表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/83

カミツレの考察

       ■■■


「――美味しかったぁ」


 ぽんぽんと膨らんだお腹をカミツレが満足そうに叩く。


「遠慮という言葉を知らないのか……」


 半ば呆れた様子でスタークが呟く。さすがの彼でも驚きを隠せないらしい。


「――で、何でこの男がいるんですか?」


 不機嫌そうに訊ねてくるシレネに、「何でかしらね……」とシーリアが応じる。


「無視して放置しても良かったのだけど、何て言うか、それだと負けた気がして……」


 口をすぼめて応じるシーリアにシレネが呆れたような表情を浮かべる。


「いつもの真面目症候群ですか……」


「変な病名付けないで! もう!」


「え~、だってシーリア様の堅物さはそこまで行くと病気ですよ?」


「オレもそう思うね。まぁ、そこがシーリアちゃんの良いところでもあるんだけど」


「うむうむ。僕もそう思うよ! 品格を疑うなんて言ったけど訂正するよ。君は少しだけ良い人みたいだ!」


 …………。


 空気が凍った、というのは今この状況を指すために生まれてきた言葉なのかもしれない。


「ん? どうしたんだい? 何でそんな怖い顔で固まっているんだい?」


「「「お前の所為だ!!」」」


 珍しく三人の意見が合致した瞬間だった。


「もぅびっくりしたぁ。急に大声出さないでよ。――それで、結局僕を付け回したのは何でさ?」


 カミツレの図太さに全員がため息を吐いて、まともに相手をしてはならないことを悟る。

 指摘するのを諦めてシーリアはこの国で起きている事件について説明を始めた。


「最近、この国の王族が殺されているのは知っているでしょう?」


「まぁ、多少はね。三日前にも誰だったか殺されちゃったよね」


「その件で私たちは調査しているの。状況から察するに犯人はおそらく帝国の息が掛かっている者だと予想しているんだけど……」


「え? どうして?」


 首を傾げるカミツレにスタークが後を引き継ぐ。


「どうしてって、そりゃあ、今この国は帝国に事実上の宣戦布告をされているわけだからな。戦端が開かれていないだけで、戦時と変わらないし」


「帝国にとってこの国の王族が死ぬことはその分だけ侵略が楽になりますしね。普通に考えれば、帝国の仕業だと思いますよ?」


「ふぅん」と、カミツレは興味なさそうに応じる。「普通に考えれば、かぁ」


「何よ? 納得いかなさそうね?」


「え、だって、普通に考えたらその逆じゃない?」


「逆って言うと、帝国の仕業ではないということかしら?」


「そうそう。だってさ、帝国と王国が戦ったら間違いなく帝国が勝つんでしょ? てことは、帝国としてはなるべく効率的に勝ちたいはずじゃない? 今でこそ大人しくしているルグリカだけど、いつ牙を剥くかわからないってのもあるだろうし」


「それは、そうだね……」


「だったらさ、王族を殺す意味ってあるのかな? 彼らが死んだらなおさらこの国は乱れるよね? 帝国は占領後に自分たちの土地として治めていく必要があるんでしょ? 戦争を優位に運ぶために相手国を乱すというのは、確かに戦術としては有効だけど、これだけの戦力差があるならそんなことをする必要ないし、占領後の統治を考えるなら王族を生かしたまま傀儡政権にしちゃう方が楽だと思うけど?」


「…………」


 シーリアは思わぬ意見に言葉を呑んだ。

 言われてみればその通りだ。この状況下で王族を殺害するのに合理的な根拠はない。そもそも、宣戦布告をした後に暗殺というのはあまりにもあからさまに過ぎる。どうせ暗殺するなら、宣戦布告をする前に片を付けるはずだ。

 何より、非常識を形にしたようなカミツレが筋の通った話を口にすることが意外でならなかった。頭がおかしく失礼な男とばかり思っていたが、なかなかどうして核心を突くではないか。だからこそ、腹立たしいわけだが。

