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第4話-8 卿夜、これ飲んで。全部だよ

「そう言えば……過去に重要人物が”変生”に偽装された事があったな」

「偽装?」

「そう。ウチの組織と当時の宮家との関係悪化を画策されてね。

 でも、偽装と、ホンモノの”変生”では明確な違いがあるんだよ。

 一目でバレて、画策したヤツは逆に討伐されたけれど」

「その明確な違いってどういう物なんですか?」

「あくまであの当時の場合だけれど……見た目、気配、能力など、”変生”としては圧倒的に『弱い』んだよ。

 あの時は……動物霊を憑依させられて居たのだったか。

 だから、人間の形を逸脱しなかったし、取り憑いた相手というのがまた、宮の中でもとびきり霊力の高い子だったから、すぐに動物霊の方が消し飛んでしまった。

 この場合、取り憑かれた本人と、憑依した動物霊とでダブって見えるんだ。

 ”変生”の場合は本人のみだから、違いも分かり易いだろうね」


 普通に話しているけれど、宮家って……天皇家か?

 そもそも今のは、いつの時代の話なんだろうか。


 平安時代には存在したと言われているだけに、戦国とか江戸とか言われても可笑しくないんだよな……とか考えていると、同じ事を思ったんだろう辰巳がおずおずと質問する。


「あ、あの……蒼眞様、その話はいつ頃の話なんですか?」

「ん? いつ、か。確かまだ室町の辺りだったかな……随分昔だから細かい年号は忘れてしまったけれど」


 ―――もっと古かったのか;


「それはそれとして……今回の黒幕の話をしておこう」

「く、黒幕……?! 分かっているんですか?!」

「と言っても、確証は無いんだけどね。覚えのある気配というか匂いというか……。

 先程の動物霊の話で画策したヤツ―――サトリだろうと思っている」

「サトリ……ですか……?」

「確か、人の心を読むとかいう妖怪、だったような?」

「前回討伐はされたけれど、魂核破壊には至っていないから、同一個体の可能性もあるね。

 今回の件でなら、教祖か……或いはその周辺の幹部辺りに潜んでいると思うんだ。

 戦闘力は大して高くはないけれど、いかんせん行動を読まれれば君たちだと対処しにくいだろうから、ヤツが出て来たなら私が相手をしよう。

 君たちは周りの相手を頼むよ。

 人間なら気絶させる、妖魔なら討伐で構わないから」


 辰巳の、ゴクリと息を飲む音が聞こえる。


「に、人間と妖魔と判別が着かない場合はどうすれば……?」

「辰巳の場合なら、襲ってこられたら一度峰打ちで打ち込む。倒れる様なら放って置けば良い。

 立ち上がってくるなら、自分の目とこれまでの経験を信じる事だ。

 相手の纏っている氣、気配、行動……判断基準は何かしらある筈だからね。

 それとも、事が終わるまで卿夜の術で”金縛り”にしておいても良いかな」 

「勘弁してくれ; 何人居るかも分からないのに……。

 それでなくてもさっき術使いまくって、そろそろ打ち止めだってのに」


 素直にもう限界だと言う卿夜に、何かを思い出したかのように蒼眞がスーツのポケットをごそごそしてから取り出したのは……絶対そこには入ってなかっただろう?! という500mlサイズのペットボトル。しかも、中には真っ黒い液体? が満タン入っている。


「卿夜、これ飲んで。全部だよ」


 ぽい、と投げ渡される。


「何だコレ?」

「MPポーション……じゃ分からないか。精神力回復水薬、と言った所かな。

 メチャクチャ苦いらしいけど効き目は折り紙付きだから、全部飲み干すように」


 ニコニコしながらそんな薬を勧めてくるなんて;


 仕方なくキャップを開けると、何とも言えない……とても飲用出来る代物とは思えない異臭が鼻を突く。思わず顔を背けたが、他の二人がじーっと見つめているのに気付いて渋々飲む事にする。息を止めて口に流し込む……が、言葉通り激しく苦い上に、やはり何とも言えない臭気と、ねっとりと舌に絡みつくような絶妙? なとろみ。

