理由
一人、また一人と人間を切り続ける。
稀に銃を撃ってくる輩もいたが、その瞬間に腕を切り落とし、あとは一撃。
感覚的には、あと十人くらい切れば終わりかな。
「ぐえっ!」
あー、もう!
ちょくちょく攻撃してくるカルミアがうざい!
しかも、反撃するより先に身を隠しやがる。
寸前で身を捻らせて避けはするが、切り傷が幾つも増えていく。
もういっそ、殺しちまうか?
……いいや、まだ駄目だな。
でもとりあえずは、さっさと終わらせよう。
「三、二、一……」
息を吐きながら、腕を脱力させる。
――集中。
深く息を吸い、全身に力を籠め――
「死ね」
動くものを狙い、ナイフを振るう。
誰を切ったかなんて、確認する余裕はない。
まあ、この程度ではカルミアも死なないだろう。
死んだら死んだで、それまでってだけだ。
「終わりか」
周囲に積まれた死屍累々を一瞥し、そのまま視線を正面に移動させる。
「あとは、お前だけだぞ。カルミア」
よくもまあ、俺に喧嘩を売ろうだなんて思ったな、こいつは。
勝てるわけがないし、俺からすれば売る理由も全くもってわからん。
「どうする、殺し合いするか? 確実に死ぬけど」
「エーデル……!」
「するつもりがないんだったら、理由でも何でもとっとと話せ。いつ気が変わって、お前を殺すかわからんぞ」
今すぐに殺す可能性だって、十分にあるわけだしな。
「あ、そうだ。一つだけ。お前、苗字はなんていうの?」
ずっと聞こうと思っていて、忘れてた。
殺す前に聞いておかないと、俺が気になってしまう。
「……ペール。ペール・カルミア」
「なるほどね……」
…………。
「おい、少し動いただけでビビらないでくれよ。傷つくじゃないか」
「……なにをするつもり?」
「なにって、ただ……」
ナイフを抜き、正面に構える。
そのまま手首を返して……。
「…………。ほら、ハンデはこれで十分だろ?」
わき腹を抉るように刺した。
ただ、それだけのことだ。
「こっちは疲労困憊なうえに重傷。殺すには、絶好の機会だぜ」
「…………」
「早くしないと、失血死しそうなんだけど。どうするの? やる? やらない?」
ナイフを後方に投げ捨て、両手を大きく広げる。
「……どこまでも人を舐め腐った男ね」
「伊達に殺し屋してねえんだよ」
というか、まじで早くしてくれ。
意識が朦朧としてきたんだが。
「来いよ、カルミア!」
「エーデル……!!」
「はい、そこまで」
一触即発の空気の中、妙に明るい口調の男が出てきた。
……邪魔しやがって。
「何しに来たんだよ、ルドルフ」
「弟子たちが死ぬ予感がしたから、助けに来たまでさ。というわけで」
後頭部に強烈な痛みが走った。
このやろ……。
あとで、覚え、とけ……。
「――よし、手当終了」
「…………」
「大丈夫だよ、カルミア。俺は、君の敵になるつもりは毛頭ない」
……確かに、殺意は感じない。
なんとなく、安心するような雰囲気さえ感じるほどだ。
「カルミア。少し手を出してくれないか?」
「? はい」
言われたとおりに手を出すと、それを包み込むようにルドルフの手が置かれた。
その瞬間、私は奇妙な感覚に襲われた。
頭の中を覗かれる感覚。
これは、以前エーデルの言ってたルドルフの能力なのだろうか。
「……ありがとう。前よりも濃く、はっきりと分かったよ」
「な、なにがですか?」
「君がエーデルを殺そうとした理由と、エーデルが君に殺されようとした理由」
殺されようと……?
エーデルが?
「うーんとね、どこから話そうか……。まず、カルミア。君の両親は、三年前の冬に殺されているね?」
「……はい」
「それも、エーデルから」
「…………はい」
優しい両親だった。
いつも私のことを第一に考えてくれ、たくさんのことを教えてくれていた。
……だというのに、突然両親は殺された。
名も知れぬ連続殺人鬼に。
「実はなんだけどね……。君の解釈は、若干間違えてるんだよ」
「え?」
「エーデルは、確かに君の両親を殺した。だが、それにもちゃんとした理由があるということだ」
理由?
そんなこと、関係ない。
エーデルは、依頼された殺しを淡々と遂行するだけの人間だ。
そこに理由はない。
「君の両親の殺害なんて、誰も依頼してないんだよ」
「……え?」
「君の両親は、エーデルの判断で殺されたんだ」
エーデルの、判断?
「三年前の冬。エーデルはいつも通りに依頼をこなして帰路を辿っていた。記憶で見た感じ、かなり吹雪いていたようだ。そんな中で、一人の少女が民家の前でじっと立っていたんだ。何事かと思い、エーデルは少女に声をかけた。『こんなところでどうしたの?迷子?』と。彼も一応は血の通った人間だからね。そのくらいの良心は残っていたのさ。で、その返答に対して、少女はこう答えた。『お父さんが、ここで立ってなさい、って。私が悪い子だから……』ってね。それを聞いたエーデルは、俺のところまで大急ぎで来たよ。ある家庭について調べてほしい、という依頼とともにね。それで、俺はその家庭のことを調べた。すると、ある事実が分かったんだ。その少女は、日常的に虐待を受けていたんだ。そのことをエーデルに伝えると、分かったの一言だけ残して出ていったよ。それで……あとは分かるかな?』
「……でも、私の記憶は」
「人の記憶なんてものは、案外当てにならないものだよ。それに、君は生まれた時から、その環境に居たんだ。何の違和感も感じずに。だから、君の目には両親がやさしく映っていたんだ。それが、歪んでいたとしても」
「…………」
つまり、エーデルは私を虐待から助けようと……?
私は、その相手を手に掛けようと……。
「まあでも、今回の場合はエーデルが百割悪い。匿名で通報でもすればよかったんだし、証拠は俺が渡してたんだから。それをしなかった時点で、エーデルは大きな判断ミスを犯してる」
「それでも」
「いいや。こいつに用意するほどの言い訳なんてものはない。君の解釈が少しだけねじ曲がっていたが、それを起こしたのもエーデルだ」
それでも、エーデルさんは私を救おうとしてくれていた。
その言葉を言おうとした時、ルドルフが優しく語りかけた。
「エーデルは、君の判断次第で生かすことも殺すこともできる。俺は、もうこれ以上の干渉はしない。考えなさい。エーデルを殺すのか、生かすのかを」
生かすも殺すも、私の自由。
汗が滝のようにあふれ出る。
私が今日まで生きてきたのは、両親を殺した殺人鬼を殺すためだ。
でも、実際には、私はエーデルに助けられていた。
……なら、答えは一つだ。
「ルドルフさん」
「なんだい?」
「エーデルさんを、助けてください。知らなかったとはいえ、恩人を手にかけてしまおうとしてしまった、せめてもの罪滅ぼしに……」
「……そうか。わかった」
すると、ルドルフはエーデルのナイフを手に取り……。
「きゃっ!!」
「……ふむ、これくらいで十分か」
腕に赤く線が入る。
だらだらと血が零れ、腕に生暖かい感触が広がっていく。
「その血を、エーデルに飲ませなさい」
「えっ!?」
「その血であれば、エーデルの目を覚ますことが可能だ」




