寝取り男のその後
(ううう…寝すぎて頭がいてぇ…水差しはどこだ)
宿の袖机の上に置いてあって、このまま手が届く場所にあるはず。
オレは寝ぼけ眼で、水差しがあるだろうところに手を伸ばして、
何も掴めないことに気づく。
不思議に思い、目を開けると、見知らぬ部屋に横になっていた。
窓にはカーテンが敷かれ、薄暗い部屋の中には何もない。
がらんとしている。
は…??ここはどこだよ?
たまに女のうちに転がり込んで
そのまま酔って寝ちまうことがある。
きっとそれだろうと思って、
とりあえず起き上がって、ドアを開けて部屋から出ようとする。
ガチャガチャガチャ
開かねぇ。鍵がかかってるのか??
どうなってやがる。
「おい!!!誰かいねぇのか!!!」
扉をたたいて大声を上げると
足音がコツ、コツ、コツと近づいてきて鍵を開ける音がして、ドアが開く。
入ってきたのは、ついこの前魅了眼で落としたばかりの女…
えっと名前は、、たしかノエルだったっけ?
そんなことはどうでもいい!どうしてオレがここにいるかだ!
「あ、起きたんだユウヤ。おはよう。よく眠れた?」
「おい、ノ、ノエル!これはどうなってやがる!ここはどこだよ??」
「えっと、覚えてないの?昨日は一緒に物件見に行って、
そしたらユウヤが私に任せるって言ってくれて、
だから私思い切って前から欲しかった家を買ったの。
ちょっと足が出ちゃったけど、
ユウヤと私の名義でお金をギルドが貸してくれてね。
あ、断りなくやっちゃったけど、私たち夫婦になるんだし、別にいいよね?
そしたら、ユウヤ宿で寝てたじゃない。
驚かせてあげようと思ってそのまま宿から運んできてあげたんだよ!
どう驚いたでしょ。えへへ。喜んでくれたら嬉しいな」
「は…?」
わけわかんねぇ。ちょっと落ち着け。
オレは混乱する頭を整理するため、昨日のことを必死で思い出す。
アッシュとかいうもやし野郎からノエルを奪って、やることやってやった翌日だ。
昼過ぎだっけ、目が覚めたらもうノエルは隣にいなかったんだよな。
部屋から出て、1階をみたら、ノエルはテーブルにすわってた。
オレに気づいたら手を振ってきて。
相変わらずいい女で、あと数回は楽しんでもいいか、なんて
考えながら対面の席についた。
そしたらいきなり脈絡もなく
『それでユウヤいつ家一緒に探しにく?今からでも
大丈夫だよね。一応昨日の時点で不動産屋には物件を抑えてもらってるから
一緒に見に行こう。ていっても、もうどこを買うかは何となく決めててね、
お金は私とアッシュでためた分があるから気にしないでね。あ、
アッシュとはもうなんも関係のない赤の他人だけど、それをいったら
ユウヤ嫌な気持ちになるよねごめんね。で、家買ったら
ユウヤがどこの部屋に住んでもらうかは実は決めてて、
ただまだ慣れていないだろうから、
その辺はいろいろと私のほうで準備してきたから安心してね。
全然こんなの負担じゃないし、きっとユウヤも気に入ってくれると思う。
だから全然気にしないで大丈夫だからね。私に任せてくれればいいから。』
そういってにっこりと笑ってたけど、意味がわからなくて何言ってんだこいつ…って思った。
ただ、ここでノエルの機嫌を損ねちまったら、売っぱらって金にも出来ねぇし
いったん話をあわせようと思って、うんうんうなづいてたんだよな。
で、ノエルに不動産屋につれていかれて、
そのままとりあえず物件を探すことになって、ただ全然話がわからねぇし
付き合ってても眠くなるだけだし、めんどくさくなったから
適当にやってもらって、あとで話聞いてやろうと思って、
『わりぃノエル。オレは先に宿かえって二度寝してるわー。後で話きいてやっからよ』
って伝えて、そのまま寝て、、で目が覚めたらここにいた、って
「いやいや???わけわかんねぇよ!?!?
喜んでもらえるとかわけわかんねぇよ!!!!