 間違いなく今までの人生の中で一番の激マズ味。

 見た目は最悪だけれど味はまだ食べられる範疇、という母親の手料理でさえ、コレに比べれば天国の食べ物に思える程だ。

 何かの拷問かと思いながらも何とか1本全て飲み込……んでいない。


「その口に残ってるのも飲み下さないと、その間匂いが辛いだけだよ」


 蒼眞の声かけに半分涙目になりながらも飲み下す。正直言って、吐ける物なら吐いてしまいたい……。


 ―――そこで意識が途切れた。


 目が覚めたのは、見知らぬ部屋の見知らぬベッド。

 横には辰巳が座っていて、何やら向こうを見てやり取りしていたが……。


「―――あ、気がつきました? 蒼眞様、卿夜くん目が覚めましたよ!」

「丁度良かった。こちらも出来たところだ。……卿夜、気分はどうかな?」


 離れていたらしい蒼眞が視界に入ってくる。

 聞かれて、意識が自分の状態に向くが、倒れる前の重怠い疲労感はすっかり消えていた。

 むしろ、すこぶる調子が良いとさえ感じるくらいで。


「かなり良い、かも?」

「すごい効き目だね……その分酷い味なのが困りものだよ。

 口直しと言う訳でもないけれど、遅めの昼食は如何かな?

 あり合わせで作ったから、簡単な物で申し訳ないけれどね」


 確かに美味しそうな良い匂いが漂っている。

 あれ、でも確か……現実世界での変生はどうとかで、メシは止めとこうって話だったような?


「吐くかも知れないからって言ってなかったか?」

「現地に来て分かったけれど、変生するような人間の匂いはしないんだよ。

 だから大丈夫かな、と。それにこれから”中”へ入るのに、あんまり空腹じゃ力が出ないでしょう?」


 確かに腹は減ってる。ペコペコだ。有難く頂こう。

 それにしても、匂いで変生しそうな人間が分かるなんてな……。

 俺は探知能力が低いから、ちょっと羨ましい。訓練すれば少しでも分かるようになるんだろうか? 


「うっっっま! あり合わせで作ってコレですか?! すっげぇ美味いです!!」

「口に合ったなら良かったよ。まぁ、最近の冷凍食品や即席物は美味しいから。

 ……と言うか、これくらいで喜ぶなんて、普段から自炊はしていないようだね?」

「むぐッ!!! ゴホッゴホッ!!!」


 なんてやり取りを横目に見ながら、黙々とチャーハンとポテトサラダ、餃子(これは冷凍)にオニオンスープ(こっちは湯を注ぐだけのやつ)を平らげる。確かに美味い。でも美味いのがまたムカつく。

 そりゃあ、生きてきた年月の長さを思えば、料理だって出来るだろうし、能力だって高いだろうさ。妖怪達の能力の高さはほぼ活動年数に比例するんだから。

 ―――はぁ……自分が目指しているのが恐ろしい程の遙かな高みだってのを、改めて思い知らされた気分だ。


 腹も膨れて人心地ついた後、”中”へ入る算段をする。


「特に話す事あるかな? ”中”へ入ったら、向かってくる者は無力化する。

 教祖や幹部達は、人間なら確保及び拘束。妖魔なら討伐、憑依なら剥がす。

 タレコミの通報者に会えたなら保護……と言った所か」

「あ、教祖や幹部の顔はこちらになります」


 辰巳が顔写真の添付された書類を出してくる。その数12枚。その中でも教祖というヤツは何度かニュースでも見た事がある顔だった。


「幹部、多いな……十人以上居るのか」

「まぁ、幹部と言ってもピンキリなんですよね。各部門の長も入れてありますから」

「―――そうだね、中でも重要なのはこの辺りかな……」


 蒼眞が中から5枚を抜き出して広げる。教祖と教祖補佐、会計部門長、製造部門長、風紀部門長という肩書きの5人。


「風紀……? 学校かよ;」

「いやいや、重要なんだよ。儀式と称して人を殺していると言う部門の長だからね。

 他も、教祖と教祖補佐という名のツートップ、会計は資金管理、製造は危険物製造と一番犯罪に関わっているだろう5人だ。

 サトリが隠れているならツートップのどちらかが怪しいけれど……どうだろうね。

 サトリの性格からして必ず私達の前に出てくるだろうから、わざわざ探さなくても大丈夫だとは思うけれど……おっと、そうだった」


 唐突に蒼眞がパチン、と指を鳴らす。途端に長い髪が短く切ったように変わり、感じられる氣も随分小さくなった。


「私が居ると分かればサトリが逃げるかも知れないから、偽装しておくよ。

 あくまで保険だけれど」


 確かに今の彼を蒼眞だとは思わないだろう。ほぼ卿夜や辰巳と変わらない術者のレベルまで氣を抑え、見た目も短髪に黒髪、黒目だから。しかも念の入った事に、部屋にあったクマのぬいぐるみに蒼眞の氣を放つよう術を掛けている。

 これなら、蒼眞はここに残って結界術に注力していると思わせる事が出来るかも知れない。とは言え時間を掛ければ見抜かれる恐れもある。


「さて、そろそろ大掃除といこうか。

 二人とも、油断の無いように―――」

MPポーションと言う名のク○ハ汁?

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