脅し
足に力を込め、思い切り床を蹴る。
一瞬だけ隙を作れたな。
「ほら、お前ら仲良く死にやがれ!!」
少し大きめにナイフを振るい、一人の喉を掻き切った。
それと同時に、周りの奴らも皆、血を吐いて倒れた。
「これでこっちはお終いだな」
俺の特殊攻撃の一つ。
種も仕掛けもほんの少ししかない、広範囲攻撃みたいなやつだな。
「カルミア、そっちはどう……だ……?」
振り返ると、カルミアが倒れていた。
周りには、カルミアに任せていた奴らと、標的まで倒れている。
その中心には、一人の女? が立っていた。
背丈は俺よりも少し低いくらいか。
「こちらの女性を殺されたくなければ、今すぐに武器を捨て、降伏してください」
こちらに銃を向け、そんな脅しの言葉を吐いた。
「お前、何者だ?」
「その質問に答えることはできません」
ちぇっ、ケチ。
「じゃあ、お前は俺をどうするつもりなんだ?」
「は?」
「殺すの? 殺さないの? どっちかはっきりしてくれ!」
まあ、殺すつもりなんだったら、こっちも容赦なく行くけどな。
「殺そうなどというつもりはございません。主人の命で、あなた様のことはくれぐれも丁重に扱うように、とありましたので」
「へえ。ずいぶんと丁寧な野郎なんだな」
こっちを殺すつもりがないんだったら、俺も手を出す必要はねえな。
「まあ、俺の仕事を肩代わりしてもらったみたいだし、一応礼は言っておくよ」
「こちらも、主人の命令でしたので。正確にはこちらの女性を守るように、という命令でしたが。この男性は、ついでです」
ついでで殺されたおっさん、可哀想。
なむなむ。
「殺さないんだとしたら、なにが目的なんだ? まさか、ただ俺の代わりに仕事をしたわけじゃねえだろ?」
「察しがいいですね」
当たり前だ、俺が何年殺し屋やってきたと思ってんだ。
というか、こんなの素人でもわかるだろ。
「あなたが私の命令に従わなかった場合、こちらの女性を殺します」
「それでは、私について来てください。だろ?」
「……その通りです」
バーカ。
こっちに次の行動を読まれてちゃ、意味ねえだろ。
「それじゃ、さっさと車なりなんなりまで連れてってくれ。もう疲れてさ。眠いんだよ」
「よくそこまでの余裕を保っていられますね」
「この程度のこと、今までにも何回かあったからな」
もっと危険な状態に陥った時だってある。
とんでもねえ殺人鬼に襲われて、ベツレヘムを庇いながら森の中を走り回ったりとかな。
「車はこの建物の外、あなたの車のそばに置いてあります」
「俺の車はどうするんだ? あれを置きっぱなしにしといたら、流石にまずいだろ」
「仲間が隠しておきますので、そちらの心配は無用です」
うえ、マジかよ。
あそこ、俺の武器が何個か隠してあるんだけど。
誤作動でもしてしまったら、そいつ死んじまうぞ?
「レッカー車で運ぶことを全力で勧めておくぞ」
「もちろんです。あのような危険な車を、あなた様以外が使いこなせるわけがございませんので」
そっちも調査済みか。
それならまあ、いいか。
…………。
「ちょっとごめん。カルミアの時もそうだったけどさ、俺の素性ってどこまでばれてんの?」
「その方のことは知りませんが、我々は最低限の情報しか存じ上げておりません」
最低限って、どこまでだよ。
俺の車のことまで知ってるんだったら、大抵のことは知ってるだろ。
「それじゃ、早いとこ移動しようぜ。眠い」
「図々しいというか、なんというか……」
それが俺なんでな。
「移動中に妙な動きをしたら」
「こちらの女性の命はありません」
「……………………」
くっくっくっ、テンプレの文章じゃねえか。
行動の主導権を握られたのは癪だったが、これで少しは溜飲が下がった。
「伝え忘れていましたが、ベツレヘムさまは、すでに我々が捕らえてありますので」
…………。
「こちらの方を殺してもよろしいのですか?」
「チッ」
相手の首に突き付けていたナイフを下ろし、そのままポケットに入れ直す。
こいつら、ベツレヘムにまで手を出したのか。
「ご安心ください。ベツレヘムさまも、VIP待遇でお招きしておりますので」
「安心できるか」
ふざけやがって。
「一応忠告しておくが、ベツレヘムに少しでも手を出してみろ。お前らの組織を壊滅させてやる」
「それは、重々承知しております」