第4話-5 さぁ、爆速で行くでー!!!
……また別行動;
男子部屋のベッドの移動も終えた頃、愛車を運転して春破達がやってきた。ちなみに春破の車はコロンとした箱形の可愛らしい軽自動車だ。
「やあ、こんにちは。
霧江春破といいます。今回、皆さんの座学の講師を務める1級術師です。
ちなみに正冬と顕秋の兄です。弟と仲良くしてくれてありがとう。
宜しくお願いします」
「えっと、霧江夏邪です。顕秋とは双子で姉になります。
一緒にシュンに……じゃなかった、春破兄様の座学を受けます。
よろしくお願いします」
順に自己紹介をし、ぺこりと頭を下げる二人。
学生達も自己紹介し、顔合わせを終えたのだが……。
「―――蓮くん、ちょっと……」
と春破が耳打ちする。
「え―――ッ?! 何で?! オレだけ?!」
「いや、卿夜様も任務がアサインされている。
曰く、二人とも今更座学は受けなくても良いだろうって事らしいぞ」
その言葉に蓮の表情が一気に顰めっ面になる。
「それ、もしかして命っちゃんから? それともけーいちろー?」
「―――両方だ」
ガク―――ッ!!
「せ、折角夏合宿の企画一から立てて頑張ったのに……ッ!!」
まるで燃え尽きたボクサーのようにorzる蓮。
「な、何かあったのか?」
タイチがちょっとヒキながらも聞いてみると、げんなりした顔で蓮が地獄の底から響くような声で返事する。
「オレと卿夜はそれぞれ別件でお呼ばれ、いや、これは嫌がらせやろ……;
卿夜は任務らしいけど、オレは説教なんやし」
「こっちはちゃんと面倒見ておくから、さっさと済ませてこい。
いいか? 俺はキッチリ伝えたからな?!」
春破が”伝えたぞ”と念を押す。
「分かったって;
あー、もー、しゃーない。
オレと卿夜は一時抜けるけど、その間は春破さんが面倒見てくれるさかい、分からん事とかあったら何でもこき使たって。
したら、とっとと行って早よ帰ってくるで、卿夜?」
「はいはい。遊びに来てまで任務ってなんだよ……;」
二人ともがブツクサ言いながら館を出て行く。
「じゃあ、宜しくな~、シュンさん。座学、ビシバシやっといて~」
「ああ。勿論だ。任せておけ」
手を振って蓮と卿夜を見送る春破のニヤリと笑う顔に、どこか薄ら寒い物を感じたのは気のせいだろうか……。
しかし次に春破が学生達に向けた笑顔は、とっても良い笑顔だった。
「さぁ、早速だけど、始めようか―――」
* * * * *
「で、足も無いのに本部までどうやって行くつもりなんだ?」
館から少しだけ下りてきた場所は、車の切り返しも楽に出来る位のちょっとした空き地の奥に、屋根付きの納屋のような駐車場スペースになっている。当然、先程乗ってきたワゴンと春破の愛車が停められているのだが、その奥になにやらシートを被った物体がある。
蓮がバサッとそのシートを外すと、もうもうと埃が舞う。
軽く咳き込みながら、中身を見ると少々古びたママチャリ―――勿論電動だなんてイカした物は付いていない―――が。
「うわー……。しゃーないなぁ。―――えーい!」
さして言葉ほど落胆の色も無い蓮が、いつぞやのようにパチンと指を鳴らす。
次の瞬間、くたびれたママチャリだった物が大型バイクへと置き換わった。それもピッカピカの。
「―――は?!」
思わず、間の抜けた声を出してしまった卿夜が、これまた思わず目を擦っている。
「本部までチャリやなんてオレが死ぬわ; せめてバイクやないと……」
なんて言いつつ、手慣れた様子でバイクを車庫出しし、どこから出したのかヘルメットを被る。
「ん。卿夜もヘルメット被ってや。
勿論事故る気はないけど、ノーヘルで止められるんも困るし?」
ともう一つヘルメットを差し出してくる。
「―――え?!
いや……そもそも蓮、お前バイクの免許なんて……」
卿夜の問いにも構わず、蓮は颯爽と大型バイクに跨がり、ドルンドルンとふかし始める。
またそれが妙に様になっているのがムカつきポイントでもあるが。
「ちゃっちゃと本部の用事済ますで! 卿夜、早よ乗って、しっかり掴まっとりや!」
慌てて卿夜がヘルメットを被り、後ろに乗って蓮に掴まると……
「さぁ、爆速で行くでー!!!」
再び卿夜の脳裏に過るのは、東北からの帰りの道中。なんだこのデジャブ?
