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少年、剣聖と出会う。



 目が覚めると、僕は冷たい土の地面に寝かされていた。

 木々の生い茂る林の中にいるようだ。

 辺りはすっかり暗くなっていて、僕のすぐ横にある焚火の火だけが明るかった。


「……ここは……?」

「気が付いたかね」


 体を起こそうとした僕に、男の人の声が聞こえて来た。

 見ると、焚火の傍らに初老の男性が一人座っていた。


「あなたは一体……っ」


 僕は思わず顔をしかめた。

 殴られた痛みがまだ残っている。


「わしの名前はネーモ。ナパ人に襲われていた君を助けたのはわしじゃ」

「あ、ああ、それはありがとうございます」


 体を起こし、僕は男の方へ向き直った。

 男は白髪で、着古したような麻の服を着ていた。


「何、礼には及ばん。わしもシュナ人だからな。弱い者同士助け合わなければ生きていけんさ。さあ、飲みなさい」


 男は、火にかけていた容器からコップに何か液体のようなものを注ぎ、僕に手渡してくれた。


「はあ、どうも……」


 飲んでみると、液体は甘かった。痛み止めか何かが入っているのか、少し頭痛が和らいだ気がした。


「君も災難じゃったな。道を歩いていただけであんな目に遭うとは」

「僕も驚きました」

「しかし、君の御父上はナパ人だと言っていたな?」

「はい。父がナパ人で、母がシュニ人です。でも、二人とももう死にました」

「そうか。どうして亡くなられた?」

「父がシュニ人の解放運動をやっていて、それで、ナパ人に襲われて……続いて母も病気で」


 ネーモさんは深いため息をついた。


「それは不幸なことだったな。……悔しかろう」

「はい。それはもちろん」


 僕を襲った男の顔が頭をよぎる。


 あんな男たちのせいで、父は死ななければならなかったのだから。


「では、今は独りなのじゃな?」

「ええ、そうです。今は山奥で暮らしています」

「そうかそうか。ならば都合がいい」

「……都合?」

「君、力が欲しくないかの?」

「……力?」

「まあ、見ておれ」


 そう言ってネーモさんは杖を片手に立ち上がった。

 怪我をしているのか右足を引きずりながら、一本の大木の前に立つ。


 そして、杖を構えた。


「何をするんですか?」

「斬る」

「斬るって、この木を?」

「そうじゃ。一瞬だぞ」


 ネーモさんの纏う空気が変わったような気がした。


 だけどそれもほんのわずかな時間で、ネーモさんは再び僕の方を振り返った。


「……終わったんですか?」

「ああ」

「で、でも」


 木は枝一本切れていないし、ネーモさんが動いたようにも見えなかった――僕はそう思った。


 目の前で、大木が真っ二つに切り裂かれ、ゆっくりと倒れるまでは。


「言っただろう。一瞬だと」


 僕は言葉も出なかった。

 ネーモさんは、少しも動いたようには見えなかったのに。


「な、何が……」

「わしはかつて剣聖と呼ばれた男じゃ。しかし、戦場で膝に矢を受けてしまってな。それ以来一線を退いておるのだが……どうかね、君。この剣技を身に着けたいとは思わんかね」



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