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第3話-15 あの、それ……僕も交ぜて貰えないかな?

漸く第3話終了しましたー。

 正冬(まさと)が目を覚ました時、他のメンバーはまだ誰も起きてはいなかった。起き上がって辺りを見回すと元のミトちゃんの部屋だ。先に蓮が帰したたまちゃん? さんとムーさんと呼ばれた女性もいる。

 ムーさんが気付いたのかこちらを向いて『お帰りなさい』と微笑んでくれる。


「ただいま……って何か変な感じ; って、あれ? 蓮兄ちゃんが居ない?!」


 そうなのだ。一緒にミトちゃんの夢の中へ入ったメンバーの内で、蓮の姿だけが見えない。


『直にマスターも戻られますよ。あの方だけは肉体ごと侵入し(はいっ)ていましたからね』

「そうなんだ……。

 あ、もしかして、蓮兄ちゃんだけ魔法っぽい物が使えたのって、そのせいなのかな?」

『フフ、ご名答です。マスターから伺っていた通り聡明な方ですね』

「え、あ、その……あ、アリガトウゴザイマス//////」


 思いがけず褒められて恥ずかしい。しかも、蓮兄ちゃんが褒めてくれていたなんて! 余計に嬉しいやら恥ずかしいやら……にしても、デコピンされたおでこがじんじん痛む。かなり強かったもんな~と近くにあった姿見で見てみると、派手に赤くなっていて。


「もー、もうちょっと優しくしてくれれば良いのに……」


「え~、充分優しいやん? オレそんな厳しいか?」


 聞き慣れた声に振り返ると、ぼんやりとした映像のような状態の蓮が徐々にしっかりと姿を現し、最後にパリン、と割れたと同時に実体を伴った。


『お帰りなさいませ、マスター。良いお仕事が出来た様ですね?』

「ああ、首尾は上々ってな。ムーさんもありがとうな。後はオレがやるから戻ってええで」

『フフ、分かったわ。久しぶりにお役に立てて良かった。またいつでも呼んで頂戴ね、マスター』

「了解~。またな~」


 最後は砕けた調子で話し、ムーさんは姿を消した。

 にこやかに見送った蓮が、一転呆れたような視線を未だ起きない面々へ向ける。


「一般人のセンセはともかくとして……仮免とは言え一級の卿夜までまだ起きへんやなんて、どーゆー事やねん;

 くぉらー! 起きんかい、術師組ッ!!」


 と男二人には足蹴りを、雅にはまた頬をペチペチと叩く。


「ん、ん~……ここはどこですの……?」

「痛ってーな、蹴るなっつーの!! って戻って来たのか?」

「―――足もだが、額もかなり痛いんだが……」


 三人が目を覚ましたのを確認し、壁に(もた)れた状態の環樹には額に一発強烈なデコピンを見舞う。


「い、痛いッ!!! 何するんですかぁ?!」


 涙目で訴える環樹に蓮はにっこり笑って言った。


「目ェ覚めたか? たまちゃん」

「え、はぃ……覚めました、けど……あれ? ここはどこ、なんです???」


 キョロキョロしている環樹に、ポンポンと頭に手をやって次は横たわったままの絵璃奈を起こし、気付けの様な動作をする。


「ぅうん……あ、あら……会長くん? ここは……そうだ、美統(みのり)!!」


 我に返った絵璃奈がベッドに駆け寄る。他の者もベッドの周りに集まる。

 一見、美統の様子は最初の状態と変わらないようにしか見えない。(やつ)れた少女からは生気が殆ど感じられないのだ。


「流石にこのままで帰るってのは後味悪いな……」


 蓮が夢の中でもやったように、ミトちゃんの顔に左手を翳し、短く何かを呟く。

 その途端、ベッドの周りに”緑の暴風”が一瞬だけ吹いて収まった。


「な、何だ今の?!」

「……た、多分、回復術の様なものですわね。それも恐ろしく上級の……」


 結構な回復術の使い手である雅が(おのの)く程のレベルらしいそれは、あれ程衰弱していたミトちゃんの様子を明らかに一変させていた。

 頬はふっくらと血色良く赤みが差し、目の下の隈も消え失せ肌つやもすっかり取り戻している。掛け布団の上に出ていた痩せ細った腕も、健康的と思える太さに戻っている。


「……ん……ここは、私の部屋……?」

「―――美統ッ!!」


 目を開けたミトちゃんを、絵璃奈が泣きながら抱きしめる。


「エリちゃん……心配掛けてゴメンね。まーくん、皆さんもありがとうございます」


 絵璃奈を抱きしめ返しながら、美統も涙を浮かべている。思わずもらい泣きしそうだ。


「ミトちゃん、良かった……本当に良かったよ」

「本当に、全員無事で良かったですわ」

「ああ、うん、良かった」

「ま、力不足感は否めないがな;」


 卿夜がぼやきつつお役御免となった香炉を箱にしまう。


「これでアフターフォローもバッチリやな。多分大丈夫やと思うけど、ちゃんと病院で精密検査してもらいや?