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ―――!!!!」
爆音を響かせ、大型バイクは山道を駆け下りていった。
* * * * *
山奥には場違いな排気音と、聞いた事のあるような悲鳴? が聞こえたが、座学の会場になった1階の大きな部屋……急遽空いた男子部屋の方……に集合した面々にはピリリとした空気が漂っていた。
と言うのも講師の春破から、最後にやる復習テストで落第点を出した者には、夜のお楽しみ企画に参加させず、補習すると宣言されてしまったのだ。
ちなみに今夜の予定はバーベキューだ。
個人の荷物以外で一番場所を取っていた食材の、半分以上を占めていたのが今夜のバーベキュー用だった。
それはもう蓮がウキウキと楽しそうに、せっせと館の冷蔵庫へ運び込んでいたのを皆が見ている。
「補習もそうですけれど……蓮会長達、夜までに戻ってこられるのでしょうか?」
「まぁ、用事が説教だっていう蓮だけなら、意地でも戻ってきそうだけどな;
でも、卿夜は任務って言ってたしなぁ。ヤバいのは卿夜の方じゃないか?」
「こんな出先で任務も珍しいですね? まぁでもこの間も東北に行きましたし?」
「シュン兄、卿夜様の任務内容って知ってるの?」
「内容までは知らないが、相方は蒼眞だと聞いたぞ」
と術師組が話している傍ら、小学生ズ+ロゼが喋っている。
「うぅ~ん、術師の勉強かぁ……。まだちょっと覚えてないんだよね;」
「何気に細かい上に、広範囲だもんね。
ボクらは小さい頃からやってるから自然と覚えたけど……。
ロゼッタさんはヴァチカンでどんな事してたの?」
「妾か? 妾も幼少の頃から……」
そこで春破の台詞が漏れ聞こえた。
「ソーマ様?! お主、ソーマ様と申したか?!」
ロゼッタの興味が一瞬にして蒼眞に向かってしまった。
「お主はソーマ様にお会いした事があるのかえ?!
教えてたもう、ソーマ様とはどのようなお方なのじゃ?!」
余りの勢いに春破が目を白黒させている様子を眺めながら、小学生ズはある意味感心していた。
「何か、凄いね? ロゼッタさんの蒼眞さんへの思い入れって」
「そうだよね~。大昔の先祖の恩人に対してあんなに……。
そう言えば、まーくんはそのソーマさんって人に会った事あるの?」
「ううん。ボクはまだ会った事無いんだ。兄さん達はもう会ってるんだけど。
蓮兄ちゃんに鍛えて貰ってたら、その内会えるかなぁって思ってるんだけどね」
「そっかぁ……。
蓮さんも凄いって思うけど、そのソーマさんも凄いんだよね?
私も会ってみたいな~。ねえねえ、その話、私も聞きたい!」
と小学生ズも術師組の話題へ乱入していく。
脇に控えていた環樹が、もうすっかり慣れたタローちゃんを撫でていると、いきなり話の矛先が廻ってきた。
「確か、この中で一番先に蒼眞さんに会ったのは、たまちゃんではなかったかしら?」
雅が話の輪の中へと環樹を入れる。
「え、えぇと、どうなんだろ?
転校前の学校見学の帰りだったんですけど……助けて貰った? んです」
「ああ、なんだったか……豚顔の化け物だったっけ?」
タイチも聞いていた話を思い出したようだ。
「そうですそうです。知らない内に結界? の中に入っちゃってたらしくて……」
「へぇ……蒼眞が結界に侵入されるなんて珍しい。
ん? じゃあ、2回も結界に入ってたというのは君なのかな?」
きょとんとしている環樹に、高校生組がうんうんと頷く。
「ほら、蒼眞さんが夏邪さんと訓練していたあの時が、2回目でしたものね?」
「ああ、あの時!」
と夏邪も声を上げる。
「え、じゃあ、僕が一番さ……」
「―――おっと、いつまでも話に花を咲かせている場合じゃ無いな;
そろそろ座学始めるぞ~!」
と春破が丸めたプリントで机を叩くと、場が静まる。
漸く夏合宿講座の一時間目が始まった。