真相
「――こちらの邪魔をしないでもらおうか」
いつもと異なる口調。語気は静かだが、そこに込められた意図は明らかである。
反論を許さない絶対的な命令。
決して説得などといった生温いものではない。これ以上踏み込むようならば容赦はしないという警告だ。
「……嫌だと言ったら?」
カミツレが試すようにそう尋ねると、スタークは理解できないとばかりに首を横に振る。
「自分の身を危険に晒してまで君がそこまでする理由は?」
「あれ? 僕がスタークを問い詰めるターンだと思ったんだけどな」
茶化すように応じるカミツレだったが、しかしスタークは警戒を解こうとしない。それどころか、今の彼からは普段の優男然とした雰囲気が綺麗さっぱり消え失せ、鋭く尖った怜悧な印象を受ける。
「ふぅん。おっかないね。そっちが本当の顔って奴かな?」
「……少し前にこの国に来たという話だが、この国にはどうやって?」
質問を無視されたカミツレは、降参するかのように肩を竦めながら応じる。
「どうやってって、棄獣狩りに護衛してもらいながらだけど?」
「どこの棄獣狩りだ?」
「確か……ロガル・ル事務所とかそんな名前だった気がするね」
カミツレの返答を「ハッ」と嘲笑ったスタークは、頭を横に振る。
「それはあり得ない。あり得ないぜ」
「『あり得ない』? どうしてそう言い切れ――」
「――ロガル・ル事務所に聞いたからな。当然、君のような護衛対象はいなかったとさ」
スタークの双眸がカミツレを射抜く。
「ロガル・ル事務所だけじゃない。王国に出入りする全ての棄獣狩り事務所の取引履歴を探らせた。でも、護衛対象に君はいなかった」
棄獣が跋扈する世界を移動するには、棄獣狩りの力を借りる必要がある。当然、外から来たというカミツレも例外ではない。だというのに、どこにも痕跡がないのである。
ならば、外から来たというのは全くの嘘で、実は元から王国内にいたのではないか。
「――そう思って戸籍や居住情報を当たってみたけど、そっちも空振り」
まるで幽霊みたいだよ、とスタークが愚痴を零すように呟き、そしてカミツレと正対する。
「一体君は何者だ……?」
「――――」
カミツレは面食らったような表情を浮かべる。
しかし、それも一瞬のことすぐにまた例の能天気な笑みを顔に張り付けた。
「なるほどね……そういうことなんだね」
何かを悟ったのか、カミツレはしきりにうんうんと頷いている。
そんな彼の態度にスタークが声を荒らげる。
「答えろ! それ次第では、オレは君を――」
「――今は無理だね」
突然、カミツレの姿が消えたかと思うと、次の瞬間にはスタークの眼前に立っていた。
「なっ――」
「そんなことよりも君にはこれをあげよう!」
そう言ってカミツレは懐から何やら取り出すと、それを強引にスタークに握らせる。
「これは……?」
不可解そうに手の中のものを見つめるスターク。
しかし、カミツレは答えず、反転して背を向ける。
「それじゃ! 僕は行くね」
「は!? ちょっと、待っ――」
制止するスタークを完全に無視してカミツレはその場を後にした。
ーーー
「――とまぁ、そんな感じさ」
「嘘です!」
シレネが敵意を剥き出しにしながら割って入る。
「保身のために口から出鱈目を言っているに過ぎません!」
「出鱈目ねぇ……まぁ、実際僕も色々と計算外だったよ。てっきり、スタークが犯人だと思っていたからね」
「は? スタークが犯人? どうしてよ?」
「だから、あの夜僕が出会うとしたら、それは犯人サイドなんだって」
そして、そこでカミツレはスタークと出会った。
しかし、スタークは殺された。
誰かが嘘を言っていなければ、辻褄が合わない。問題は、誰が嘘をついているのか、だ。
「スタークはあの夜、僕を疑っていた。仮に彼が犯人側だとしたら、問答無用で僕を殺しに掛かるはずだ。でも、それをしなかった。逆説的に彼は犯人サイドじゃなかったんだよ」
「じゃあ、一体誰が――」
言い掛けて、シーリアははたと思い至る。
(そもそもスタークに情報を渡したのは……?)