 したらセンセ、オレらはもうお(いとま)するわ。この後何かと忙しいやろし」


 驚く絵璃奈に構わず、正冬達を玄関へと追い立てる。


「はいはい、帰るで~」

「うわ、押すな; まだ靴履いてないんだよ」

「あー、靴何処に置いたんだっけ……」

「ちょっとそこの靴べら取ってくださいません?」

「靴べら? ああ、ほら」

「じゃ、じゃあまた、エリナ先生、ミトちゃん、学校で!」


 玄関まで見送りに来た絵璃奈が深々と頭を下げる。


「本当に、ありがとうございました。このご恩は決して忘れません」

「そんな気にせんといて。さっきも言うたけど、今回の件はオレらの専門やから。

 ある意味、”通常業務内”なんや。

 むしろ、センセやまーくん巻き込んでしもて申し訳なかったけど、二人が居ってくれて助かった。居らんかったらもっと苦戦してたと思う。

 ―――こちらこそ、ありがとうな、センセ」




    * * *




 教職員宿舎からの帰り道。何だか空気が重い。術師三人の足取りが重い。その横で蓮と正冬が和やかに会話している。


「まーくんも、ありがとうな。居ってくれて助かったわ」

「え、う、うん……役に立てた、のかな、僕?」

「ああ、充分立ったで。あんだけすんなり済んだんは、まーくんとセンセ、関わりの深い二人が居ってくれたからやから。まーくんは流石に将来有望やな」

「……春破(しゅんや)兄さんくらい、強くなれるかな、僕」

春破(シュン)さんかー。また高い目標やな; うーん、頑張ったらイケん事無いと思うけどなぁ。

 タイプは違うけど、まーくんかて素質は充分あるから」


 正冬が目をキラキラさせて意気込む。


「蓮兄ちゃんがそう言ってくれるなら、僕頑張る!!」


 なんていうやり取りを聞きながら、術師組は更にどんよりとした空気を纏う。どうも正式な術者である自分達の余りの不甲斐なさに心底落ち込んでいるらしい。知ってか知らずか、蓮がこんな事を言い出した。


「流石に腹減ったな~。どっか食べに行こか?

 あ、この間食べ損ねたラーメン屋って今日開いてるんか?」

「あのラーメン屋の大将、ぎっくり腰だとかで暫く休みらしいぞ?

 ……この時間なら高等部の学食がまだ開いてるんじゃないか」

「この間のパンケーキ屋さんでも構いませんけれど……」

「―――う、あそこは勘弁してくれ」

「……美味しかったのに。でも仕方ないですね」


 確かに女性客ばかりで居心地悪そうだった男性陣(蓮除く)にはキツいかも知れない。


「うーん、しゃーないな……まーくん、学食でも良かったら(おご)るで?」

「ホントに?! やったぁ♪ 学園の中だと購買・給食全部ひっくるめても高等部の学食が一番美味しいって噂知ってる? 確かめられるね!」

「そんな噂があるとは知らなかった……。まぁ味は悪くないと思うが……」

「もー、これやからええしのボンボンはアカンわ。庶民の味が分かってないねん」


 蓮の呆れ果てた言葉にうんうんとタイチが大きく頷く。


「わたくし、学食大好きですけど……変ですの?」

「変やない。真っ当やねん。安い早い美味い、三拍子揃ってるんやで?

 庶民の味方、サイコーやん!」

「……何かどこかで聞いたようなフレーズが」


 一応話がまとまったみたいで学食へ。しかも正冬にだけ奢るのはズルい! なんて話になり、結局蓮が全員分奢る事になった。各自注文した物を受け取って、皆でテーブルに着く。手を合わせて頂きます、してから食べ始める。


「―――オレもう既に金欠やん; どーしてくれるんや」

「本当に足りなくなったら俺も出す。でもお前、単独分の報酬も貰ってる筈だろう?」

「いや? まだ報告書出してへんのあるし……まだ殆ど貰ってない。

 つか、何? あの面倒臭い書類いっぱい!! 書く暇無いわ!!

