第1話-2 オススメは焼きそばパン
化学準備室で遭遇したのは、同級生で且つ、生徒会長とかいう関西弁の生徒。
時間は少し戻って、昼休み。
無事、転入の紹介も済んで、やれやれと思っていたら、終業の鐘が鳴るなり新しい級友達に質問攻めにされる。
「ねえねえ、神崎さん。何処に住んでるの?」
「兄弟とかは居る?」
「入る部活動もう決めた?」
矢継ぎ早な声にオロオロしていると、丁度、4限目の担当でもあった担任の土岐塚先生から助け船? が。
「おいおい、そんなに質問攻めにしたら転校生が困るだろう?
ああ、そうだ。蓮! お前、ヒマだろう? 転校生に色々教えてやれ」
土岐塚先生がそう言ったら、すぐに生徒から返事があった。
「せんせー、残念! とっくに会長居ませんよ?」
「何だと?! ……アイツ; 何処行ったんだ?!」
がっくりと、脱力してしまう。最初に抱いた無愛想というイメージが急激に崩れていく気がする。
「だったら仕方がない……。神崎、ちょっとついて来い」
「は、はい!」
環樹は慌てて立ち上がった。
* *
「悪いな。化学準備室に寄って、荷物を置いてからになるが、まずは食堂に案内するか……」
「い、いえ。全然、大丈夫です!」
なんて会話を交わしつつ、先生が化学準備室だろう部屋の引き戸を開けたら、何だか良い匂いに鼻を擽られた。
「おっかえり~。ちょーどコーヒー沸いてるで~」
中には既に人が居て、何故かコーヒーを淹れていた。
あ~、良い香りだな~。と、ついほっこり和んでしまったけれど。
「蓮! 何でお前がここに居る?!」
土岐塚先生のちょっと怒った声が。
「ん~? いやぁ、美味いコーヒー飲みたいなーって思て。
ああ、オレかてなんぼなんでもタダで飲ませろなんて言わへんし。
そっちの、机の上にある総菜パン、好きなん先に取ってええで」
見れば、指さされた机の上には山のように堆く積まれた大量の総菜パンや菓子パンが。
「いや、そうじゃなくてだな……。
―――はぁ、もう良い。で、幾つ貰って良いんだ?」
「半分以下なら。
あ、転校生のカノジョもココで一緒に喰ってくか?
今なら入れ立てのコーヒー付きやで?」
何だかとっても土岐塚先生と仲が良さそうなその生徒さんは、多分、名前からしてさっき先生が私を案内させようとしていた人? ……みたいで。
「は、はい! って、良いんですか?」
「えーよー。
オススメは焼きそばパンと、フルーツサンド……、と、後何買ぅたっけ???
まぁ、とにかく、好きなん取りや。コーヒーもうすぐ入るし」
「コイツがああ言い出したら、梃子でも動かんからな。
神崎、パンが嫌いでなければ大人しく貰っておけ。
それに、コイツが入れるコーヒーは美味いぞ」
「じゃあ、遠慮無く頂きます♪
えっと~、何が良いかなぁ……」
うわ、ホントにいっぱいある!
コロッケパン、ホットドッグ、ハムカツサンド、塩パン……お勧めは確か、焼きそばパンにフルーツサンドって言ってた様な?
「す、すっごい……確かにお勧めなだけある、この焼きそばパン!」
ふっくらとしたコッペパンに、これでもかと詰め込まれた焼きそばの真ん中には、タコさんウインナーが! 今にもこぼれ落ちそうな絶妙なバランスで盛られている。
「そやろ~。その焼きそばパンは毎回速攻で売り切れるからな。なかなか争奪戦激しいねんで。
んで、フルーツサンドも今日のんは一番人気の白桃入りやからな~。
なかなかええ戦果やったわ」
ふぅー、とまるで一仕事終えた感漂わせまくりな様子で、コーヒーの入ったちょっと大きめの断熱
紙コップを手渡してくれた。
「砂糖とミルクはセルフサービスな。そっちのカゴに入れてあるから。
で、転校生のカノジョはパンその二つだけでええんか?」
「あ、はい。充分です」
「したら、センセは?」
「俺は……、この3つだな。―――おお、悪いな」
先生もコーヒーを受け取る。
「じゃー、頂きまーす!」
「い、頂きます!」
「頂きます」
お行儀良く、ちゃんと手を合わせて三人揃って頂きますしてから食べ始める。
「あ、忘れてた。はい、コレ。
除菌ウェットティッシュ買ぅて来たんやった」
ガコンと大きなボトルタイプの容器が机に置かれる。
「蓮、お前……この部屋に居着く気じゃ無いだろうな?
紙コップに、砂糖やミルク、更にウェットティッシュと言い……だんだん物が増えているじゃ無いか;」
「えーやん別に。有って困るモンでもないやろな?」
とその人はからからと笑っている。
「全く……。神崎、コイツは桜庭 蓮と言ってな。
お前と同じ1年C組の生徒で、且つ今期の生徒会長だ」
呆れ果てた口調で語られた話はなかなかに耳を疑う内容で、思わず聞き返してしまう。
「え、一年なのに生徒会長なんですか?」
「ああ。まぁ、コイツの場合、相方が学園の超絶有名人だったのも原因なんだろうが……。
高等部からの編入組が、幾ら試験が満点だったからって、一年から生徒会長ってのは、前代未聞だぞ?」
「む~。何べんも言うてるけど、編入試験は超マグレやってんってば。
そやのに卿夜のヤツが、突然『生徒会選挙出るぞ!』とか言い出して……。
オマケにジャンケン負けてしもて会長なんかやらされるし……。
何か、もう、この春からの状況がジェットコースターみたいで……。
オレ的には『どーしてこーなった?』って感じなんやけど」
はぁ~と、ため息と共に会長さんがしみじみと愚痴る。
「まぁ、諦めるんだな。皇﨑に見初められたのが運の尽きだ。
あの行動力の高さには驚かされる」
「何かねー。
ムダに行動力あるっしょ? オレも正直ビビったわ~。こんなヤツ居るんやー、って。
あ、そうゆーたら、今日って隔週の会議の日やんか……。
―――面倒やなぁ」