オレはなんでここにいるんだよ!!!何で扉に鍵かけてんだよ!?」
「念のためだよ。最初はユウヤ知らない部屋だから
混乱して家から出てっちゃうかもしれないし
ちょっと冷静になって、昨日のこと思い出してもらいたいなって思って。
どう?思い出した?」
「思い出したから聞いてんだよ!!」
「え…?昨日のこと思い出してなんでここにいる理由なんて聞くの?
ユウヤここにいるのって当たり前のことだよね???
だって家選び任せてくれるって言ってくれたじゃない。
私その時『あ、やっぱりユウヤは私のことわかってくれてる』って嬉しかったのに、
なんでそんなこと言うの…ねぇ、なんで?」
背筋がぞっとした。こいつの言っていることがわけわかんねぇ。
会話が成立している気がしない。
呆然としているオレの顔を見て、ノエルはにっこりと笑って
「やっぱり混乱してるんだよね。しょうがないしょうがない!
私は全然怒ってないから、ゆっくり気分落ち着けてよ。ね。
落ち着いたらまた話そう」
といって、ドアを閉めて鍵をかけてしまう。
「おい!!!ここをあけやがれ!!!おい!!!!」
ドアを何度叩いても、ノエルが戻ってくる気配はなかった。
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このまま待っていても、らちが明かねぇ。対策を考える必要がある。
こうなっちまった理由は、一番ありうるとしたら
魅了眼のかかり方が甘かったせいかもしれねぇ。もっと目を合わせる必要があったか?
中途半端なかかり方してて、俺への恨みが残ってるとかが可能性としては高いか…
そう考え、オレはおとなしくノエルがまたこの部屋に訪れるのを待つことにした。
いったん受け入れたふりをして、あいつがのこのこ近づいてきたところで、
もう一度術をかけなおせば、ここから出られるはず。
数時間後、ノエルが部屋に入ってきた。
オレは焦る気持ちを押さえつけて笑顔を作る。
「ノエル。悪かったな。オレが混乱してたみたいだぜ。」
するとノエルも笑顔を返してきた。
「私も悪かったよ。なんか準備が足りないまま話を進めちゃって、
ユウヤが混乱するのも当然だよね」
「ははっ。そう言ってもらえると嬉しいぜ。」
そんな会話のうちにノエルは無防備に近づいてくる。
(いまだ!!!!発動、魅了眼!)
オレは再度ノエルに魅了をかける!
これで万事うまくいくはず…
「??ユウヤ、なにやってるの??」
「…え?」
「急に眼を見てぶつぶついって、おかしいユウヤ」
なんら様子が変わらず、ノエルはくすくす笑う。
これは魅了がかかっていないんじゃねぇ…
こいつ俺に魅了された上でこんなことやってやがる
オレは少しの間呆然としてしまう。
カチリ。
はっと気づくと、ノエルがオレの首元に、チョーカーみたいなものをつけている。
「ん?これはね、魔封じの首輪だよ。ほら、私たちしっかりと話しあうときにさ、
ユウヤがさ、私のこと好きすぎて万が一興奮して、魔法暴発しちゃったら危ないじゃん。
私もしっかりと冷静に話したいしさ。だからユウヤにはこのうちにいる間は
これをつけてもらうことにしたの。せっかく買った家だからね。
そんなことあったら家を傷つけちゃうかもだからね。
もーユウヤ私のこと好きすぎてどうしようかって
思ってにやにやしちゃうんだけど。
ね。ユウヤも喜んでくれるよね?ね?」
こいつの支離滅裂な言動にいい加減我慢の限界が来たオレは、
怒鳴り上げる!
「…は????ふざけんなこの腐れ女が!!!さっきから何言ってるか
全然わかんねえんだよ!!!何言ってんだよお前、頭おかしいんじゃねえのか!!
オレがいつお前と一緒に家かって住もうとか話したよ!!!勝手に決めてんじゃねぇよ
この首輪もなんだよ!!!気持ち悪いんだよお前!!!ふざっけっ」
ばきっ!!!!
突然顔に激痛が走り、ふっとばされたオレは体ごと壁に激突する。
せき込みながら顔を見上げると、無表情になったノエルが
つかつか近寄ってきてオレの胸倉をつかみ上げて手を振り上げる。
ばきっ!!!さっきの、ばきっ!!激痛は、ノエルの、ばきっ!!平手打ちばきっ!!
ばきっ!!ばきっ!!ばきっ!!ばきっ!!ばきっ!!
ばきっ!!ばきっ!!ばきっ!!ばきっ!!ばきっ!!