仮に王宮側に犯人がいたとしても、アジトへの侵入を決めたのはスタークからの情報提供を受けたあの場で決めたことだ。
つまり、あの状況でそれを知ることができたのは四人。
自分とスターク、シレネにカミツレだ。
そして、自分とスタークが犯人じゃないとしたら、残りはシレネとカミツレだけになる。
しかし、はたしてカミツレが王宮の人間と組んで何かを企てることができるだろうか。
そもそもスタークは給仕から聞いたというが、その給仕はどうやって情報を得たのか?
王族に近く、給仕にも繋がりがある者ではないのか。
――まさか。
端と思い出す。
かつて王宮に勤めていた者がいるではないか?
あり得ないと、自然頭の中から消していた選択肢。その前提が間違っていたのではないか?
そのことに思い至り、さらに記憶が連鎖反応を起こす。推測が加速していく。
死んだサイフォンに真っ先に近寄ったのは?
あのとき、サイフォンに毒を盛ったのではないか。謎の侵入者の犯行に見せかけ、証拠隠滅を目論んだのではないか?
ハッとしてシーリアはその者へと視線を向けてしまう。
「……どうなさいましたか?」
シレネが不安そうに訊ねてくる。
「そんなシレネ……いつから……」
「え……何がですか?」
「どうしてあなたが王族殺しなんて……」
嘘だと思いたい。しかし、状況が物語っている。
「わ、わたしが王族殺し……? 一体何を――」
「――おっと、続きはオレが説明しようかな」
警邏隊の一人が話に割って入る。
「不躾だぞ! この者を叩き出せ――」
突然の乱入に不愉快を露わにしたトーリンデルスをシーリアが制止する。
「――お待ちください、父上!」
「なぜ止める?」
「なぜって……」
混乱し過ぎて上手いこと言葉が出てこない。お調子者なその声を聞き間違えるはずもない。
動揺を隠せないシーリアを見かねてか、声を上げた警邏隊員が前に出る。
「仕方ないですよ。死んだって言われている奴が生きていたら誰でも驚きますよ」
そう言って、フェイスガードを外す。
「スターク……!?」
「やっほー。びっくりした?」
スタークがいつもの軽薄な笑みを浮かべながら問い掛けてくる。
「カミツレ君の忠告がなかったら危なかったかもね」
そう言ってスタークは懐から一枚の紙きれを取り出した。そこにはただ一言。
『彼女に気を付けろ』
「最初渡されたときは意味がわからなかったけど、あの後シレネと会った瞬間、悟ったぜ」
ちなみにだけど、と言葉を続けたのはカミツレである。
「あの場にシレネが現れて、彼女が犯人じゃなかったら、『彼に気を付けろ』って書かれた紙を渡すつもりだったんだよね」
カラカラと人を食ったようにカミツレが笑う。
「王族殺しなんてやっておきながら証拠一つ残さない犯人のその慎重さに賭けたわけだけど、何とかうまくいって良かったよ」
ただの博打。しかも、賞賛はかなり薄い。
しかし、結果から言えばシレネはまんまと嵌められた形である。それも、カミツレにだ。動揺しないはずがない。悔しそうに唇の端を噛み締める。
「ですが、きちんと死を確かめたはず!」
最早隠し切れないと思ったのだろう、シレネは取り繕うことなくそう訊ねた。
「隠密には仮死状態になる薬が渡されているんだ」
あっさりと応じるスターク。
「隠……密……?」
理解できないといった表情のシレネ。それもそのはず、シーリアですら知らなかった事実だ。
「もう、この際だから話しちゃっても構わないですよね、トーデン様?」
問われたトーデンは「ふんっ」と鼻を鳴らすばかりである。これを承諾と受け取ったスタークはおどけるように肩を竦めて見せる。
「まったく素直じゃないですね~」
「ちょっと、どういうことよ!? 説明しなさいよ!」
スタークの肩を掴んだシーリアが前後に激しく揺さぶる。
「わかったから揺らさないで!」
ようやく解放されたスタークが乱れた髪を整える。
そして、いつもの軽薄な笑みがすっと消え、怜悧な表情が浮かび上がる。
