裏切り
今日も今日とて人殺し、か。
しかも、結構面倒くさそうな内容だしなあ。
事前に調べただけでも、完全武装状態の護衛が五十人、監視カメラの数もかなりあった。
多少痕跡が残っても、ルドルフに頼めばすべて消せるが、残し過ぎて穴があってはいけない。
なので、今回は久しぶりの二人体制だ。
万が一護衛に見つかったときに、俺一人だと適切に対処できない可能性もあるしな。
それを未然に防ぐためにも、カルミアの役割が重要だ。
最悪、俺一人でも全員殺すことはできるが、ルドルフが頭を抱えて唸りだしてしまうだろう。
ルドルフいわく、カルミアの証拠隠滅は超絶楽らしい。
ほとんど証拠を残さずに殺しを行っている証拠だそうだ。
……逆に俺のは超絶大変らしいが。
「カルミア、着いたぞ」
車を止め、現場の様子を再度観察する。
今回の現場は、超が付くほどの高級ホテル。
部屋の様子まで事前に調べたのだが、血を飛び散らせてしまうのが勿体ないくらいに豪華な部屋だった。
しかも、それをワンフロア貸切ってやがる。
……不当な金でだけどな。
依頼者以外の人間からも、相当な恨みを買っていたようだ。
調べれば調べるほど証拠が出てくるような奴だしな。
殺されてもしょうがない。
時刻は深夜四時。
殺しに向いた時間であろう。
「ぜえ……はあ……」
ろ、六十階分の階段を上るのは、流石にきつすぎる……!
エレベーターだと待ち伏せされた時に面倒だから、階段で登るしかなかった。
なかったけど、きつい!
いやまあ、今までにもこういう時はあったけど、それでも疲れるもんはつかれる。
「か、カルミア……大丈夫か?」
「は、はい……。なんとか……」
今度、ランニングでも始めようかな。
「ここからは、隠密行動だ。誰にも勘付かれるな」
「了解です」
息も整ってきたし、今ならいける。
護衛の大体の位置は把握できてるし、今回も問題なさそうだな。
……見つからなければの話だが。
足音を消し、素早く廊下を移動する。
護衛にも、今のところは気付かれていないようだ。
……前方に一人目確認。
三、二、一……。
「ごめん」
相手に視認される前に、一撃で仕留める。
あんたに罪はないが、仕事は遂行しなくてはいけないのでな。
標的の部屋までは、あと数部屋分だけだ。
カルミアは、部屋の前で待機。
護衛が来たときの対処をしてもらう手筈だ。
その間に、俺が標的を暗殺。
二人体制だと、まじで楽だな。
今までは、これを一人でやってたんだから。
護衛が来たときは、ごり押しで全員殺してたし。
ルドルフから、何度文句を言われたか……。
よし、部屋の前に到着。
えーっと、鍵は……。
切断すれば問題ないな。
部屋への侵入も成功したし、あとはこっちのものだ。
ナイフを再び構え、部屋中に視線を巡らす。
…………ちょっと待て!
標的がいない!?
部屋は間違えていないはずだ。
じゃあ、何で……?
焦りで冷や汗が止まらない。
どうしよう、今から探すにしても、時間が足りな。
「……っ!!」
背中に広がる違和感。
……まじか。
刃物で刺された感覚か。
久しぶりに感じたな。
「こんばんは、裏切り者さん」
「…………」
そっかー、ここで裏切るのか―。
「おい、ちゃんと返事はしようぜ。カルミア」
「あんたと話すことなんてない」
「冷たいなあ」
幸い、重要な臓器にまでは達していないようだな。
この程度なら……。
ちっ。
「ずいぶんと準備が良いな」
もう人が集まってきやがった。
これは、カルミアが最初から標的殿と繋がっていた可能性が高いな。
恐らく、カルミアが情報を伝えたのだろう。
それはタブーだろうが。
「カルミア。一つだけ忠告」
「…………」
「今すぐにここにきている人間を引き返させないと、全員死ぬぞ」
「あんたが死ぬのであれば、それでいい」
ヤバい、原因が思い当たらない。
カルミアからそんなに恨まれることをした覚えなんて、仕事の押し付け以外にはあんまりないぞ。
でもまあ、いいや。
「じゃあ、全員死ね」
何かの雰囲気を感じたのか、カルミアが後ろに大きく飛んだ。
うん、いい判断だな。
それしなきゃ、お前から真っ先に殺してた。
「あばよ」
扉を抜け、そのまま目の前にいた数人を切り殺す。
武装なんて、俺の前では関係ない。
首を突き、喉笛を切り裂き、腕を切り。
最短の手順で相手を無力化、殺害する。
ルドルフからの嫌味に耐える準備をしなくてはだな。
「発見」
エレベーターから標的が逃げようとしている。
でも、それじゃあ甘いんだよな。
三、二、一……。
「じゃあな、犯罪者」
護衛諸共、ナイフで一撃。
銃を構える時間さえ与えなければ、俺が勝つに決まっている。
というか、銃もそこまで意味ないしな。
引き金を引こうとする前に殺すし。
っと、少し騒ぎ過ぎたな。
こっちに護衛どもが集まってきてる。
面倒だし、全員切るけど。