第1話-5 『妖怪の素』ってトコやな
新キャラ登場、そして緊急事態発生? したかも。
「な、ななななんですか、ココ……?!」
生物室に一歩、踏み込んでみると、そこは……ある意味不思議空間だった。
だって。
訳の分からない物がいっぱい、ふわふわと部屋中に浮かんでるんだもん。
幼稚園くらいの子が、クレヨンとかでテキトーに描いた落書きみたいな物がうようようじゃうじゃ……。
「あはは。そーなるわな、フツー」
会長さんが愉快そうに笑っているのを、先に来ていたらしい副会長さんが見つけて怒鳴りつける。
「―――遅いぞ、蓮!!! って、お前。その子本当に連れて来たのか?」
「そやかて、たまちゃん生徒会見習いやし~。んー? あれ、雅は?」
「雅もまだだ。全く、どいつもこいつも……」
丁度そこへ、書記さんが誰かを連れてやって来た。
「ごめんなさい、遅くなりましたわ! その代わり、助っ人も連れて来ましたから勘弁して下さいません?」
と、一人の男子生徒の腕をガッチリ掴んで居る。
「ありゃ、タイチ! 雅に捕まったんかいな。こりゃご愁傷様やったなぁ」
相変わらず妙に楽しそうな会長さんとは裏腹に、そのタイチと呼ばれた男子生徒はそれはもう不機嫌極まれり、といった表情で。
「蓮、俺はお前らみたいにほいほいボランティアする気になれん。―――帰らせてくれ」
「もう、何を仰ってますの? 来たばっかりじゃありませんか!」
あああ、また知らない人が増えちゃった……。
「あ、あの、会長さん……あの方は?」
「ああ、たまちゃんは逢うの初めてやな。
生徒会執行部役員で会計の大鴻池 泰智。学年は1コ上で、雅の幼馴染みさんや」
「やすとも……?」
「音読みするとタイチになるってんで、子供の頃からのあだ名なんやて。
理数系やから会計頼んだんやけど、こっちの活動では、もっぱら前衛役やなー」
「ぜんえー……?」
うぅん、話が全然見えないんですけど……。
ホントにこれから何するの???
「タイチも居ったら瞬殺ちゃうんか……て、オレ、必要なくね?」
「サボるなよ、蓮。今回も逃亡したら晩飯抜きだからな?」
副会長さんが睨んでる。今回『も』って事は、前にも、一度ならず逃亡してるって意味、なんだよね?
うぅん、ホントにどういう状況なの~?!
「ええ~~?! ……しゃーないなぁ。育ち盛りやのに、メシ抜きは耐えられへん!
それに時間的にも、そろそろ出尽くした頃やし、気張ってお掃除始めよか~、な、タイチ?」
「だからッ、俺を数に入れるなって言ってるだろうがッ!!!」
と、会長さんの開始の言葉と共に、皆さんはどうやらこの部屋に漂っている、この落書きみたいな物を消していってる? みたい……。
嫌がっていた会計さんも、渋々活動従事中? ぽい。
「……って、何してるんですか、皆さん?」
「なんだ、蓮。連れて来た癖に、ちゃんと説明もしていないのか?」
副会長さんの、これまた不機嫌そうな声。
「あー、うん。それもそうやな~。あはは、でも何から説明しよかー?」
どうやら説明はして貰えるみたいだけど、何か、会長さんってば、困ってる???
「え-と、じゃ、じゃあ、このふわふわ浮いてるのって何なんですか?」
「コレか。コレはなー、何ちゅうたら良えやろ。たまちゃん、お化けとか妖怪とかって信じる方?」
な、何か、話があさっての方へ飛んでるような気もするけど……実は、私―――
「……し、信じてます! そーゆー話、好きだし。
―――でもまだ一回も見た事無い、んですけど……」
「おお~、良かった。そしたら、オメデトウやな。
この、ふよふよしとるん、妖怪の素やから」
「ヨーカイのモト……?」
言われた意味が、よく分からない。
「魑魅魍魎にすら、まだ成れてへん”氣精”の状態、故に『妖怪の素』ってトコやな。
とは言え、このまま放っとくと、いずれ成長してやっかいな妖怪になってまう可能性があるねん」
あー、成る程。だから”妖怪の素”なんだ。
「だから、大事になる前に掃除しなくてはならない。このレベルならまだ俺達でも対処可能だからな」
と副会長さんは言うけれど。こんなの、私、見たの初めてで……。
コレ、触れるのかな……?
「あー、アカンで、たまちゃん。
ここでは結界の作用で”氣精”が実体化しとるさかいに、下手に触るとビリッとか、バチッとかするで」
慌てて出してた手を引っ込めた。
「まぁ、ゆーてもたかだか静電気くらいの衝撃しか無いやろーけど……―――ん?」
これまでずっとニコニコしていた会長さんの表情が消えた……?
「―――どういう事や……?
卿夜、雅! 結界強度最強まで上げぇ!! タイチ、たまちゃん頼む!!」
「蓮、どうし……」
「良ぇから言ぅた通りにせぇ! ―――何でか、大物が喰い付いて来よったで。
呼びもせんのに、全く」
会長さんが、窓の方を厳しい表情で睨んでいる。
一体何が起こったのかも分からないけれど、会計さんが私を庇うように前に立つ。
「な、何なんですか?!」
「まずいな……。”氣精”どころじゃない。
この妖気のデカさ―――蓮の言う通り、何か”大物”が来た。
雅、お前、回復用の札持って来てるか?」
会計さんが書記さんに確認してる。
「……残念ながら。今回は小物相手とタカを括ってましたもの。
これは次回への教訓ですわね」
悔しそうに書記さんが警戒態勢? を取る。
けれど―――。
「卿夜ぁ!! ボサっとせんと!!
結界レベル上げて、はよ回復用意しとけ!!!」
「―――あ、ああ。悪いッ」
会長さんの怒鳴り声に、副会長さんが我に帰ったように動き出す。
その様子を見ていた会計さんが、書記さんと声を潜めて話してるのが聞こえた。
「卿夜は能力はバカ高いが、実戦経験が殆ど無い。
雅、フォローは任せる。蓮の方は俺が行く」
「了解。タイチ、気を付けて」
「はは、しょうがない。卿夜は御曹司だからな。それに―――」
会計さんが口の端を上げて嗤う。
「蓮が、一体何処のどういう奴なのか、正体が分かるかも知れんしな」