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それぞれの過去 その1

   ■■■


 スヴェンが長老エルザとの交渉を四苦八苦しながらもまとめている頃、アウラたちは檻の中で暇を持て余していた。


「待つだけというのはなかなか堪えるっすね」


「そうね……」と、アウラは応えて地面に視線を落とした。スヴェン一人に責任を押し付けたようでどことなく後味の悪さを感じる。

 しかし、頭の中ではどうしようもないとわかっているだけに、今のこの時間がもどかしくてたまらない。


 どうにか脱出できないかと檻の外の様子を窺うが、見張り役が必ず二人体制でこちらのことを監視している。強引に理術を使って脱出することも考えたが、ヴァルダに止められた。


 多少なら無理を押し通せる程度には回復したが、継戦は難しいといった何とも微妙な回復具合だ。まずはスヴェンと長老とやらの話がどう落ち着くか、結果を待つというのがヴァルダの下した判断である。


 外の様子を窺っていると、ひそひそと見張り役が話しているのが聞こえてくる。


「私はあの白髪の少女が良いな」


「いやいや、獣人の子のほうが可愛いでしょう?」


 見張り役の視線はこちらに向けられている。一人は自分を、もう一人は隣のリーナシアを見ているようだ。


「獣人としてもロロリトは生まれないじゃない」


「でも、あの子をいじめたらすっごく興奮すると思うのよね? あの蜂蜜色の柔らかそうな体見てよ……ちょっと滾ってきちゃった……」


「実は私も……」


 見張り役の二人が何やら股間のあたりを弄り始めるのを見て、アウラはそっと視線を外した。深く考えないほうが精神衛生上良さそうだと判断し、意識を檻の中へと戻す。


「そういえば、ヴァルダってスヴェンと付き合いが長いのよね? どうして、二人は組むことになったの?」


「んー? どうしてだってぇ?」


 聞き返すヴァルダはあからさまに面倒臭いといった表情でぽりぽりと頭を掻いた。


「――そういえば話したことなかったかぁ」


 とりあえず意識を切り替えるために、何かしら話しておこうと雑に振った話題だ。いつもの如く煙に巻かれるのだろうと思っていたら、珍しくヴァルダが真面目な表情を見せる。


「オッサンってば天才だし超絶強ぇから、若ぇ頃からそりゃあ功績を挙げたもんよぉ」


 二十代前半にして身に纏う軍服には多数の勲章。当時世界規模で起きていた大戦で目覚ましい活躍を遂げた代償だった。


「そんなオッサンにも失敗はあるわけで、とある任務でヘマ打っちまったのよぉ」


 ルグリカの重要研究施設の完全破壊――実績を評価されての任務だった。証拠は確実に隠滅し、絶対にランキッサが絡んでいないように見せかけるという厳しい条件だった。


 ランキッサの諜報部隊と共に臨んだその任務で、施設を破壊することには成功。しかし、ヴァルダはそこで軍務に違反し、証拠隠滅に失敗したのである。

 結果、ヴァルダは命令違反で降格させられることとなった。


「まぁ、そん頃にゃ、オッサンはオッサンで殺したり、殺されたりすんのに嫌気が差していてなぁ。丁度良いってもんで、上官ボコって軍を辞めてやったぁ」


 軍法会議に掛けられなかったのは、過去に挙げた多数の戦果のおかげだろう。退役後は流れの棄獣狩りへと転身した。特にやりたいこともなく、折角磨いた技を錆びさせるのも勿体ない気がしての選択だった。


「日銭を稼ぎながら長いこと気ままに暮らしていたら、あいつと出会ったっつぅわけだぁ」


 戦場で何やらちょろちょろしている奴がいるな、それが第一印象だった。


「誰に弟子入りしたかはわからねぇが、体術やら小細工はなかなかのもんだったが、棄獣との戦い方がてんでなってなくてよぉ。見かねてあれこれ教えていたら、いつの間にか二人で棄獣狩りを初めていたっつぅわけ」


「でも、どうしてそんな見ず知らずの相手に肩入れできたのかしら?」


「見ず知らずってわけでもねぇがなぁ……」


「え?」


「何つぅか、羨ましかったんだ、あいつのことがよぉ」


「羨ましかった?」


「あぁ。オッサンは天才だから、やれば大概のことはできちまう。一方であいつはどこまでも普通だぁ。だが、タイマンの勝負はオッサンの負け越し。超絶強いオッサンが、弱っちいあいつにだぜぇ?」


「どうせ手加減はしているのでしょう?」


「そりゃあなぁ。オッサンが全力全開出す相手つったらあのイカレ神父クラスよぉ」


「なら、勝敗を競っても意味ないじゃない」


「いんや。加減はしているが、手を抜いたことは一度もねぇ。自分に制限を課しながらだが、いつでも本気でやっているつもりだぁ」


 それでも勝てねぇんだぁ、とヴァルダは愉快そうに笑う。


「あいつはなぁ、勝つためにありとあらゆる手を使うのよぉ。それが面白くてなぁ」


「あぁ……確かにあのお色気立体映像とかその境地よね。私も初見のときは驚いたわ」


「オッサンにはああいう真似はできねぇ。思いつかねぇし、そもそもその必要がねぇ。だが、あいつは違う。これと決めたら何が何でも成し遂げようとする。戦いに限らずな。その必死さが、その在り方が戦場で擦り切れちまったオッサンには眩しかったんよぉ」


 ヴァルダは目を閉じてゆっくりと紫煙を吐きだした。


「……贖罪なんて柄でもねぇしなぁ」


 誰に聞かせるでもなく呟くヴァルダ。ポツリと零れたそれはアウラの耳に届かなかったらしい。誰にも知られず、ただ揺れる水面のように淡く消えていった。


「初めて聞く話ばかりだけれど、なるほどね……」


 スヴェンもそうだが、ヴァルダも多くを語ろうとしない。彼のその達観したような、どこか諦めたような態度は軍人時代の後遺症だろう。世界中の理不尽と不条理を掻き集めたような場所が戦場だ。そこでの体験は壮絶なものがあったに違いない。


「リーナシアは?」


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