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第4話-11 無い。無いんだ。ああ、無いんだよ……。マジで無いんだよ;

ご無沙汰しております;

「よーし、採点する間は休憩だ。お疲れ様!」


 回収した用紙を束ねて、トントンと揃えながら春破しゅんやが宣言すると、途端に生徒達から緊張感が消え去った。


「シュン兄厳し過ぎ~……;」


 わざわざ事前に運び込んで貰ったという机と椅子は、まんま朱鷺之台の高等部と同じ物だと言う話で。その机に文句を言いつつ突っ伏してしまったのは夏邪かやだが、同じ様な事は口に出さないだけで全員が感じているだろう。


学園ウチの教師連中よりずっと怖ぇ;」


 疲れ切った声でボソっとタイチが零す。

 今回のテキストとして各自に配られたのは、組織でも使われている教本を必要部分のみコピーした、術師の教育を受けているならお馴染みの内容。

 だがそれに合わせて春破が自分で作ったと言う”問題プリント”は、内容をしっかり読んで理解し、適切な回答をしないと丸が貰えない作りだった。

 そして、講義中に人を当てて回答させ、完全な回答が出るまで次々当てていく。その間、答えられなかったり、間違ったりすると立たされたまま。

 事前に除外、と断りのあった環樹に美統みのり、ロゼッタ以外は正答出来るまで何周でも当てられる……なんていう有様で。


「でも、確かに術師として現場に出るには、覚えていないと困る内容ばかりだったね~」


 顕秋けんしゅうが同じく疲れた顔で話す。


「そうですわね。出現率の高い中級妖魔の対処法も入っていましたし。

 ―――特に術の相性は細かいですから、再確認出来ましたわ」

「……雅は呪符でバリエーション豊富だからまだ良いじゃないか。

 俺なんて打撃オンリーだからなぁ……;」


 ちょっとは明るい表情の雅とは対照的に、本格的に落ち込んでいるタイチがやたら暗い。


「そう言えば、タイチさんって術とかホントにないの?」


 正冬まさとが不思議そうに聞いてくる。


「無い。無いんだ。ああ、無いんだよ……。マジで無いんだよ;

 術の素養はそこそこあるらしいけど、どれもこれも適性が無くてな。

 口の悪い同期には『宝の持ち腐れだなw』なんて馬鹿にされる始末でさ……」


 未だに悔しいのか口をへの字に曲げて顔を顰める。


「ああ、その同期ってあの人ですわよね? ……火炎術使いの火渡ひわたり 炎伽ほのかさん。確か、関東支部所属の方でしたっけ?」

「そうそう。あー、クソッ!! 今でもムカつく!!



 ―――とは言え、完全に事実だから反論も出来ねー……」


 後半はガックリと机に突っ伏してしまう。と、そこへパンパンと春破が手を叩く。


「採点済んだぞ! 上から発表するからな~」


 だらけきっていた空気が改まった。しんと静まって皆の視線が春破に集まる。


「えー、残念ながら満点は無し。最高は98点、なんと、たまちゃんだよ!」


 一瞬、間が空いて歓声? のようなどよめきが起こった。


「わ、わたし、ですか? 本当に?」

「凄いですわね、たまちゃん!!」

「ま、マジか……;」


「正式な訓練課程受けてる者は、大いに反省するように。

 さー、どんどん行くぞ~!」


 その後の発表では阿鼻叫喚……もとい、悲喜こもごもな状態になった。

 因みに、順番は上から


 環樹、雅、顕秋、正冬、泰智、美統、ロゼッタ、そして辛うじて赤点は免れた夏邪。


「―――夏邪、お前は……; 正冬の友達より点数低いのを心底恥じろッ!!」


 春破に雷を落とされた夏邪は首の皮一枚で今夜のBBQには参加可能だが、明日からの課題の大幅積み増しが決定した。





 さて、初日の座学が終了して、夜のお楽しみ行事の時間がやってくる。


「えーと、じゃあ、男性陣は冷蔵庫から飲み物を運んでくれるか?

 女性陣は厨房で食材を切ってトレーに並べて欲しい。

 顕秋、俺の車から炭持って来てくれ!」


 春破が弟に愛車の鍵を投げ渡す。


「了解~♪」

 

 それぞれが動き出し、わいわいと準備に取りかかる。

 少し経った頃、下の車道の方から誰かが上ってきた。


「やってるね~。お邪魔するよ」


 何て言いながら姿を見せたのは蒼眞……と卿夜。


「―――蒼眞?! もう任務終わったのか?」


 バーベキューコンロで炭の火起こしをしていた春破が声を掛ける。


「勿論、無事終わらせてきたよ。まぁ、ちょっと想定外の事もあったけれど。

 キチンと処理班の服部さんに引き継いできた」

「あぁ、服部さん……。じゃあ大丈夫か。

 ―――って、何だ?!」


 わーわーと騒ぐ声が屋敷から聞こえる。しかも、強力な魔力反応も!!