ばきっ!!ばきっ!!ばきっ!!ばきっ!!ばきっ!!
ばきっ!!ばきっ!!ばきっ!!ばきっ!!ばきっ!!
ばきっ!!ばきっ!!ばきっ!!ばきっ!!ばきっ!!
ばきっ!!ばきっ!!ばきっ!!ばきっ!!ばきっ!!
…視界が真っ赤にそまり、ほとんど何も見えなくなる。
ノエルの声だけが降ってくる
「ねぇねぇユウヤ。なんでそんな常識のないこと言うのかな?
夫婦になったんだよね?一緒の家に住んで、お互いを愛し合うのは
当たり前のことだよね?私なにか間違ったこと言ってるかな?
ねぇねぇ。間違ったこと言ってるのどっちかな??ユウヤだよね??
ユウヤだよね??」
再度胸倉をつかまれて前後に揺さぶられる。
とにかく痛くてしょうがなかったので、
首を縦に振って、ノエルの機嫌をこれ以上損ねないようにする。
すると、突然ぎゅっと抱き着かれる。
耳元でノエルがささやく。
「そうだよねユウヤ。わかってくれてありがとう。私だって
こんなことしたくないんだよ…でもユウヤにわかってもらいたくて
ユウヤのためを思ってやってるんだからね。ほら
夫婦だから、お互いを成長させあわないといけないじゃん。
私はユウヤを支えるからさ、ユウヤは私を支えてよ。
そうしてお互いが愛し合って、一緒に暮らしていきましょう」
「…」
恐怖しか感じなかった。こいつの言ってること
やってることが何も理解できない。けど逆らったらきっと殺される。
魔封じの首輪もつけられて、さっきから魔力も全く感じられない。
とりあえず言うことを聞いて、こいつが何で怒って、何で笑うのか、
見極めていかないと。まだオレは死にたくねぇ。
オレのくそ親みたいに、野垂れ死にたくねぇ!
「じゃあ、ユウヤ、これからよろしくね。私もユウヤのこと
精一杯愛するから、ユウヤも私のこと精一杯愛してね」
「…あぁ。もちろんだ」
そうしてオレの新たな生活が始まった
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「ねぇユウヤ。私の渡したお金のおつりがさ、
いつもより足りないんだけど?なんで?」
「いや、オレは普通にお前の言われた通りのものを
買ってきただけだ」
「え??だったらこんなにしないよね。だって
もっと安い店もあったよね?なんでさぁそういうところ
気を使えないわけ?ねぇ?無駄遣いよくないって
あれほど伝えたよね?」
「いや、それはおかしいだろうが!お前が買って来いって
言ったやつ買ってきて、何がわりぃんだよ!」
「…ふーん。ユウヤ、そんなこと言って
まだわかってくれないんだ。私のこと。反省してほしいから
今日もご飯はなしでいいわね。」
「いやもうオレ3日間何も食べてねぇんだが…」
「で?それが何?」
「はぁふざけんなっ…」ばきっ!!!
「とりあえず、ご飯作るのはユウヤの仕事なわけだから、
それはやってよね。それは決まりだから」
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「ねぇ。ユウヤ。今日私行きつけの雑貨屋からさ、
『ノエルちゃんの彼氏から、なんかノエルちゃんから
殴られてるって、助けてくれって言われたんだけど、
あいつのことだからどうせ嘘だよな?
優しいノエルちゃんに限ってそれはないよな』
って言われてさ」
「…」
「誤解を解くのにすごい苦労しちゃったんだけどさ、
ねぇ、なんでそんなウソをつくの?私のこと馬鹿にしてるの?」
「…いや、嘘じゃねぇだっ」ばきっ!!!!
