少年、剣聖と出会う。
※
目が覚めると、僕は冷たい土の地面に寝かされていた。
木々の生い茂る林の中にいるようだ。
辺りはすっかり暗くなっていて、僕のすぐ横にある焚火の火だけが明るかった。
「……ここは……?」
「気が付いたかね」
体を起こそうとした僕に、男の人の声が聞こえて来た。
見ると、焚火の傍らに初老の男性が一人座っていた。
「あなたは一体……痛っ」
僕は思わず顔をしかめた。
殴られた痛みがまだ残っている。
「わしの名前はネーモ。ナパ人に襲われていた君を助けたのはわしじゃ」
「あ、ああ、それはありがとうございます」
体を起こし、僕は男の方へ向き直った。
男は白髪で、着古したような麻の服を着ていた。
「何、礼には及ばん。わしもシュナ人だからな。弱い者同士助け合わなければ生きていけんさ。さあ、飲みなさい」
男は、火にかけていた容器からコップに何か液体のようなものを注ぎ、僕に手渡してくれた。
「はあ、どうも……」
飲んでみると、液体は甘かった。痛み止めか何かが入っているのか、少し頭痛が和らいだ気がした。
「君も災難じゃったな。道を歩いていただけであんな目に遭うとは」
「僕も驚きました」
「しかし、君の御父上はナパ人だと言っていたな?」
「はい。父がナパ人で、母がシュニ人です。でも、二人とももう死にました」
「そうか。どうして亡くなられた?」
「父がシュニ人の解放運動をやっていて、それで、ナパ人に襲われて……続いて母も病気で」
ネーモさんは深いため息をついた。
「それは不幸なことだったな。……悔しかろう」
「はい。それはもちろん」
僕を襲った男の顔が頭をよぎる。
あんな男たちのせいで、父は死ななければならなかったのだから。
「では、今は独りなのじゃな?」
「ええ、そうです。今は山奥で暮らしています」
「そうかそうか。ならば都合がいい」
「……都合?」
「君、力が欲しくないかの?」
「……力?」
「まあ、見ておれ」
そう言ってネーモさんは杖を片手に立ち上がった。
怪我をしているのか右足を引きずりながら、一本の大木の前に立つ。
そして、杖を構えた。
「何をするんですか?」
「斬る」
「斬るって、この木を?」
「そうじゃ。一瞬だぞ」
ネーモさんの纏う空気が変わったような気がした。
だけどそれもほんのわずかな時間で、ネーモさんは再び僕の方を振り返った。
「……終わったんですか?」
「ああ」
「で、でも」
木は枝一本切れていないし、ネーモさんが動いたようにも見えなかった――僕はそう思った。
目の前で、大木が真っ二つに切り裂かれ、ゆっくりと倒れるまでは。
「言っただろう。一瞬だと」
僕は言葉も出なかった。
ネーモさんは、少しも動いたようには見えなかったのに。
「な、何が……」
「わしはかつて剣聖と呼ばれた男じゃ。しかし、戦場で膝に矢を受けてしまってな。それ以来一線を退いておるのだが……どうかね、君。この剣技を身に着けたいとは思わんかね」