「初めまして、シーリア様。トーデン様の命を受け、護衛を務めておりますスタークと申します」
「護衛……? トーデン兄様が? 私を?」
「はい。殿下は不器用なお方のため、シーリア様に強く当たっているように見えたことでしょう。しかしながら、あれらは全てシーリア様をお守りするためでございます」
「私を守るため?」
「シーリア様のお母君がお隠れになった後、シーリア様を王宮に招いたのもトーデン様でございます。理由はただ一つ。シーリア様を手元に置いて見守るため」
「でも、それならどうしてあのような当たり方を――」
「――いきなり王女が現れたら王宮が混乱してしまいます。第三勢力だなんだと担ぐ者たちによって危険な目に遭わされるかもしれないでしょう。それを危惧していたのでございますよ」
王位継承権の争いは実に醜い。それをトーデンはよく理解しているのだろう。その犠牲にならないように陰ながらシーリアを守ってきたのだ。
「ああしてぞんざいに扱われれば継承者としての立場は危うい」
「でも、それは国王が……」
「女手一つで娘を育て上げるのは大変でございます。しかも、シーリア様のお母君はあまりお体が強くないと伺っております。それなのに、何不自由なく暮らせたのはなぜでございましょうか?」
「――――」
てっきり王からの手切れ金か何かを渡されていたのだと思っていた。しかし、そうではなかったということか。
「まったくどいつもこいつも……」
シーリアは「ああもう!」とその桃色の髪をわしゃわしゃと掻き上げる。その目の端にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「生きていたならさっさと出てきなさいよ!」
シーリアの指弾がスタークの額を弾く。一瞬スタークは目を丸くし、そしてフッと笑った。
「無茶言うぜ~。こちとら死にかけていたんだからさ」
「うっさい。自分で仮死状態になっておきながら何言ってんのよ!? ていうか、そのちゃらんぽらんな態度ってもしかして……?」
「まぁ、阿呆な振りをしている方が敵の油断は誘いやすいからね」
「それじゃあ、女好きだとか何とか言ってあちこで問題起こしたのも?」
シーリアが呆れたように問い掛けると、スタークの笑みが急に凍る。
「……ま、まぁ、遊び好きな振りをしている方が敵の油断は誘いやすいからね?」
そう応じるスタークの視線があからさまに中空を彷徨う。
「……それは本性なのね」
「ち、違うんだ! これには、女密偵を暴いたり、各種情報を収集したりするためであって、やましいことなんて一つもないぜ! きっと! たぶん! おそらく!」
「はぁ……仮死状態とか言って、媚薬と間違って飲んだとかってオチじゃないでしょうね?」
「そんなことないよ! カミツレ君がいなかったら本当に危なかったしー?」
「え、ちょ、ってことは、まさかスタークが生きていることを知って……?」
シーリアの視線がカミツレへと向けられる。
すると、
「うん」
あっけらかんと応じるカミツレ。これにシーリアはがっくしと肩を落とした。
「ほんっっっっとに信じられない!」
「ごめんって。でもさ、仕方ないよね。こうでもしないと犯人を炙り出せなかったんだからさ」
カミツレはスタークと別れたように見せかけて、スタークの後をつけていた。
(予想通りなら『敵』は、スタークのやり取りしているところを見ているはず……)
犯人が現場を目撃していたのなら、スタークに渡したものを決定的な証拠だと考え、彼のことを始末しようとするに違いない、カミツレはそう考えたのである。
「だからまぁ、オレってば体の良い囮にされちゃったわけよ~」
スタークが恨めしそうにカミツレを見る。
「でも、ちゃんと助けてあげたし、許してよ」
「ふざけないでください! それじゃあ何ですか!? わたしが犯人だとわかっていて、あなたは大人しくここまで捕らえられたのですか!?」
「そうだけど?」
「なぜ!?」
「――黒幕を暴くためだよ」