「ねぇ。ユウヤ。愛してるわ。だから私こんなことしてるの。
ユウヤも早くわかって。ユウヤのためを思ってやってるのよ」
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「ねぇユウヤ。今日近所のおばさんたちから、
『最近ノエルちゃんの彼氏、人が変わったように真面目で
寡黙になったわねっ。これもノエルちゃんが献身的に
支えているから、きっと心を入れ替えたのね』って言われちゃった。
周りの人から見ても、やっぱり最近ユウヤが良い感じになってきたの
みんな気づいているみたいよ。」
そんなわけねぇ…単に何を言っても周りがノエルの味方で、オレの言うこと
何もきいてくれねぇから、黙ってるだけだ…
オレは歯をかみしめたが、黙ってた。何か言うと殴られるからだ。
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「ねぇユウヤ。ギルドからさ、『ユウヤがクエストをこれ以上やらない場合、
期間があいちゃうから、資格はく奪になる』って言われたから、『それでいいです』
って言っておいたよ。私と一緒に暮らして、私が稼いでくるからいいよね。
ん?なんで泣いてるのかな?」
オレは何も言わなかったが、ポロリと涙がこぼれていたようだ。
今までろくなことをしてこなかったオレでも、
生きてきた証であるギルドの資格はく奪は抑えきれないほど
悔しかったようだ。
「いや…ノエル。これは嬉しくてないてるんだ…」
「そうだよね。まさか資格はく奪が悲しくて泣いてるわけじゃないよね!
よかった。誤解してまたユウヤに躾をしなきゃいけないところだったよ」
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「ただいまーユウヤ。元気にしてた?」
「…」
「ねぇ、私伝えたよね、私が帰ってきたらまず
『おかえりノエル愛してるよ』って必ず言うこと。
そしてご飯を用意して待ってること。
それが常識だって。何でそれがわからないのかな?ねぇ。
もっとたたけばわかるかな?」
「…」
「ねぇねぇねぇ。言ったよね???私きちんと言ったよね??
なんでわかんないのかなあ。伝わってないよね。もっとしっかりと
伝えてあげたほうがいいのかな?」
「…すまねぇ。ノエル。お帰りノエル。愛してるよ」
「うんうん!やっとできるようになってきたね。
私だってやりたくてあなたのことたたいてるんじゃないんだからね。
愛してるからこそなんだから、そうやってしっかり私のことを愛してるって伝えてくれれば
私だって安心してユウヤと話せるんだから。ユウヤしっかりしてよね。もう」
「…ああ、そうだな。オレはお前に愛されてるな」
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「ねぇユウヤ。最近のユウヤの料理っておいしくなってきたよね。
お買い物もきちんと予算通りできるようになってきたし。
うんうん。ユウヤもできるようになってきたじゃん」
「…ほんとか?ほんとにそう思ってるか?」
「え?ほんとだよ。私も嬉しいよ」
「…ああ、オレもお前に喜んでもらえて嬉しい」
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最近、オレは幸せの意味が分かってきた。
今までのオレは、女を食い物にしか見てないろくでもない男だった。
それをノエルが変えてくれた。
ノエルが常識を教えてくれた。
正しい正しくないを教えてくれた。
ノエルはオレを大事にしてくれている。
躾もされるし、たたかれるけど、それはオレを愛しているからだ。
ノエルが笑うとオレも嬉しい。ノエルが喜ぶとオレも幸せだ。
最近ノエルが何をやったら喜んでくれるか、やっとわかってきたんだ。
でも、オレ自身は何にもできない男だ。なんの価値もねぇ男だ。
ノエルがいなければ前みたいなクズみたいな男になっちまう。
せっかくつかめたこの幸せを、オレはもう放したくない。
ノエルと一緒に生きて行って、ノエルと正しい夫婦になりたい。
きっとオレは今までたくさん間違ってきた。でも今きっとやり直せてるんだ。
ノエルは正しい。ノエルはオレを愛してくれている。
ノエルは正しい。ノエルはオレを愛してくれている。
ノエルは正しい。ノエルはオレを愛してくれている。
ノエルは正しい。ノエルはオレを愛してくれている。
ノエルは正しい。ノエルはオレを愛してくれている。
ノエルは正しい。ノエルはオレを愛してくれている。
ノエルは正しい。ノエルはオレを愛してくれている。
ノエルは正しい。ノエルはオレを愛してくれている。
ノエルは正しい。ノエルはオレを愛してくれている。
ノエルは正しい。ノエルはオレを愛してくれている。
ノエルは正しい。ノエルはオレを愛してくれている。
ノエルは正しい。ノエルはオレを愛してくれている。
ノエルは正しい。ノエルはオレを愛してくれている。
ノエルは正しい。ノエルはオレを愛してくれている。
「ただいまー」
オレの幸福が帰ってきた。
オレは今、幸せだ。
感想、誤字脱字報告、本当にありがとうございます!!
こんな話でも、続きを期待してくださった方がいらっしゃったので、
無い頭ひねって書いてみました。
筆が遅くて申し訳ねぇです…




