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寝取られ男の幸せ




「はは、ははは、あはははは。やった、やったぞ!俺は、やったんだ!!」



やはり、こんな時に感情を抑えるのは辛いものだ。ただ俯いて、ぼんやりとしていたが、だんだんとこらえきれなくなってきた。




喜びが爆発している!!今、俺は喜んで泣いているのか。



あの、ノエルを、あれだけ幼い頃から、人生を

無茶苦茶にされてきたノエルから、解放されたんだ。



「よう。色男。ついにやりやがったな!おめでとさん。」

「良かったな!あのユウヤはこれからひでぇ目に合うかもだが、自業自得だぜ!おれはスーッとしたわ。」



顔をあげると、今回の事態を固唾を飲んで見守ってくれていた酒場の常連達が声をかけてくれた。



「おい、さっきからお前さんのこと、心配そうに覗いてたぜ。お前さんの恋人だろう。」



酒場の入口からは、俺の心から愛する人が、顔を覗かせて、俺のことをじっと見てくれていた。危ないから、来るなと言っていたはずなのに。



その姿に我慢しきれず走りよると、衝動的にぎゅっと彼女を抱きしめる。周りの冷やかすような声も全く気にならない!



「アッシュ。ついに、ついにやったのね。

もう大丈夫なのよね?ノエルさんは、もう

来ないのよね」



「ああ、あいつはもう二度と戻ってこない。

ユウヤが連れて行ってくれた。あいつの頭の中には、もう俺はいない。いないんだ。解放されたんだ。」



「ずっと…ずっと辛かったね…」



その言葉を聞いて、俺は涙が止まらなかった。

やっとだ。やっと解放されたのだ。






小さい頃からずっとノエルにがんじがらめに縛られて生きてきた。

周りからは美人の幼馴染ということだけで羨ましがられて、何を言っても「のろけてんじゃないよ」と言われ、親からも「ノエルちゃんの言うことは正しいんだから、しっかり聞きなさい。」と言われ続けてきた。



そんな俺に転機が訪れたのが、昨年のこと。

クエストに必要なポーションを1ゴールドでも安く買わなきゃと、半狂乱になって道具屋を走り回っているときに、道具屋の娘だった彼女と知り合った。



最初は、何でこんなに必死なんだろうと、半ば興味本位で声をかけてきた彼女。

しかし、その優しい雰囲気についつい、俺はノエルの話をした。

彼女は心底同情してくれた。



そんな彼女の暖かさが、俺には眩しく、真っ直ぐに俺を見てくれる人がいるのだ、という感動さえ覚えた。

その後も、買い出しに行く度にノエルの目を縫うようにして、彼女に会いに行った。

そこが俺の唯一の陽だまりであり、彼女もそんな俺の気持ちを受け入れてくれた。







やはり最大の障壁になったのがノエルだ。

俺に異常までに執着しているノエルに対して、事実を告げる訳には絶対にいかない。

下手をしなくても、きっと目の前の彼女を害して、俺という名のおもちゃを、また手元に置こうとするだろう。



力では絶対に勝てないし、人脈でも高ランクのノエルには勝てない。

やはり、ぼろぼろになってポイッと捨てられるまで、俺は解放されることはないんだと心底諦めそうになった時だった。



彼女の父親から企みを持ちかけられたのは。



彼女の父親いわく、

魅了眼を持っていると噂になっている男がいると酒場の常連から聞いた。

そいつは街から街を渡り歩き、女性を食い物にしている碌でもない奴だが、だからこそ本物だと言える。

その魅了眼で、100%人間関係が壊れるのであれば、逆に100%壊して欲しい人間関係を、そいつの食指が動くように晒してやればいいのではないか。



そうしてお前もうちの娘と結ばれたいのであれば、このチャンス活かしてみろ、と俺の背中を押してくれた。



魅了眼、一見すると凄まじい魔法と言える。

しかしだ、今まで仲睦まじかった男女が、急に離れ離れになることが複数回あり、その周りには、同じ男の影があるとなると、あきらかにおかしいと皆気づく。

そうして、「あいつは魅了の魔法、魅了眼を持っているのでは」ということがあぶりだされたのが今回の形だ。



俺は結局、その賭けにのることにした。

あえて高難易度のクエストを受注するように仕向けて、ノエルに自分一人ではきつい、という印象を強く植え付けた。

その上で、魅了眼を持っていると確信され、周りから腫れ物にさわる扱いをされていたユウヤに、あえて話しかけに行った。



そうして、無事ノエルはユウヤのお眼鏡にかない、俺はノエルの束縛から解放されて、こうして自分の人生を取り戻すことが出来た。



もしかしたら、ノエルもこんな俺への執着より、ユウヤとの新しい恋愛に生き甲斐を見出してくれるかもしれないし。



みんなが幸せになったんだ。

俺は自分の幸せを掴めた、その喜びをを噛み締めつつ、彼女に口付けをした。






_______________




こうして、1人の男が、魅了眼という忌まわしい力を利用して、幸せを掴んだ事実は、魅了眼の新しい活用方法として、またたく間に世間に広まった。



国は外交、謀略、戦争などあらゆる局面での活用可能性を見出し、徹底的な魅了眼の検証を行い、発動条件やタイミング、指向性などを洗い出すことに成功した。

リスクは大きいが、その解呪の難しさ、永続性、かかった本人の自覚の薄さなどの「後腐れのなさ」は、何よりの切り札として、今後永きに渡り、活用されることとなる。







その歴史の裏側には、1人の寝取られ男が幸せを掴むための賭けに勝ったことと、1人の寝取り男の、その後の人生の悲惨だか、尊い犠牲があってこそだということは、あまり知られてはいない。


お付き合い頂きありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 草ァ!
[一言] 最後に笑わせてもらいました。
[一言] ユウヤが酷い目に遭って、ノエルが幸せ(笑)になってるその後が見たい。魅了眼を持ってることをめっちゃ嘆いてる展開。二話目とのギャップが面白そう。ノエルだけが幸せという(笑)
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