「黒幕ですって!?」
驚きの声を上げるシーリアにカミツレは続けた。
「前にも言ったけど、一連の事件は単独で起こせるようなものじゃない。被害者たちのその日の行動を詳しく知ることのできた立場の者が手伝っていないと不可能だよ」
「でも、そんなことができるのと言えば……」
王宮の中でも相当の情報通でないと不可能だろう。しかも、下手に情報を集めようものならば、途端に怪しまれる。
裏を返せば、高位の者たちの予定を知っていても不思議ではない者ということになる。
該当する者と言えば、国王にトーデンにサバルくらいだろう。
国王やトーデンには理由がない。となると、消去法で答えは一つだ。
「サバル兄様……?」
「何だい?」
「サバル兄様が……?」
「さて? オレがやったのは、そこの元女給に親切心でいつ誰が暇そうにしているかを伝えてあげただけだよ」
嘯くサバルは全てを理解していてそう言っているのだろう。
「やはりサバル貴様か……」
「どうしたのさ、兄貴? 言っとくけど、オレは何もしてないぜ? 全部あの元女給がやったことさ」
「そうだろうな。そうだろうとも。抜け目のないお前のことだ。証拠なんて残さないだろうな。お前の意図を汲み取った、いや汲み取らざるを得なかった者の行動の結果だ」
「だーかーらー、証拠は?」
「……ない。だが、事実は変わらない」
「兄貴の中での妄想では、っていうことだろう? 戯言を公の場で口にするとは、兄貴も落ちぶれたもんだね」
「ほざけ。貴様のやり口は幼い頃から何も変わらない。他人を意のままに動かし、それを外野から眺めている。人形遣い気取りの異常性格者め」
「実の弟に向かってひっどいなぁ」
まぁ、とサバルが続ける。
「他人を躍らせるのは楽しいという点は否定しないけどね」
歪な笑みを浮かべるサバル。これまでに見たことのないその異常な雰囲気にシーリアは鳥肌が立つのを感じた。
「サバル兄様がシレネを脅して……?」
「だから、違うって。ただ、王族を憎み、復讐を誓っている奴がいた。面白そうだから、王宮に上げた。そんでもって、そいつに情報を渡してやった、それだけだよ」
そこでシーリアの脳内にいつぞやのシレネとサバルの噂が思い出される。
(あのときシレネはサバル兄様から情報を……?)
そう言えば、シレネの登用を推したのもサバルと懇意にしていた貴族だったはずだ。
つまり、二人は最初からグルだったということである。
「狙いは継承権か?」
トーデンの問いに鼻で笑って応じるサバル。
「継承権? そんなものどうでも良いよ。オレはこの国が混乱する様を見たい、それだけだよ」
「なるほど、貴様はそういう奴だったな……」
「つまんないんだよ、どいつもこいつも。飽きた。飽き飽きした。そしたらさ、どっかの馬鹿が世界を混乱に陥れたって言うじゃん? なら、オレもって思うでしょ?」
無邪気に笑うサバル。まるで小さな子どもが悪戯を思いついたような純真無垢さである。
「帝国を唆したのもオレさ。そしたら、いい街だ何だ言っていたこの国の奴らが掌返して去っていくじゃないか。もうね、滑稽過ぎて腹抱えて笑っちまったよ」
「そんな理由で……」
あまりに歪すぎるサバルを前にして、シーリアの肌が泡立つ。
「オレにとっては十分過ぎる理由だ。自由に生きるお前のことを羨ましく、妬ましく思っていたんだぜ?」
「ふざけないでください! 自分が何をしでかしたのかわかっているのですか!?」
「勿論だとも。お前たちにはオレを捕まえることは絶対にできないってこともな」
サバルがそう言うと、控えていた警邏隊の者たちがトーリンデルスやトーデンを囲む。
既に警邏隊も掌握済みということらしい。
だからだろう、サバルは確信しているのだ。自分が捕まることは絶対にない、と。
(これか……これだったのか……)
シーリアはサバルに対してどこか危うさのようなものを感じていた。だからこそ、明かされた事実に驚きはない。むしろ、納得してしまったくらいである。
