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第3話-14 筈?! 筈って何だ?!

多分次で第3話終わりそうかな……。

 蓮の言葉に呼応するように、向こう側の端辺りの景色がパリンと割れ人影が現れる。

 黒いローブを目深に羽織った人物、くノ一のような衣装の女の子、猛獣でも入れるような金属製の檻に囚われた女性。

 しかし、女の子の表情は先程とは打って変わって妙に虚ろに見える。


「ミトちゃん、エリナ先生!」

「―――霧江君ッ?! みんな!」


 正冬(まさと)の声に項垂れていたエリナが顔を上げた。


美統(みのり)が……美統が返事をしてくれないの……。

 お願い……美統を助けて……」


 絵璃奈が檻の格子に掴まり訴える。その様子は切実でありながら、絶望感に苛まれているようでもあり、傍目にも何があったのかと思うほどの有様だった。


「―――こんな所まで来るなんて、本当に邪魔な奴らだな。

 僕と彼女の仲を引き裂こうとするなんて、天罰が下るぞ?」


 黒ローブが口を開いた。人相は未だ深く被ったフードで知れないが、その声色と”僕”と言うからには男なのだろう。それもまだ若い感じの。


「て、天罰って……お前は誰だ?! どうしてミトちゃんに危害を加えてるんだ?!」


 男が反応を見せた。気色(けしき)ばんで反論してくる。


「僕は彼女に危害なんて加えていない。むしろ護ってあげているんだッ!!

 この世界中の全ての汚い物からッ!!!」


 話がかみ合わない、とはこの事だろう。男の言っている事が意味不明過ぎる。


「……どういう事なんだ、一体? 全然話が見えないんだが?」


 卿夜達、高校生組の表情は困惑しきりだ。

 唯一、分かっているのだろう蓮が怒り心頭の正冬を抑えるように肩に手を置いて、残酷とも言える言葉を突き付ける。


「あー、お前が誰に何を吹き込まれたかは知らないが……このままなら鞆成(ともなり)美統は近い内に衰弱して命を落とす。

 そうなれば、もう既に人間ではなく夢魔となったお前もろとも、この心象世界は崩壊する。

 幼気(いたいけ)な小学生女児を即時解放するなら、猶予をやる。

 まさか心中を望むとかほざくなら、即刻存在抹消レベルで討伐する。

 ―――さあ、選べ。」


 いつもの人懐っこい笑顔も、怪しげな関西弁も消えている。

 ぞくりと背中が冷える。そう、今日二度目だ。しかも、さっきよりも更に冷たさが増してる気がする、と思って見上げた蓮の右目に蒼い幻炎が揺らめいている。

 ―――!!!

 咄嗟に見てしまった事を、後悔した。何故だかは分からない。でも後悔した。

 まだ、経験の少ない正冬にはその感情をどう表現するのかが良く分からなかった。

 それは以前に同じ蓮を見たタイチが”恐怖”だと感じた物だ。


「嘘だ!! お前の言う事なんか信じないぞッ!!

 そうやって僕から彼女を奪おうったって、そうは行かないからな?!

 僕が……そう僕だけが、彼女を護ってあげられるんだ!!」


 予想通りだが、酷く頑なな返事が返ってくる。


「交渉不成立、か。

 まぁ、そうやろな。ある日突然『力』を手に入れて全能感に有頂天って状態やろうし」


 ため息をつきつつ、関西弁の戻った蓮がパチンと指を鳴らす。

 次の瞬間、檻の中に居た筈の絵璃奈がお姫様だっこの状態で蓮の腕の中に収まっていた。突然の事に彼女は呆気に取られている。


「ごめんな、センセ。嫌な目に遭わせてしもて……。悪かった。

 怪我とかしてへんか?」

「え、ええ、私は大丈夫……だけれど……」


 下ろして貰って、本当に解放されたんだと実感が湧いたらしい絵璃奈は、蓮にすがりつく。


「ごめんなさい、教師なのに学生の貴方達に頼むのは心苦しいのだけれど……どうか、美統をお願いします」

「ああ、分かってる。任せといて。―――センセは危ないかも知れんから、下がっといて。

 ディフェンスは頼むで、生徒会メンバー?」

「え、まだドンパチやんのかよ?」

「まぁ、念の為油断はせんといてくれって話やがな;