 条件反射で戦闘態勢に入る春破だが、蒼眞がのんびりした声を掛ける。


「大丈夫だよ、春破。敵じゃない。知り合いだ」

「し、知り合い?!」

「ああ。旧知の友、かな」


 強力な魔力反応の原因が玄関から飛び出してきた。


「―――本……?!」


 そう、ハードカバーで分厚い百科事典の様な本が、目に見える程濃い魔力のオーラを纏ってふよふよと飛んでくる。

 まっすぐに蒼眞を目指して。


 遅れてロゼッタや美統、正冬、雅に夏邪と言った面々が走ってくる。

 恐らく厨房で食材を切っていたメンバーなのだろう、夏邪はまだ手に包丁を持ったままだったりする。

 その後ろで環樹とタローちゃんが「何かあったんですか~?」と不思議そうに玄関口で首を傾げていたり、クーラーボックスに氷と水を入れペットボトルや缶を放り込んでいた泰智タイチと顕秋も「どうしたんだ?」という顔をしていたり。


「ど、何処へ行くのじゃーッ!! 待ってたも、ぷぎゃッ!!」


 先頭を走っていたロゼッタが転けた。美統と正冬が慌てて駆け寄る。

 その様子を横目に駆け抜け、雅と夏邪は面妖な”飛ぶ本”をロックオン。術を仕掛ける体勢に入ろうとした所で、蒼眞や春破が平然と立っているのに気がつく。


「な、何をなさっているのですっ?!」

「シュン兄?!」


「―――君達こそ、ちゃんと見ろ。

 この子には敵意も害意も無い」


 ”飛ぶ本”は、蒼眞の2m程手前で止まり、静かに浮かんでいる。

 ……いや、よ~く見れば小刻みにぷるぷると震えている?


 その様子を見ていた蒼眞が、やれやれと言いたげな笑みを浮かべて歩み寄り、すぃと手を伸ばし指先でちょんと触れた。

 その途端―――。

 ぼふん、と妙に漫画的な表現の煙が突如出現、それがヒュルヒュルと渦を巻き風船が割れるような音と共に消え去った。

 その後に一人の女性が立っていた。

 ピンク色の髪、翡翠色の瞳という姿はロゼッタとの共通点が見られる。

 白い服はデザインは同じだが、彼女の方がより動きやすさを重視したようなパンツスタイルで、腰には細身の剣らしき物をいている。 


「―――久しいな、ソフィア」

「し、師匠おおおお―――ッ!!!!!」


 その女性は大泣きしながら蒼眞に抱きついた。


「……で、それは誰で、何がどうなってるのか話して貰おうか?」


 戻ったばかりで何の情報も無い卿夜が、こめかみをヒクつかせながら説明を求めるが、実は殆どの者が情報が無いという点では同様だ。


「うーん、そうだねぇ……。

 この子はソフィアと言って、その昔、魔法を教えた事があるんだよ」


 あまりにざっくりしすぎな気がする説明を蒼眞が話す間も、ソフィアと呼ばれた女性は膝を膝を突いた状態で彼に抱きついたまま、うぇぇぇぇんと涙と鼻水を流しながら泣き続けている。


「ソフィア!?」


 ロゼッタがあんぐりと口を開けたまま絶句している。周りの者達も呆然としたままだ。

 蒼眞はソフィアを立たせて皆に向かい合うようにする。


「さ、ソフィア。自己紹介を」

「は、はい、師匠……(ズビ)」


 大急ぎで涙を拭い鼻を啜ると、改めて視線を正面へと向ける。


「―――私はソフィア・ブルー・カスティリョーネと申す。

 そこなロゼッタの系譜に連なる者。どうぞ、方々お見知りおきを」


 と綺麗な仕草でこうべを垂れた。そこにはつい先程までの情けない泣き顔の面影は目元が赤い事くらいしかない。

 その凜とした佇まいはショートカットの髪や丈の短い上着、腰の剣に口調も相まって、どこか騎士のようにも見える。


「その声に、名前……やっぱり御先祖様なのじゃ~!」


 キラキラした目で見つめるロゼッタが、先程のソフィアと同じ様に彼女に抱きついた。


「フフ……ロゼッタ、この姿でまみえるのは初めてですね。

 これも師匠のお陰―――」


 ソフィアはロゼッタを離すと蒼眞の前にひざまづく。


「お師匠様、久方ぶりでございます。

 まさか再びお会い出来る僥倖ぎょうこうに、我が身も心も打ち震えております」

大袈裟おおげさだね、ソフィアは……まぁ、私も君とまた逢えるとは思っていなかったよ。

 とは言えまずは、夕食の手伝いをしなくちゃいけない、よね?」


 蒼眞に話を振られた面々は、はっと我に返った。

 春破は消えてしまった炭の火に肩を落とし、夏邪は持っていた包丁を後ろ手に隠す。

 

「蒼眞、BBQ食べるよな? ……ところで蓮くんは?」

「勿論頂くよ。お腹も空いているし、結構楽しみにしているんだ。

 それから、蓮は暫く戻れないみたいでね。

 ―――彼の代わりに講師もやってこいってみことに言われちゃったんだ;

 さて、ところで私は何を手伝えば良いだろう?」


 と、周りを眺める蒼眞に、何故か妙に不機嫌そうな卿夜が言った。


「折角料理が上手いんだから、そっちがいいだろ」

「そうだね……材料が揃えば何か作ろうか。

 じゃあ厨房に案内してくれるかな?」


 夏邪と雅が『キャ―――ッ!!』と歓声を上げてがっちりと左右から腕を絡め連行……いや、案内する。左右から引っ張られながら蒼眞が二人を振り返る。 


「そうそう、ソフィアとロゼッタ嬢は積もる話もあるだろうし、ゆっくりすると良い。

 ―――っと、大丈夫だよね、春破?」

「ああ、構わない。まぁ、出来れば後で詳しい事情を俺達にも教えてくれると助かるかな?

 勿論、機密に関する事は伏せてくれて構わないから」

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