第4話-2 ど、どーでも良くないのじゃ!!
”真祖”の説明で終わってしもた……。
「いや、事実やん。あそこまでとは思わんかったわ、マジで。
あの世界やとその辺嘘つかれへんからなぁ……ドンマイ、タイチ」
爽やかな笑顔で肩に手を置いてくる蓮にタイチが吠える。
「うっせー!! 悪かったなッ!!」
「まぁ、そっちはその内改善せなアカンけど置いといて、や。
それよりロゼには1つ聞きたい事があるんやけどな?」
「聞きたい事? なんじゃ?」
キョトンとした顔で小首を傾げる様子は、本当に小学3年生くらいにしか見えない。
「ヨーロッパ周辺で”真祖”が復活したとかいう噂があるて聞いたんやが……」
いつものヘラヘラした表情とは打って変わって、妙に真面目な顔で聞く蓮に、ロゼは暫く目を伏せ、『ん~』と唸った後口を開いた。
「一応”真祖”の件は機密扱いなのじゃが……何故お主らがもう知っておるのじゃ?」
「その辺はそれこそ上同士の情報共有なんやろ。何せ”真祖”復活がホンマやったら恐ろしいどころの話やないねんから」
「―――”真祖”を名乗る吸血鬼がここ最近出没しておるのは確かじゃ。
じゃが……」
ロゼッタは言葉を濁す。
「”真祖”自身が復活する筈がない、か?」
蓮の問い掛けに神妙な顔で頷き返す。
「伝承によれば、”真祖”は蒼騎士様によって魂核を破壊されたとなっておる。
だとすれば、同一存在が復活するなんて事はあり得ぬ筈なのじゃが……」
真面目な話らしいのだが、完全に蚊帳の外の面々は卿夜に視線を向ける。
「―――何故俺なんだ;」
「真面な話してる蓮に口だし出来るのはお前だけだろ?」
というタイチや、他の皆のうんうんと頷くのに圧されて、仕方なく質問を挟む。
「”真祖”とか何とかって話を俺達にも説明して欲しいんだが?」
あ。そうでしたね……と今度は蓮とロゼッタがそんな顔をした。
結局、多分長くなるからと、いつの間にか生徒会室に据え付けられていた小型の冷蔵庫からお茶のペットボトルを出してきて紙コップに注いで渡していく。冷えたお茶で口を湿らせてから蓮が切り出したのは次のような問いかけだった。
「あー……そうやなぁ、みんな、吸血鬼ゆーたらどんなん想像する?」
「ん~、ドラキュラ? 太陽が嫌い?」
「血を吸うとか、十字架やニンニクを嫌うとか、鏡に映らないとか……」
「黒いマントを着ているイメージがありますわね?」
「昼間は棺桶で寝てるとか、コウモリを使い魔にするとか?」
色々意見は出てくる。
「そのイメージは大体ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』の物やな。
吸血鬼=ドラキュラ伯爵ってのは、なかなかの鉄板やし。
とは言え、その元になったんやないかっちゅー実在の人間が居てるんや」
「”串刺し公”だな」
卿夜が言い当てる。
「そうそう。15世紀、ワラキアの領主やったヴラド3世……ヴラド・ツェペシと言うた方が余程通りがええかな。
でも、今回の”真祖”ゆーんは本人やない。勿論変生した訳でもない。
本人の死後、流布された噂や評判から発生した別物……。
ある意味純粋な発生の仕方をした”吸血鬼”や」
「ねぇねぇ、なんで”串刺し公”なんて言うの?」
ミトちゃんが素朴な疑問を口にする。
「まぁ、当時は権力やら領土やらの争いが激しかったから、見せしめとして敵の串刺し死体を多数、これ見よがしに晒してたって話やからな。
そらもう効果は覿面で領民からは信頼されとったらしいけど」
答えを貰った物の、想像してしまったのか顔が青ざめる。
「続けるで?
