人を拾う
「これでびっくりするくらい体を軽く動かせるようになるわ。」
サリュがなんか言っているが途中からどうなったのかよく覚えていない。だけど気が付けばちょうど朝日が登るタイミングだった。
周りが陽で照らされると「あんこく」が唐突に姿を消し始める。あれだけ拠点の周りにいた黒い物体が一瞬でいなくなった。
やはりというかあんこくは太陽の光に弱いようだ。とりあえずあんこくが居なくなったから安心と言えば安心。
しかしそれを見届けるために起きていたというのに俺はなぜか拷問のような所業を受けていた。なぜ? ほんとなぜ?
「体が……重い。あとすっごく眠い。」
「そうね。今は体を休めた方が良いわ。」
「ああ。そうだろうよ。おやすみ……。」
重い体を引き摺ってウチに戻る。
「プニー、今日も探検に行くわよ。」
「ニュー、ニュー♪」
あいつらは元気だなあ。俺はもう限界だわ。寝る。
「きちんと水分とってから寝るのよー。」
背後から聞こえるサリュの声に手をピラピラと振って俺はウチのベッドに倒れ込んだ。
ーー
「あー、よく寝た。」
とっても爽やかな目覚め。起きて窓を開けると爽やかな風。日の頃は昼のおやつ時だろうか。腹減ったし喉が渇いた。
俺は外に出て神水を出すドラゴンの石像の様子を見る。水槽に一杯に貯まった透き通った神水。それが細い水路をつたって堀にちょろちょろと流れている。
「おっ、ちゃんと水が流れてる。」
作った設備が順調に動いているのは気持ちが良い。
ところで俺はサリュに変な肉体改造されたようだ。ちょっと肩をグルグル回してみても特にこれといった変化は感じられないが。
「よくわからないけどとりあえず腹が減ったし喉が渇いた。」
俺は水槽のフチに腰掛けて遅い昼飯を食べた。
すると、ブルン、ブルン、ブルン、シュゴーーー!!! とバイクの音が。サリュが帰って来たのかな?
城壁を越えて飛んできたサリュ(バイク人型形態)とその人型の頭の部分に乗ってるプニー。その機械の手には何か大きい「黒い物体」を抱えている。
「ただいまー。」
「ニュー。」
「おかえり、サリュ、プニー。その抱えてるのって何?」
人のサイズででっかい黒い物体。
「多分、人間。あんこくにやられた人ね。森を探検中に見つけたの。」
ほう。あんこくにやられた人とな。よく見たら黒い物体は人の形をしていた。黒い物体に覆われてすぎて顔や性別なんかは全くわからないが。
「あんこくの養分にされて死んじゃった人か。」
「いや、この人、生きてるみたい。だから連れて来たの。」
なんと、生きてるとな。こんだけ真っ黒なのに? まあ、でも生きてるならなんとか助けたいな。
「神水には癒しの効果もあるから効くかも?」
と、サリュからアドバイス。なるほど。
サリュに神水の貯まっている水槽の近くまで運んでもらって、コップにすくった神水を黒い人目掛けてかけてみる。
すると周りの黒い部分が剥がれて落ちる。
その剥がれた部分は、
(闇 3個を回収しますか? Y/N?)
素材「闇」として採取が出来た。
そして神水をかけるのと採取とを繰り返して出て来たのは……
「男? しかもえらい筋肉質だな。」
出て来たのはムキムキの大男。贅肉など何処にも無いような筋肉を持つ浅黒い肌をした男。上半身が裸で下は短パンのムキムキ。髪の毛は短くて赤い。歳は30才くらいか? いやもっと若いかもしれない。
「働き手ゲットね。」
いや、まだ働き手と決まったわけじゃないし。そもそもウチの拠点は何かしら働く事がないぞ。
「それと、はい。こんな物も見つけたわよ。」
サリュが取り出したのはトマトみたいな実。他にも玉ねぎ、リンゴみたいなものやキノコまである。
「でかしたサリュ! 食べられるものか?」
「もちろん。でもせっかくだから種として使っても良いのよ?」
種として使う? ……あっ、畑かな。以前たしかに「草の畑」が建造できたし。心の設計図を見てみると……確かにあった。
早速それぞれ畑を作る。「トマトの畑」「玉ねぎの畑」「リンゴの木」「椎茸の原木」、それぞれ一角のスペースをもって完成した。
それぞれが苗だ。
「働き手をあてて畑の世話をさせないとね。」
なるほど。
「ニュッ!」
プニーが僕がやる! と言わんばかりに触手を伸ばして挙手した。
そうか。プニーがやってくれるか。
「ニュー、ニュー♪」
プニーはノリノリで苗に水をやったり葉に虫がついてないかのチェックを始めた。頼むぞ。プニー。成長したらたんと食べろよ。
おっと。神水をかけた男をそのままにしてた。男の口元に手をやると息を感じる。生きているみたいだ。
俺は男をウチの中へ運ぶと新しくベッドを建造して寝かせた。起きたらちょっと話を聞こう。
なんてたってこの世界で初めて会う原住民だから。