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第4話-7 よし、これでラストぉ!!

最近ネコハラが酷くて話が進まない……;

「生々しい事……って???」


「文字通りの意味だよ。だから、食事は辞めておこう。

 ―――吐くといけないからね」


 吐くの前提なのか……?!


 先日の、夢の中での出来事を思い返そうとして……止めた。対面に座っていた蒼眞がはっとしたように顔を上げ、表情が険しくなったからだ。


「まずいな……卿夜、手を」


 と左手を差し伸べられて、何の気なしにその手を取った―――ら、次の瞬間見える風景が変わった。


「?! ど、何処だ、ここ?!」


 本部の和室に居た筈なのに、今見えているのは少々古めではある物の、明らかに洋風だ。液晶のそこそこ大きなTVがあり、テーブルと椅子があり、床は板張り(あえてフローリングとは言わない)にカーペット。


「辰巳! 居るか、辰巳!!」


 蒼眞がやや焦った声で誰かを呼ぶ。


「は、はい! ここに居ますッ!!」


 慌てて入ってきたのは黒髪に黒スーツの……いや、上着は脱いで居るからYシャツに緩めたネクタイという、ややだらけた雰囲気の若い男。


「蒼眞様?! どうかされましたか? 予定ではもう少し遅い筈では……」

「奴らの動きの方が早い様だ。

 もう宗教組織という隠れ蓑は捨てる気なのかも知れない。

 この辺りの地図はあるか?」

「は、はい……ええと、こちらです」


 辰巳と呼ばれた男はガサガサと地図を広げた。


「―――ここが現在位置、そして例の宗教法人の土地がこの辺り一帯です」


 現在位置は地図の東の外れの方、そして西端を人差し指で広く輪を描くように指し示す。


「なるほど……じゃあ表に出ようか。

 下級だけど妖魔の群れがこちらへ向かってきている。

 ―――迎え撃つぞ」


「「……へ?」」


 卿夜と辰巳、両方が声を上げていた。


「大丈夫。君達二人でも充分対処出来る位のレベルだから。

 とは言え、向こうも本気だから下手すると喰われるから気をつけて」


「「……えぇぇー;」」


 またも、卿夜と辰巳が声を上げている。


「今回君達がこの任務に選ばれたのは、実戦経験を積んで貰う為でもある。

 それだけ上も期待しているのだから、是非とも応えてみせてくれ」


 ニヤリと蒼眞が笑うと、辰巳は勢い込んで「はいッ!!」と返事し、卿夜は嫌そうに顔を顰める。対照的な二人の様子に蒼眞は相好を緩めると、玄関へ向かいかけ……はたと足を止めた。


「? 蒼眞様……?」

「しまった、靴がない;」

「あ、俺もだ……」

「え、えぇ~~~?!」


 結局、たまたまあった靴を借りて妖魔の群れと相対する事に。

 卿夜はくたびれたスニーカー、蒼眞は合う靴がなくサンダルという、何とも締まらない絵面だが、時間的猶予もないので仕方がない。

 それに蒼眞の言葉の通り、すぐに下級妖魔の群れが西の方から襲いかかってきた。


「な、何だ、この数?!」

「人間の血肉を食らうタイプの下級妖魔だ。人間の気配を察知して襲いかかる。

 とは言え一般人ならまだしも、術者であるなら対処は簡単だろう」


 四つ足の獣のような形の物、そんな形すらない物、雑多な妖魔が夥しいほどの数で次から次へと波のように押し寄せる。

 そんな妖魔を3人は千切っては投げ、千切っては投げしながら対処していく。


「人間の気配……って、この村にはまだかなりの数の村人が居た筈ですが……」

「ああ、それは大丈夫。君達以外の人間には個別に防御結界を張った。

 だから、こいつらはひたすら君達を狙ってくるのさ」

「でも、いつまでもコレが続くと流石にこちらが不利になるよな?」

「君達二人には強めのバフを掛けてあるから、全て片付けるまでは頑張ってくれないか。

 大氾濫レベルだから、乗り越えられたら昇級試験でプラスになるよ」

「……頑張りますッ!」


 気合いを入れ直した辰巳が思い出したように話す。


「蒼眞様はエンチャンターも出来るんですね! ホント、オールラウンダーだなぁ」

「―――伊達に長くは生きていないから。なんて、その実只の器用貧乏だよ」




  ***  ***




「さて、そろそろ終わりが見えてきたか?」


 断続的とは言え、かれこれもう4時間弱続いてきた下級妖魔の襲撃が漸く終了するらしい。


「よし、これでラストぉ!!」


 辰巳の振り下ろした刀が、獣の様な外見の下級妖魔を真っ二つに両断した。

 ジュッっという音とともに、蒸発するようにそれは消失する。


「お疲れ様、二人とも」


 蒼眞の声に、卿夜はへたりとその場に座り込み、辰巳は心底嬉しそうに万歳しながら叫んだ。


「お、終わった~~!」

「……さすがに疲れたな; これで終わりなのか?」


 二人とも見た目に怪我などはないが、流石に疲労感が半端ない。


「氾濫じみた襲撃は終わったかな?