んで、その純粋な発生の仕方をした……もー、色々ひっくるめて皆に分かり易く言うけど……”妖怪”には、全ての個体に例外なく、破壊されると絶対に復活出来へんくなる”魂核”が備わっとるんや。
逆説的に言えば、”魂核”を破壊されへん限り、例え年月はかかったとしても同一個体として復活する事が可能やねん」
「同一個体……記憶を引き継ぐという事か?」
「この場合、引き継ぐゆう言い方が正しいんかは良ぅ分からん。
ある意味”魂核”がメモリの役目を果たしてるとも言えるかもな?
で、”真祖”やねんけど、発生の経緯からしてもかなり強力な個体でな。
しかも、有名所ゆーか、アレ系の発生直後は大抵が大いに荒ぶっとる狂乱状態ってのがお約束になっててな。
当時の周辺国では多数の被害者が出たらしい。
年月とともに……つっても数百年単位やが、落ち着いてきた所で己のしでかした罪を悔いて”魂核”を破壊させて消滅の道を選んだ―――って話が言い伝えられとる」
「当時ヴァチカンも多大なる被害を被ったと文献に残っておるのじゃ。
しかし、その”真祖”を倒したのが蒼騎士様じゃ!」
何故かドヤるロゼッタ。
「……また何か出た; 何だよ、それは?」
もううんざり、とでも言いたげにタイチがツッコむが、興味津々なお子様達も居る。
「なになに? 蒼騎士って格好良くない?」
「ロゼッタさん、その人どういう人なの?」
小学生ズは素直というか、擦れてないねとタイチは内心思ったとかなんとか。
「ふふふ、聞いて驚くのじゃ!
蒼騎士様は我がカスティリョーネ家のご先祖様に、多大なるお力を授けて下さった大恩あるお方であり、”真祖”の魂核を破壊したのも同じお方なのじゃ!
であるからして、我が名の”ブルー”は、蒼騎士様への篤い尊敬の思いがこもっておる!」
「……そんな、カビの生えたン百年も前の話、どーでもええわ。
今問題なんは”真祖”の件なんやから」
バッサリ切り捨てようとする蓮に、一転涙目で縋り付くロゼッタ。
「ど、どーでも良くないのじゃ!!
妾は、一縷の希望を持ってこの国に蒼騎士様を探しに来たのじゃから!!」
「……どーゆー事?」
「わ、妾の家には古文書が残されておっての?
蒼騎士様が”真祖”を倒した顛末やら、お力を授けて下さった経緯やらが詳しく書かれておったのじゃ。
その中に、蒼騎士様は東方から来られたとの記述があるのじゃ。
”真祖”の魂核を破壊出来るような実力者なら、今も生きて居られるのではないかと思うておるのじゃ」
「―――コレ一応補足しとくか。
”真祖”みたいに超強力な妖怪の魂核を破壊出来るんは、こっちで言う特級の術者くらいしか居らんって事や」
その言葉に、高校生組が思い浮かべたのはあの人。蒼い髪の、自称特級相当。
「もしかして蒼騎士様というのは、蒼眞さんなのではなくて?」
「まぁ、名前に蒼入ってるし、平安時代には居たって話だし?
可能性は無くはない、のか?」
「…………そんな事が…………」
「って事は、蒼眞さんってやっぱり凄い人なんです?」
そこへ蓮が口を挟む。
「そやけど、ロゼ。それはヴァチカンじゃ異端の考え方とちゃうんか?」
ロゼは『異端』という言葉にビクリと反応する。
「い、異端……ではないのじゃ。蒼騎士様は”真祖”討伐の功績により、名誉騎士に叙されておるからじゃ」
「うわー、ダブスタの極みやな;
これも補足しとくと、ヴァチカンの教義は”悪魔”……こっちで言う”妖怪”やな……は全て討伐、或いは『探し出してでも殲滅』が基本や。
こっちでの緋之原さんとかみたいに人との共存を選んだ”妖怪”やとしても例外はない。
そやのに、東方から来たとかいう素性も知れんのを、名誉騎士て……。
まぁ、そんだけ切羽詰まってたて事か?
記録じゃ頼みの四大天使でも苦戦してて詰みの状態やったとかなっとるし。
そもそも、東方て……ヨーロッパから見たら南北アメリカとアフリカ除いた殆どが東方に当たらんか?」