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少年、居候する。


 僕は言葉を失った。


 ノインさんが言ったことは事実だろうか。


 だとしたら、平和な時代なんて来てはいない。


 シュニ人とナパ人の地位が入れ替わっただけだ。


 不意にノインさんの瞳から涙が零れ落ち、僕は我に返った。


「の、ノインさん……?」

「―――ああ、ごめんなさい。つい。こんな話、本当はお客様にするべきじゃないのに。嫌な気持ちにさせてしまいましたね」

「そんなことは。ただ、僕の父も……シュニ人のために戦い、死にました」

「ニルさんのお父様が?」

「ええ。父はナパ人で、シュニ人の差別をなくすために」

「でも、あなたの瞳は赤色をしています」

「そうです。母がシュニ人でしたから。僕は混血なんです。……ですが、ノインさんの仰るように、シュニ人とナパ人の間にまた新しい差別が生まれているのなら……そんな世界は、僕の父も望んでいなかったはずです」

「……あの、ニルさん」

「なんでしょう」

「あなた、一体何歳なのですか?」

「え?」


 気づけば、ノインさんは不思議そうな表情を浮かべこちらを見ていた。


「ナパ人が優位に立っていた時代は、もう七十年も昔の話です。その時代にあなたのお父様が生きていらしたのなら、ニルさんも相当なお爺さんですよね……?」


 しまった。

 うっかり本当のことを言ってしまった。


 何十年も山に籠っていてた僕はお爺さんになっていたはずなのだから、今こうして若返っているのは確かに不自然だ。


 山の中で変な少女に出会って若返らせてもらった、なんて言っても信じてはもらえないだろう。


「ええと、色々あったんです。実は僕、年齢の割に若く見られるんですよ。長い間山に籠っていたので、その影響かもしれません」

「山に?」

「そうです。剣聖を名乗る老人と剣の修行を……」


 って、これじゃまるで僕が頭のおかしい人だ。


 どうしよう。うまく弁解しなければ変質者として通報されるかもしれない。


 恐る恐る僕が顔を上げると、ノインさんは笑っていた。


「……ふふ。ニルさん、面白い方ですね」

「そ、そうですか。それは良かったです」


 どうやら冗談だと思われたらしい。

 とりあえずは一安心だ。


「ずっと山にいらっしゃったということは、お家は?」

「一応山の奥に。ですが、ここがどこか分かりませんし、街並みもすっかり変わっているでしょうから無事に帰れるか……」

「では、お家が見つかるまで屋敷にお泊りになってください」

「……え、いいんですか!?」


 予想外の申し出に、僕はつい声が大きくなった。


 ノインさんは上品な微笑みを浮かべたまま頷く。


「もちろんです。この屋敷にはお客様も滅多にいらっしゃらないので、退屈していたところだったのです。ニルさんのように面白い方なら大歓迎です」

「あ、ありがとうございます、ノインさん!」


 なんだかよく分からないが気に入られたようだ。


 ラッキー。


 かくして、僕のお屋敷生活が始まったのだった。




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