第1話-3 転校早々、ご愁傷様
なかなか生物室に行ってくれませんな。話が進みません……。
「ああ、そうそう。
教室ではもうお前が居なかったから、こっちに連れて来たんだが……。
蓮、この後神崎に校内を案内してやってくれないか?
俺は昼からの授業があって準備もしなくちゃならん」
土岐塚先生がいかにも思い出した、という風に言い出した。
「んー? (モゴモゴ、ゴキュンッ)
フツー、そう言うんて、クラスの委員長とかに頼むんと違ゃうんか?
まぁ、カノジョがオレでも良えって言うんやったら、やるけど?」
頬ばっていたハムカツサンドを飲み込んでから、会長さんが返す。
「神崎、どうする?
蓮がイヤなら明日にでも学級委員長に頼むが」
「あ、その……会長さん、お忙しくないんですか?」
新任の生徒会長って、引き継ぎとかなんとかって忙しそうなイメージなんだけど、当のご本人は
コーヒーを飲み干し、持ち込んだウェットティッシュで手を拭いている。
「昼休みはこの後、用事無いで。
放課後にちょーっとした生徒会の会議があるケド」
いつの間にかあれほどあったパンの山が綺麗さっぱり無くなっている。
ま、まさか……この短時間で全部食べちゃったの?!
多分ウェットティッシュのボトルが入っていたビニール袋にパンや砂糖の袋、フレッシュの空き容器なんかをひょいひょいと放り込み、最後に口を縛って土岐塚先生の前に置く。
「したら、ゴミ宜しくな、センセ。ほんなら、行こか~」
* *
生徒会長の桜庭 蓮さんに連れられて校内を案内されていると、何だかその……やたらと注目を浴びてる様な気が、しています……。
「うわ、会長が女連れだ!!」
「珍しい!! 副会長と一緒じゃ無い!!」
なんて掛けられた声にも、会長は
「そうそういつもいつも、ワンセットと違ゃうねんで~」
と飄々と返している。
声を掛ける生徒はどの学年にも居て、前代未聞と聞かされた一年生の生徒会長が、意外な程上級生にも親しまれているのが分かる。
一通りの案内が終わった頃、丁度5限目の予鈴が鳴った。
「放課後の会議、すぐ終わると思うからちょっと待っててくれたら残りの特殊教室棟も案内するけど、どーする?」
「じゃあ、お願いします!」
会長さん、話が面白くて一緒に居ると楽しいから、ついお願いしちゃった。
その事を、今は、ほんのちょっと後悔してる。
どうして、放課後もついて行ってしまったんだろう……って。
お陰で『生徒会見習い』なんてものに勝手に指名されてしまって、今は明けて土曜日の4限目の授業終わり。
朝から、クラスのみんなの視線が……妙だな~とは思ったのよね。
「神崎さん……転校早々、ご愁傷様」
ある人は手を合わせて拝む真似。
「え? ええ???? な、何???」
「蓮会長に目ェ付けられるなんて、色々面倒だよ~?」
「会長も副会長もねぇ。
何気に人気者って言うか……トラブルメーカーって言うか……。
―――とにかく、頑張って!!」
またある人は、ぽんぽんと肩を叩いてくる始末。
な、何なんだろう、こんな風に言われる生徒会って??
「そんな、脅かす様な事ばっかり言うたらアカンやろ~。
たまちゃんが怖がるやんか。大体、オレが何するってゆーねん」
心底心外だと言いたげな会長さん。
「まぁ、そりゃあ……蓮会長自身は何かしなくても、ねぇ?」
「蓮会長自体は人畜無害だしな」
うんうんと級友達が頷いている。
「問題は、周りって言うか……追っかけ? みたいな連中だもんな」
「追っかけなんて居るんだ……」
「ははは。そうそう。しかもその筆頭が、あの副会長だったりするんだぜ?
前から知ってる俺らからすれば、青天の霹靂レベルのあの豹変ぶりには超ビビらされたからなぁ」
副会長……? っていうと、昨日紹介された、皇﨑 卿夜さん?
一見、沈着冷静そうな人だったけど……。
そこへ担任の土岐塚先生が入って来た。終業のホームルームが……あっという間に終わる。
帰る人、部活に行く人、掃除当番の人。途端にざわざわし始める教室内で、会長さんに呼び止められた。
「たまちゃん、今日来るんやろ? 一回家帰るんか?」
「あ、いえ、何処かでお昼食べて、教室にでも居ようかなって思ってますけど?」
と、聞かれた事に答えたのに、会長さんはむー、と表情を変える。
「ど、どうかしました?」
「なんで年がタメやのに言葉がずーっと丁寧語やねんな。
オレ、上級生と違ゃうで?」
―――ん? あれ、そうだっけ?
「なるべく、フツーに喋ってや。
てーか、勝手に見習いにしたん怒ってるとか、か?」
「……うーん。怒ってる、という訳では無いんですよね……。
まだ、その『生徒会見習い』って言うのが何をするのかも良く分かってないですし。
なので、取り敢えずは一回やってみようかなと。で、やっぱり無理だと思ったら辞めさせて貰います。
あと、言葉は……何でかな? 良く分かんないんですけど、自然とこうなっちゃうみたいです?」
頬杖ついて聞いていた会長さんは、納得したのかしないのか。
「―――まぁ、ええわ。
昼メシ、食堂行かへんか? 部活やる生徒の為に土曜でも食堂はやってるし。
……流石に縮小営業でメニューも半分くらいやけど」
「おいしいですか?」
「勿論や。太鼓判押すで? おばちゃんらに紹介したるわ」