食事
ああ、面倒くさい。
車で散々連れまわされた挙句、目隠しされて進んだ先が、まさかの小部屋。
いやまあ、俺は牢屋みたいなところを想像してたから、確かに好待遇なんだろうな、とは思うが。
ここから抜け出そうにも、俺は人質を二人もとられているような状態なわけだ。
それは、ベツレヘム、カルミアにとってもそうだろう。
ルドルフが探しに来てくれる可能性もあるが、可能性としてはかなり薄いだろう。
俺たちが痕跡を残さな過ぎたし、記憶も辿りづらいはずだ。
「ああ、くそっ。やってられるか!!」
もういい、ふて寝だ、ふて寝!!
「お休みのところ、申し訳ございません。お食事の用意ができました」
「あ?」
タイミング悪く来やがって。
声質からして、俺らを攫ったのと同じ奴だろう。
「こちらの小窓から入れますので、お受け取り下さい」
「チッ。分かったよ」
面倒だが、食わなければ死ぬ。
こんな時に変なプライドで飯を食わないのは、馬鹿のやることだ。
万が一毒が盛ってあったとしても、俺は耐性があるから大丈夫だ。
「……は? これ、何だ?」
渡されたのは、赤色のスープ……?
じゃねえな、これ!!
「これ、血だろ!?」
「はい」
「ふざけんな!! こんなもん、口に入れられるわけないだろ!?」
妙に嗅ぎなれた臭いがすると思ったら、やっぱりか!!
「お気に召されませんでしたか?」
「そのレベルの問題じゃないだろ!!」
「良種の人間から採取したのですが……」
「良種の人間?」
「はい。こちらでは、あなた方のような吸血鬼専用に、良い血を持った人間を集め、採取し、捧げているのです」
「…………」
ごめん、何言ってるかわからない。
えっと、つまりは、吸血鬼専用に買っている人間がいて、それから採った血液を、吸血鬼に渡している……?
ん?
……分かった、俺とこいつで微妙に話が噛み合ってなかった理由が。
「お前ら、なにか勘違いしてないか?」
「はい?」
「俺、人間なんだけど」
「…………え?」
「ついでに言っておくと、カルミアも人間だ。あ、ベツレヘムだけは、本当に吸血鬼だけど」
「人、間?」
「うん」
あれ、理解が追い付いていない感じですか?
なんか、ぶつぶつ言ってるのだけは聞こえてる。
「申し訳ございません。すぐに、新しい料理をご用意させていただきます」
「あー、えっと……。名前、なんて言うの?」
「自分のことは、アイリスとお呼びください」
「じゃあ、アイリス。ありがとうな」
「……はい。それでは、失礼します」
何だ、そこまでは調べてなかったのか。
お宅の調査能力も、まだまだですねー。
「お待たせいたしました」
「今度こそ、ちゃんとしたやつなんだよな?」
「はい。ご要望であれば、私が毒見いたします」
「いや、そこまではしなくていいよ!?」
俺に毒は効かねえし、今度はちゃんとこっちまでいい香りが漂ってきている。
「ベツレヘム達は、どうなってるんだ?」
「エーデル様と同じような待遇でございます。ベツレヘム様には、こちらの提供した血を飲んでいただいております」
「なるほどねえ」
俺と同じ感じなんだったら、二人とも大丈夫だろう。
ベツレヘムなんか、もっとひどいところで生活したこともあるんだから。
「そういえばだけどさ」
「どうかなさいましたか?」
食事も終わり、少し暇になってきたころ。
いまだに残っていたアイリスに、暇つぶし等々のために話しかけていた。
「ここって、何の施設なの?」
「……吸血鬼を研究している、研究所のようなものの一つです」
あー、なるほど。
「アイリスは、人間なの?」
「はい」
なるほど。
「ごめんけどさ、暇つぶしになんか持ってきてくれない?」
「申し訳ございません。そのご要望には、お応えすることができません」
「えー。ま、いいや。ごめんね、引き留めちゃって」
「いえ。それでは、失礼いたします」
……行ったか?
これだけ情報を引き出せれば、十分だな。
この部屋に仕掛けられている、防犯カメラ、盗聴器の場所も把握できた。
殺し屋、エーデルのことを少し舐め過ぎだ。
とはいえ、まだ行動を起こすには早すぎる。
あとは、夜が深まるのを待つだけだ。