旅の道連れ
ーーどうしてこんなことになっているのか。
スヴェンは心の内で首を傾げた。それはもう、今にも首が折れてしまいそうなほどに。
走り兎の御者台の上。跳ねるように走る所為で乗り心地は最悪と知られるそこに彼はいた。
ーー不機嫌そうに頬を膨らませている少女を隣に添えて。
「……なぁ、後ろに戻ったらどうだ?」
小刻みに揺らされている少女の足が一瞬停止。しかし、すぐに再開される。
「…………」
鮮やかなまでの無視だが、聞こえているのは明白。
何せ、御者台の上にはスヴェンと少女の二人しかいない。
問い掛けた者がいるのだとすれば、残された者は必然的に問い掛けられた側となる。
そんなことは少女だって百も承知のはず。
しかし、一向に少女の形の良い唇が開かれることはなかった。
組んだ足の膝あたりに肘を突き、掌の上に小さな顎を乗せている。
髪と同じ金色の瞳は、何を見るでもなく走り兎の針路へと向けられている。
天気は良好。視界も良く、秋という季節にしては暖かい。旅をするにはもってこいの日だ。
だというのに、少女の眉間には深い皺。細められた双眸からは、苛立ちが覗いている。
というより、機嫌の斜め具合を隠す気がないらしい。
先ほどから彼女の放つ空気がスヴェンの肌を刺してくる。
「はぁぁ……」
スヴェンにしては珍しく溜息を吐いてしまう。
何故、こんなことになっているのか。
本日、何度目かわからない疑問を呈してしまう。
少女と二人で旅をしていることが、ではない。
どうして、御者台の上に仲良く並んで座っているのか、である。
移動を開始してしばらくの間、少女は後ろの荷台に位置取っていた。
ところが、何を思ったのか、途中から御者台へと移動してきたのである。
しかも、何を話すでもない。
ただ、ムスリとした表情のまま、ちょこんと座っているだけ。
スヴェンからしたら、少女の行動はまるで意味がわからない。
乗り心地が不満なのであれば、後ろに戻れば良い。
理由があって留まるのであれば、その理由を説明して欲しい。
そんなスヴェンの考えが伝わったのか、
「……気の利いた冗談の一つでも言えないのかってーの」
小さな声で、しかし聞こえる程度の大きさで少女が毒を吐く。ついでに舌打ちも。
「久方振りの会話が、不満から始まるとはな?」
「ふん。独り言を会話と捉える素敵思考が冗談のつもり? 何一つ面白くないってーの」
「相手を指しながら、しかも聞こえるように零すのは独り言じゃなく、嫌味って言うんだよ」
「知ってるってーの」
「やっぱりわざとじゃねーか」
「揚げ足取んなってーの、馬鹿」
「お前なぁ……」
スヴェンは反論しようとして、その無意味さを悟り、言葉を飲み込む。
一体、何を求められているのか、見当もつかない。
少なくとも、小粋な冗談ということはないだろう。
彼女のことを無視するのは容易い。だが、目的地まではまだ数日掛かる。
その間ずっと責めるかのような沈黙を向けられるのは避けたいところだ。
どこかに、この奇妙な状況を打開するためのヒントが隠されていないか。
スヴェンは、仕方なく彼女との出会いから振り返ることにした。
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