どちらかというと、信じられないのはシレネの方である。
「シレネ……どうして……?」
「『どうして』ですか……」
シーリアの問いがまるで陳腐だと切り捨てるかのようにシレネはフッと鼻で笑った。
「わたしの家族は王族に殺されました」
「え、でも、確か事故だって……」
「表向きはね! それもこれも帝国に阿った王族が握り潰したからですよ!?」
シレネの実家は帝国との国境に程近い村にあった。
国境付近とはいえ、争いとはとんと縁がなく、平和を絵に描いたような村である。
そこでシレネは育った。狩りや村一番の強者を決める祭事のために理術の訓練を欠かさず、広大な自然と気の良い友人たちとの日々がいつまでも続くと信じて疑わなかった。
いつか、村の誰かと恋に落ち、時には喧嘩しながらも結婚し、子どもを作り、孫の顔を両親に見せ、そして、遠い未来で自分も孫の顔を見ながら息を引き取るのだと。
「――ところが、あるとき帝国から一団が流れてきました」
その者たちは帝国の圧政から逃れるために国境を越えて来たとのこと。酷くボロボロで、衰弱し切っている様子だった。
これに、シレネの一家含めて村の者たちは彼らを手厚く保護した。
しかし――
「――突然あいつらは武器を手に取り、皆を殺して……」
後からわかったことだが、彼らは王国との戦争を起こすための大義名分を作るために派遣された者たちだったのである。
「あなたに……王女様なんかにわかりますか!? 理解できますか!? すぐ近くで友人の断末魔が響くのが! 目の前で父が首を裂かれ、母が襲われ、幼い弟が無理矢理祖母を犯させられるのが! そして、そんな地獄を見せられながらわたしも男たちに……」
その先は言葉にならなかったのか、シレネが口元を押さえる。
「そんな……」
あまりに凄惨なシレネの過去に言葉を忘れてしまうシーリア。彼女が男を毛嫌いしていた理由が今になってようやくわかった。
それでも、彼女が体験したことの辛さの一片も自分にはわからないだろう。
あまりにも遠い。共感のしようがないほど過酷な体験。彼女の何を見てきたのか、一瞬にしてわからなくなる。
「結局、奴らは駆け付けた警邏隊によって捕らえられました。ですが、この国は帝国を恐れて奴らを釈放しました……しかも、あろうことかわたしたちに『忘れてくれ』と、『犠牲になってくれ』とそう言いやがったのですよ!?」
悲鳴のようなシレネの糾弾が虚しく謁見の間に響く。
「忘れることなんて……耐えるだけなんてできるはずもないでしょう……?」
しかし、振り上げた拳のやりどころはなかった。
泣いて、泣いて、ただ悔しくて世界を呪った。
「そんなときに、あの事件が実は帝国に唆された王族の企みだったと知らされたらっ!?」
家族の墓の前で茫然としているシレネに声を掛ける者がいた。
その者は小さく囁いた。
全ては王族が仕組んだことだ――と。
その者はまたこうも言った。
王宮に来たら復讐ができるぞ――と。
「わたしにはたった一つしか選択肢が残されていませんでした……家族の、友の、村のみんなの仇を取ると……」
シレネの話を聞いたシーリアの中で疑問が沸き上がる。
「え……じゃあ……シレネはいつから……?」
王宮に来たのが復讐のためだとしたら、いつから彼女は自分のことを殺そうと考えていたのだろうか。
「いつから!? いつからとそう仰いましたか!? そんなもの、初めからに決まっているでしょう?」
額を手で押さえながら狂ったように笑うシレネ。
「わたしは初めからシーリア様を殺すつもりでしたよ!」
「なんで!? いつでもあなたは私を殺せたはず! なのに、どうして……?」
「どうして……ですかね? わたしにもわからないんですよ」
シレネの声からふと力が失われる。真っ直ぐにシーリアを見るその蒼海の瞳には涙が浮かんでいる。端正な顔に浮かぶは決意と後悔が綯い交ぜになった悲壮な笑み。
それがあまりにいたたまれなくてシーリアはつい逃げるように視線を逸らしてしまう。




