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突然の別れ話

「アッシュ、あんたとは、もうやって行けないの。

だってユウヤのことが好きになっちゃったんだから…」




同じ村で一緒に育った幼馴染のノエルから、そう告げられたのは、クエスト達成祝いの席のことだった。




ノエルの隣には、先月入ってきたばかりのユウヤがニヤニヤしてこちらを見ており、これみよがしにノエルの腰に手を回していた。




「アッシュ、俺も悪いと思ってるんだけどさ。これも人の縁だから、我慢しろよ。お前の魅力がなかったのが悪い訳だし。ノエルを責めるんじゃねえぞ」




俺は、顔を上げていられず俯き、こらえきれない唸り声をあげていた。



震えは止まらず、きっと顔は赤を通り越して、どす黒くなっていたと思う。




そんな俺の姿を見ても、いつも俺に優しかったノエルは無表情、冷たい目でこちらを見ていた。



そんな顔をするなんて…あの誰にでも優しかったノエルが、だ。

いつも俺には笑顔しか見せて来ず、そんな中たまに見せる拗ね顔や甘え顔のギャップに、実は毎回クラクラしていた。





ノエルは村に暮らしていた時から評判の美少女だった。



鼻筋がすっと通っており、たくさんのクエストをこなしてきたにもかかわらず、染みひとつ無い白磁のような肌。

胸はたわわに実り、歩く度に揺れるのをチラチラ横目でつい見ながら、目の前のモンスターにやられそうになったことも1度や2度じゃすまない。



笑顔を浮かべるとエクボができて、より彼女の魅力を引き立てるのだ。




たまたま隣に住んでいたこともあり、幼い頃から家族ぐるみの付き合いだった。



小さい頃は結婚の約束もしてたし、こうして都市に出て冒険者としてやって行くのも、将来を見越しての資金作りの意味もあるって、キラキラした目で、あれだけ話してたはずなのに…




その顔が今、俺の事を全力で否定していた。




「なぁノエルちゃん。もうこんな奴うちのパーティにもいらなくね。

お前の幼馴染ってことで、我慢してたがよ、荷物持ちなんてぶっちゃけ誰てもいいじゃん。

それよりさ、俺は自分の可愛いカノジョに色目使われるのが嫌なわけ」




「そうね。もうコイツはいらないわね。


アッシュ、あんた空気読んでもううちのパーティから抜けてくれない?迷惑なの」




「待ってくれ二人とも…待ってくれ…。突然どうしたんだよ。

ノエル、あれだけ将来を語り合ったじゃないか。

故郷の村では、ノエルの両親だって、俺がノエルと結婚する事を心待ちにしてるってこの前手紙送ってきたじゃないか」




「アッシュ。いきなりでそこは悪いとは思ってるわ。

でもユウヤと会ってから、私は真実の愛に目覚めたの。

あんたとは、愛じゃなかったの。つまらなかったの」




「そんな…」




「おいアッシュ、あんまりノエルを困らせるんじゃねえぞ!

お前も男なら恥を知れ!だせぇんだよ!

引き際ぐらいカッコつけろや!!

俺自分の女に色目使われたくないからよー。

荷物持ちなんてどこにでもいるし、つーことで、お前、どっか失せろよ。ぎゃははは」




確かに、俺は荷物持ちなんてダサい仕事に甘んじてついてきた。

ノエルと違って、魔力が全くなく、剣の才能もなかったから、それでもノエルと一緒に冒険するためには、ってことで、2人で話し合ってきたのだ。




滑り出しは良かったのだ。



攻撃はノエルが対処して、俺は様々なポーションや、魔石、薬草や食糧などを持ち運び、ノエルが万全の状態でクエストに臨めるように準備する。



前線で戦うノエルが少しでも楽になるようにする。そのためには、色々な店にも回ってツテを作り、1ゴールドでも安く仕入れられるよう、時には頭を下げ、嫌がられながらも、コツコツと資金を貯めてきた。




ただ、慣れと共にだんだんとクエストの難易度も上がっていき、ノエル1人だとどうしても手数が足りない局面が出てきた。



そんな時に、凄腕の魔力使いがこの街にきた、ということで、駄目元で声をかけに行った相手が、この街にきたばかりのユウヤだった。本人も乗り気で、臨時メンバーとして雇ったのだ。



軟派でいやらしい目をしてくるユウヤを、最初からノエルは毛嫌いしていた…はずだったのに。



段々と俺といる時もユウヤの話をするようになり、3人でいても、いつの間にかユウヤと話す時間が長くなり、こんな形で別れを告げられているわけだ。




急にだ。急すぎて、頭の整理が出来ない。




「じゃあな。寝取られクズ野郎。もう二度と俺らの前に顔見せるんじゃねーぞ」




「待て、待ってくれ!!


ノエル!!本当に俺のことが嫌いになったのか??そんなユウヤみたいなどうしようもない男を本気で良いと思ってるのか??」



「あんたっっ最低っっ!ユウヤのことそんな風に言うなんて許せない!!百回死ね!!!」



彼女からの返答は平手打ちと一緒だった。



剣で鍛えている彼女の力は物凄く、口の中から血と共に、歯が何本か飛んでいくのが、チカチカしている視界に見えた。



椅子から転げ落ちた俺を尻目に、2人は連れ立って2階に上がって行った。2階から上は、宿も兼ねている酒場だから、きっとそういうことなんだろう。




周りからは、

「あいつやりやがったな」

「あいつも可哀想に」

「自業自得だろ」

とかの声が聞こえてくる。






やはり、こんな時に感情を抑えるのは辛いものだ。

ただ俯いて、視界が滲んでいくのに任せて、俺は何も考えられずただただ、ぼんやりとしていた。

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