 まだメインターゲットが残っているから、あまり気は抜かないように」


「「……えぇぇー;」」


「でもまぁ、これで当分は下級妖魔絡みの事件は起きないだろうから、そこは安心出来るよ。

 東海支部はそこそこ暇になるんじゃないかな?」

「……俺、五年分くらい下級妖魔倒した気がします;」

「でも、半分以上倒してただろ? 俺達は残りを半分ずつ程度だったし……」


 卿夜の視線は蒼眞を向いていて、それから辰巳と自分を指差す。


「えぇ?! あれで残りの半分ですかぁ~; 俺メチャクチャ頑張ったのに~」

「そんなガッカリしなくても大丈夫だよ。

 君達が頑張ったのは本当だから、ちゃんと報告しておくよ」


 実際は蒼眞が約6割、残り4割の内卿夜が25%、辰巳が15%程。まぁ、攻撃手段が術と刀という差を考えればさもありなん、と言った所だ。

 それを半分ずつと言う辺り、卿夜も優しい所がある……と思いつつ蒼眞は索敵を掛ける。村には地上に、そして地中を含めても人間の反応しかない。


「―――これで当該法人の敷地外に出て来た討伐対象は一掃出来た。

 心置きなく”中”へ入ろうか……、ッ」

「?! 蒼眞様?!」


 蒼眞の体がぐらりと揺れ、卿夜の肩に手を置いて、左手で頭を押さえていた。


「はー、立て続けに大きな術を使ったからかな……。

 隠居開けには堪えるよ。全く、ミコトもヒト使いが荒いんだから」

「無理もないですよ; 急いで本部から瞬間移動した上に、小さい村とは言え、300人以上居る住人に防御結界張ったんですから」

「300人?! そんな人数に個別で結界張ってたのか?!」

「―――咄嗟にそれしか出来なかったんだよ。

 可能性は低いけれど村人の中に信者が紛れていて、突然”変生”されても困るだろう?

 防御結界なら万が一”変生”されても閉じ込められるから」


「俺、”変生”案件はまだ経験した事がありません。

 人間が、自ら妖魔になってしまうだなんて……」


 ここで気落ち出来ると言う事は、辰巳は真っ当な人間なんだなと思わせる。


「そう度々遭遇するものではないよ。むしろ、度々あって貰っては困る。

 だが、闇を抱える事は、何も珍しい事じゃない。

 そこで堕ちるのか、それとも逆にバネとするのかはその個人の問題だ。


 それに”変生”は、実のところ外的要因でも起こる事例がある。

 数は少ないが、強制的に”変生”させる事も可能ではある。

 因子を埋め込んだり、妖魔の介入によって闇を爆発的に増幅させられたり、とかね。

 それこそ時限爆弾のように、何かトリガーが引かれたら”変生”して、その場の群衆を虐殺し出す……それまで何の犯罪歴もない至って善良だった一市民が、だ。

 実際にあった事件だが―――なかなか胸糞だろう?」

「……そんな事が」


 息を飲む辰巳の横で、卿夜は苦い顔をしている。


「いや、待て……一度”変生”してしまったら、もう元へは戻れない筈、だったよな?」

「―――ああ。”変生”は戻れない。元に戻す方法が無い現状、殺すしかない」


 断言する蒼眞に、しかしまだ卿夜は言い募る。


「……人に害を加えないなら、何も殺さなくても良いんじゃないか?」


 蒼眞は首を振る。


「卿夜、それは”変生”ではあり得ない。

 人間に対する憎悪や絶望等が爆発した末に起こるのが”変生”だ。

 その対象が自分か他人かは関係なく、”変生”してしまえば妖魔としての本能に上乗せされる事になる。ヒトの良心は消え去ってしまうんだよ」

「……そう、なのか。分かった」


 沈んだ返事だった。

 納得はしていなくても、割り切らなければならない場面なんぞ、これから幾らでも経験するだろう。だからこそ、これだけは肝に銘じて欲しい。


「だから、元人間だからと言っても決して手を緩めてはいけない。

 そんな事をすれば、自分が死にかねないのだから。

 二人とも、その覚悟はしておくように」


「は、はいッ!」

「ああ、分かってる」


 若い二人は深く頷いた。

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