 一応”真のラスボス”なんやから、アレ」

「あれ、じゃあ僕は?」

「術者連中の中では一番ミトちゃんと繋がりが深いからな、オレと一緒にオフェンスや。

 ゆーても難しい事はなんもない。声出さんでもええけど、ずっとミトちゃんの名前を呼んだってくれてたらええ。

 ほんなら、始めるで―――」

「う、うん!!」


 祈るように手を組んで向こう側に居る彼女をしっかり見据え、心の中で名前を呼ぶ。

 その様子に満足気に笑みを見せると、蓮はまた手の平から”魔王モデルの心剣”を具現化させると柄を握ったまま前に出す。剣が眩い光を放ち始め、変形していく。

 左右の長さが変わり、形も剣ではない物に変わり発光が収まると、そこに現れたのは大型の黒い弓だった。

 一方、”真のラスボス”であるフード男も虚ろな状態のミトちゃんの肩を後ろから掴んで、耳元に何事かを囁いている。微かに彼女の唇が動いたと思ったら、草原の地面から土塊(つちくれ)で出来た(いびつ)な人型の物がムクムクと湧き出してくる。それも幾つも幾つも。それがじわじわと鈍重な動きで近寄ってくる。


「こ、こんなの銃で倒せますの?! 蓮会長!!!」


 三人が絵璃奈を庇うように立ちながら、雅が当然の疑問を叫ぶ。戦闘員もどきとは違って、何発撃っても倒れる気配が無いのだ。


「土のゴーレムはまだ(やわ)い方やけど……さすがにその銃じゃアカンか。

 えーっと、どれどれ……アルファベットか、良かった。したら”e”の文字を撃つとええ」

「いや、そもそも”e”って何処だ?!」

「フツーはデコやな」

「デコって、何mあると思ってんだよ?!」


 ゴーレムはそれぞれが全高約3m程もある。正直見上げたって額が見えるかどうか。


「その銃は自動追尾(ホーミング)弾なんやから”e”を撃つってだけ思ったら当たるやろ;」

「……あ。そう言えばそうだった」


 理解した卿夜が一発撃つと、のろのろと動いていた一体が崩れるように(うずくま)り、歩みを止めた。


「ああ、行けるな。雅、どんどん撃つぞ!」

「オッケーですわ。よ~し、覚悟なさいませ!」

「え、俺は……? 蓮ッ?!」


 呼ばれて振り向いた蓮は一瞬無表情になり、てへぺろてな感じで言い放った。


「タイチ、向かっていったら確実に退()()やからな? センセと一緒にじっとしとき」


 ちーん。

 足手まとい確定の瞬間だった。

 体育座りでいじけるタイチを絵璃奈がオロオロしながら慰め? ている。


「さー、改めてこっちも行こか」


 蓮が弦を引き絞ると光り輝く矢が出現する。その矢を、フード男ではなく天に向かって放つ。


「たーまやー、ってな」


 その言葉通り一定の高さまで上がった矢は、まるで花火のように四方八方に分かれて光の軌跡を描き、無限湧きとも思えるゴーレム達を容赦なく貫き蹂躙(じゅうりん)していく。


「これでちょっとは間引けたやろ。

 さぁ、次はお前や……。その『力』、誰に貰った?」

「誰にって、神様だ!!! 僕の願いを神様が聞き届けてくれたんだ!!」

「いやいや、ありえへんやろ? 小学生女児に危害を加える様な男の願いを聞く神て。

 お前がやってる事はミトちゃんを護るどころか、弱らせ死に至らしめる行いやぞ」

「そんな事、信じないぞ?! この世界に居れば、僕が彼女を護ってあげられる!!

 僕だけが、彼女を独り占め出来るんだッ!!」


 フード男は虚ろな少女を後ろから抱きしめると、ベロリと彼女の頬を舐め上げる。


「ミトちゃん!!!」

「薄汚い本音がダダ漏れやないか……;