 横目でちらりと見ると、スタークもシレネも目を丸くしている。どうやら同じ感想らしい。


「だけどさ、カミツレ君の話を正とすると、どうして犯人は王族を殺しているんだろうね? その辺りの背景が霞んじゃわない?」


「それは僕じゃなくて、犯人に聞くべきだと思うよ?」


「それはそうなんだけどさ……」


 納得しかねる様子のスタークに、「推測だけど……」とカミツレが続けた。


「犯人は、この状況だからこそ動いたんだと思うよ?」


「どういうことかしら?」


「要は、帝国の仕業のように見せたいってこと。もっと言うと、犯人はおそらく個人的な恨みとかで事件を起こしているんじゃないかな?」


「どうしてです?」


「だって、この事件に対して何かしらの政治的、宗教的訴えはないんだよね?」


「そう言えばないですね」


「王族を殺していることそれ自体がメッセージだからじゃないの?」


「だったら、もっと王に近い位置の人間を殺すんじゃないかな?」


「確かに、カミツレ君の言う通り今のところは縁戚というか末席というか、こう言っちゃ何だけどパッとしないところばかりだね」


「でしょ? 王族殺しなんて大事件を起こしているのに声明も何もないってんなら、あとは個人的怨恨しかない、ってだけの消去法だよ」


「随分と簡単に断言するのね。まるで犯人の気持ちが手に取るようにわかるみたいな口振りじゃない?」


「推測するだけなら何とでも言えるからね。こんなの、言ったもん勝ちだよ。強いて言うなら、僕が犯人だったらそうかなってだけだよ」


「実はあなたが犯人じゃないの?」


「まさか~」


「本当に?」


「本当だよ~」


 あはは、と乾いた笑いがカミツレとシーリアの間で発生する。

 次いで、やたらと重い沈黙が流れる。

 時計の針の音だけがやけに大きく室内に響く。かち……かち……という無機質な音が三十を超えたあたりから、カミツレの額に玉のような汗が浮かび始める。

 そして、堪え切れないとばかりに、


「え、もしかしてだけど……僕疑われているの……?」


 恐る恐るといった様子でカミツレが確認してくる。


「「「……(コクリ)」」」


「嘘ぉ! そんなの酷いよ! 僕みたいに自分に正直な男が疑われるなんて酷いや酷いや!」


 駄々を捏ねるように泣き出し床の上で転がるカミツレ。


「真っ当に働いて、用心棒として少しずつ仕事を貰えるようになってきたっていうのに、あんまりだぁぁぁぁ!」


 床を両手で強く叩き付けて叫ぶカミツレ。だが、その言葉はどこまでいっても空々しい。その証拠に、顔を覆った手の隙間からチラチラと探るようにシーリアたちを何度も見ているのがバレバレだ。

 とはいえ、見え透いた演技だからこそ、かえって彼が犯人らしく見えないというのも事実なわけで。それに、いくら何でも証拠が足りない。さすがにこんな状況で犯人だと決めて掛かるほど愚かではない。


「もうわかったから――」


 宥めようとしたシーリアの言葉は、突然立ち上がったカミツレによって遮られた。


「――そこまで言うなら僕にも考えがある!」


 そう言ってカミツレはシーリアに向けてズビシと人差し指を突き付けた。


「身の潔白のために、今日から僕は君の護衛をするよ!」


「……え、全力でいらないのだけど?」


 予想外の展開につい真正面から応えてしまった。


「なぁに、遠慮はいらないよ! この僕が守るからにはもう安全さ! これでも、多少腕に覚えはあるからね! 君は安全を手に入れるし、僕は無罪を示せる! 完璧だ! それに、食い扶持にもありつけるしねっ!」


「いやいや、そもそもオレらには【剣神の娘】がいるし、賞金稼ぎをやれる程度には自衛能力もあるし、どう考えても必要ないっしょ?」


「ていうか、最後のご飯のところが狙いなんじゃないですか?」


「ギクリ」


「やっぱり……こんなに杜撰な押し売りは初めて見ました」


「呆れて何も言えないのだけど……」


 三人のごみを見るような視線を受けてカミツレが降参を示す。


「わ、わかったよ! 僕は僕の意志で君たちを護衛するよ。これでどうだい?」


「いや、あなたに付きまとわれるのが嫌だと言ったつもりなんだけど……?」


「ド直球!? え? どうして? なぜに? 理解に苦しむよ!?」


「むしろ、そこまで自分を信じられるあなたのことが羨ましいくらいです……」


 皮肉たっぷりのシレネにカミツレが拗ねたように頬を膨らませる。


「もう良いよ! 決めたったら決めた! 君たちが何と言おうと僕は自分が無実であることを証明するまで付きまとうのを止めないからね!」


「うゎぁ」


 失敗した、それが率直な感想だった。こんな面倒な相手に絡まれ続けるのは御免被りたい。

 しかし、当のカミツレはと言えば、腹を括ったかのような表情。いや、勝手に覚悟を決められても困るのだが……。


「という訳で、僕の寝床はどこかな?」


「「「…………」」」


 あっけらかんと言い放つカミツレに唖然とする一同。


「……十分よ」


「え?」


「あなたなんて玄関で十分よ!!」


 リビングから蹴り出されるカミツレ。

 呆然とする彼を置き去りにするようにバタンと勢いよくドアが閉められた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