてかないと危険なくらいだったぞ」
「なんで塞がってんの!?」
傷口が跡形もなく、きれいに塞がっている。
それどころか、痛みすら感じない。
「あー、それか。カルミアちゃんにはさっき説明したんだけど……。俺、カルミアちゃんの記憶を覗いたんだよ」
「ほう」
「で、結構深くまでいろいろと見て回ったんだけどさ……」
「……ちょっと待て。もしかしてだけど、俺との因果関係とかは……」
「もちろん見た。というか、そんなのを話したいわけじゃないんだ」
そんなので片づけるなよ!
結構重要な話だと思うぞ!?
「カルミアちゃん、ヴァンパイアの末裔です」
「……………………へ?」
「要するに、俺と同族だな。隔世遺伝」
「はあ!?」
「記憶、というか過去に遡った感じだな。それで見つけたんだけど、五代前くらいの先祖がヴァンパイアだったっぽい。で、その能力を引き出させて、お前を治した」
「……ごめん。何言ってるか理解できない。能力を引き出す? 治す?」
「俺の能力って、主に記憶操れるじゃん? だから、同じ能力を使ってた先祖の記憶を引っ張り出して、植え付けた」
「お前、そんなのできたのかよ……」
初耳なんだが。
「ちなみに、能力は“癒す能力”だな」
「だからお前は、重要なことをサラッと流すな」
空気感ってものを大事にしろよ。
「ただ、完全に使いこなせるわけではなさそうだったから、今はお前に血を飲ませてから治癒した」
「えっ、俺、血飲んだの!?」
「うん。飲んでたよ」
最悪だ。
血を飲むなんてのは、人間のやることじゃないと思うのだが。
ヴァンパイア社会で生きたとはいえ、若干の嫌悪感はある。
「というか、血でもいけるのかよ」
「いけるらしい」
なるほど……?
いまいち納得できてねえが、それは後回しだ。
今は……。
「おい、カルミア」
「……はい」
「なぜ、殺さなかった?」
「……はい?」
「ルドルフから聞かされたんだろ、俺が何をしたか。言っておくが、俺は善のためには動かない。俺の信条のために動いてるんだ。だからこそ、それで恨みを買う事なんて百も承知だ。殺されたってかまわないと思ってる。だから、聞いてるんだ。なぜ、俺を殺さなかった?」
「それは……」
「ルドルフのことだ。血を飲ませるかどうか、お前に選択を委ねたんだろ? その時に拒否すれば、俺は確実に死んでいた」
「…………」
「さすがエーデル。以心伝心だな」
「黙れおっさん」
「酷っ!?」
……黙ってちゃ、埒が明かんだろう。
「答えろ。なぜ、お前は俺を殺さなかった? なぜ、自分の信条を曲げた?」
「…………私は、自分の置かれていた状況を把握できずにいました。だから、あなたのことを強く恨んでしまいました。実際には、私のことを助けてくださったのに。ルドルフさんから、聞きましたし、見せていただきました。どんな環境で生まれ、育ったのかを。今なら、理解できます。あの異常性が。なので、謝らせてください」
額を地面に擦り付けるような体制になり、カルミアは叫ぶように言葉をこぼした。
「自分を助けてくださった恩人を殺そうとしてしまい、申し訳ございませんでした。どのような事情かも理解しないままいて、申し訳ございませんでした。私の為に、色々なところで動いて下さっていたのに、それを裏切ってしまって、申し訳ございませんでした。それから、それから……!」
「やめろ、みっともない!」
「……え?」
「軽々しく頭下げて謝るんじゃねえよ。こっちの気分が悪くなる。……俺はさっきも言ったが、恨まれた末に殺されるくらいなら、別に構わねえんだ。それに、理解できなかったのはお前のせいなんかでは、決して無い。生まれた時からの環境を疑うなんてのは、そう易々とできることではないんだ。それに、気付かなかった、説明しなかった俺も俺だ」
「そんなことは……」
「うるせえ! 仮にも師匠の俺がそう言ってんだから、お前ははいはいと答えりゃいいんだよ!」
「…………」
「超絶横暴な師匠だな、お前」
空気を読め、貴様は。
というか、お前も同じような事昔言ってたからな?
「ルドルフ、このホテル周辺の証拠隠滅頼む。金は後で払っておく」
「了解」
……どうせ、この後の展開でも想像してんだろ?
妙ににやついた顔しやがって。
「で、カルミア。どうする?」
「……なにがですか?」
「お前は、俺を殺すために殺し屋になったわけだ。で、その俺に弟子入りしたわけなのだが……。殺し屋をやめるってんなら、ルドルフに頼んで記憶をすべて消すことだって可能だ。それでもなお、殺し屋は続けるのか?」
「…………。改めてですが、お願いしたいことがございます」
急にかしこまったな。
なんか、俺の方が緊張してくるんだけど。
「私を、もう一度エーデルさんの弟子にしてください!!」
「……ふぁっ!?」
ごめん、それは考えてなかった。
いや、俺は別にいいんだけどな!?
ただ、独立するのか、一般人になるかの二択と思ってたんだけど!?
「えーっと、あの、その、あー……」
「……駄目、ですか?」
「駄目ということはないんだが…………。……はぁ」
俺は、面倒臭いことに片足突っ込むのが好きなようだ。
カルミアを弟子にしたとき然り、そのほかの依頼然り。
答えなんて、決まってる。
「断る!」
「ええ!?」
いや、なんでお前が驚くんだよ!
「話は最後まで聞け。えーっとだな、俺一人では、仕事に限界が来るときもある、そこで提案なんだが……」
柄にもねえけど。
「カルミア。俺の相棒として働いてくれないか?」
「ふぇ!?」
「正直、お前は弟子って器じゃねえんだよ。教えることも特にないし、今後も俺の仕事を手伝ってくれ」
「! はい!!」
「その代わり、今度は俺を狙わないでくれ。お前、妙に技術もあるから、ひやひやするんだよ」
「それは、申し訳ございませんでした」
相棒なんてものは初めて持つけど、どんな感じなのだろうか。
……結局、今までと変わらなさそうな気がする。
まあでも、今はとりあえず……。
「相棒ってのは、運命共同体だよな?」
「……え?」
「二人で今から、階段地獄だ」