 ―――あ。今回の香炉の分も書かなアカンかったん忘れてる;」


 これには思わず術師組が吹き出しそうになる。


「マジか……よく使えたな、香炉……」

「受け取りの時には何も言われなかったんだが、まさか本当に書類出してなかったのか?!」

(みこっ)ちゃんに出しといてくれるように伝えてはおいたけど、釘刺されてたんやった。

 曰く『ちゃんと書類は書いておいてね?』って」


 ガチャン!! 誰かが手にしていたスプーンを取り落とした。

 術師組の顔色がすこぶる悪くなる。彼らが属する術師の団体に於いて、(みこと)様というのは最高責任者であり、且つ深い敬愛の対象でもある。


「命様を”みこっちゃん”て……おま……どーゆー……」

「わ、わたくし達、怒られませんでしょうか?」

「だ、大丈夫、だろう……うん……」


「しゃーない。香炉返すん自分で行くわ。ついでに書類書いてくるかー。

 本部(おやま)遠いからあんまり行きたないねんけど……あ、けーいちろー車貸してくれへんかな、運転手込みで」


 またもや超絶気安いノリで、今度は理事長の名前を口にする蓮に、今度は卿夜に皆の視線が集中する。


「―――俺を見るな、俺を! 親父は関係ない!!

 それから蓮、顕秋(けんしゅう)さんの車は辞めておけ。ちゃんと言ったからな、辞めておけって」

「む~。麓まで電車で行くか……。ヘコむわ~。時間掛かるしオレ先に行くわ。

 後頼むな。まーくんもまたな~」

「うん、またね。蓮兄ちゃん!」

「気をつけて行けよ~」


 いつかのような調子で蓮は、すっかり平らげていた鯖味噌定食のトレイを返しに席を立つ。担当調理師にごちそうさま~と声を掛け、所定の位置にトレイを置き食堂を出て行く。


「なぁ、卿夜……蓮が自分で準特(じゅんとく)並って言ってたが、何処であんな術とか習ったんだ?

 正直見た事ないもののオンパレードで……」

「そうですわね。回復術も、まるでゲームのようでしたし」

「”心剣(しんけん)”も弓に変形とかしてたもんね」


 疑問を口にする面々に、卿夜はため息を零す。


「前にも言ったかもだが、俺からは話せない。

 ただ、今回の件でも思い知っただろうが、蓮の実力は確実に本物で、俺達よりも遙かな高みに居る。本人も言ってたが俺のお目付役であり、ある意味()()の教育係でもある。

 悪い様にはならないから、このまま蓮に鍛えて貰わないか?」


 肩の力が抜けたような卿夜の物言いに、タイチと雅が黙る。

 しかしそれは反目ではなく、了承の無言らしい。


「あの、それ……僕も交ぜて貰えないかな?」


 そう言った正冬の目には決意の光が輝いていた。





     *  *  *





「―――あら、お疲れ様」


 本部の最奥(さいおう)部、命の部屋に入室する者がいた。

 本来なら、何人(なんぴと)の侵入すら許さない、堅固な警備と複雑な結界術の施されたその部屋に。


「命もお疲れ様。

 ああ、そうだ。前に頼んだ欧州の情勢ってもう分かった?」


 命の側に遠慮無く胡坐(あぐら)を組み、気さくに話しかける。


「なかなかに混沌とした状況みたいだわね。

 何せ”真祖(しんそ)”が復活したとの噂が蔓延しているようだから……」


 ”真祖”―――そう呼ばれるのは人類の天敵、吸血鬼(ヴァンパイア)の始祖。


「……”真祖”か。あり得ない筈、だったんだけどなぁ。

 この世界に”あり得ない”はあり得なかったって事かな。

 出来れば()()()とも、もうちょっと風通し良くしたいものだけど……如何(いかん)せん閉鎖的だからねぇ、()()()


 何とも実感のこもった言葉だった。


「昨今はそうでもないようよ? 現に、留学生の派遣を申し出て来たわ。

 何でも()()()()()学生さんなんだとか……どういう風の吹き回しだろうね」


 その言葉を聞いて思わずポカンとしたが、すぐに苦笑に変わる。


「留学生? ―――はは、何とも胡散臭(うさんくさ)い;

 まぁ、こちらから出向かなくても良いなら僥倖(ぎょうこう)か?

 ―――さて、どれ程のモノを(もたら)せてくれるやら、お手並み拝見だ」

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