 とどのつまりがお前は単なる小児性愛嗜好(ロリコン)変態男っちゅー訳やな」


 それまでローブから見え隠れしていた腕や手が、様子が変わってくる。

 人間の肌の色からくすんだ緑色になり、手は節ばり爪が獣のように鋭く醜い物となる。ミトちゃんの頬を舐めた舌は異様なまでに長く伸び、涎が滴る。

 いつの間にか脱げたフードの下の顔は、目が落ち窪み、ギョロリと濁った瞳、頭髪が抜け落ちたのか禿頭(とくとう)になってしまっている。


「ゲヒゲヒ……コノ少女ハ、僕ノモノダ……」


 声質も変わり果て、もう言葉すら片言だ。


「まるで本物のモンスターみたいですわね……」

「あれでは元人間だったとしても面影の欠片も無いな」


 思わず零した雅と卿夜の声に、いじけていたタイチと慰めていた絵璃奈も顔を上げる。


「……ゴブリン? いや、夢魔か」

「え、いえ、さっきまでは確かに人の腕、だったのですよ?」


 そう、先程までは確かに……? 腕も人間に見えていたし、身長だってもっと高かった筈なのに、今ではローブの裾を随分と引き摺っている。


「あーあ。とうとう最後の一線を越えてしもたな……。

 ”変生(へんじょう)”して完全に妖魔の仲間入りや」

「”変生”……初めて見たな。確か、もう二度と人間には戻れない、んだったか」

「そうや。アレはもう、人に害なすモノ―――とは言えここに居るんは精神体だけやから、どっかに本体はあるんやろうが……ここで討伐すればヤツは強制的に本体に戻り、この世界にミトちゃんを縛っとる鎖は断ち切れる。

 ―――囚われのお姫様を助ける為や、気張りや、みんな!」

「わ、分かってますわ! こっちは任せてくださいまし」

「ああ、後ろは気にするな。援護のおかげでかなり減ったからな」

「……俺の存在って……」

「ミトちゃん、絶対に取り戻す―――!」

「美統……!」


 蓮が一度大きく間引いてからゴーレムの発生頻度がやや緩くなっている。


「ん、まーくん、それにセンセも、よぅ聞こえるように名前呼んだって!」


「ミトちゃん!!!」

「美統ッ!!!」


 一際大きな声が届いたのだろうか、それまで虚ろだった少女の瞳が揺らぐ。


「よし、効いとる。もう一押しッ!!」


「ミトちゃん!! 戻ってきて!!」

「美統!! 美統ぃッ!!!」


 光の戻った瞳から涙が一筋零れ落ちた。


「……け、て……たす、けて……まー、く……エリちゃ……」


 微かな声が、助けを求める。と同時に全てのゴーレムがその場で崩れ落ちた。


「ナ、ナゼダ……ドウシテ術が……」

「呪縛は解けたな……上出来や、二人とも」


 蓮は再び黒い弓を引き絞り、光の矢を放つ。今度の矢は螺旋を描く尾を引いて二人目掛けて飛んでいく。その様は矢と言うよりビーム砲の様にも見え、先の物よりも余程威力がありそうだ。


「―――あッ……」


 光の矢がミトちゃんごと、夢魔と成り果てた男を貫いた。断末魔の叫びとともに夢魔の体は内側から光に食い破られるように爆発霧散する。残されたミトちゃんが支えを失って倒れようとするのを、また蓮が指を鳴らせて瞬間移動させる。

 前回の絵璃奈と同じようにお姫様抱っこの状態で収まっている。

 周りにも見える様に地面に下ろし、背中を支えてやる。


「ミトちゃん!!」

「美統ッ!!」


 慌てて駆け寄る二人だが、傷一つ無い様子にホッと胸を撫で下ろす。しかしよく見れば、少女の顔や二の腕など素肌が見える場所には黒い痣というか文様というか、そんな物が浮かび上がっていて。


「あんなに凄そうな矢が貫通した割には、怪我もなさそうですわね」

「あの矢はどういう物なんだ?」

「魔物特効付き、しかも人間にはダメ無効(ノーダメ)っていう便利な代物やで。

 ……とは言え、呪縛されてた間の汚染は除去せんとな」


 空いている左手をミトちゃんの顔の前に翳すと、魔法陣のような物が出現しその仄かで淡いグリーンの光が彼女の全身を包む。

 魔法陣に吸い取られるように黒いモヤのような物が次々と消えていく。完全にモヤの吸収が終わったのか緑の光が消えると、彼女の顔や腕の痣のような物はすっかり無くなっていた。


「さて、ミッションコンプリートや。そろそろオレらはここからお(いとま)しよか。

 異物(オレら)が残ってたらミトちゃんが目覚められへんからな」

「お暇ったって、俺達はどうやったら帰れるんだ?」

「オレがデコピンしたるわ。それで目ェ覚める……筈や」

「筈?! 筈って何だ?!」

「グダグダ言わんと……ほーい、デコピーン、デコピーン……」


 雁首揃えてミトちゃんを見守っていた面々の額に、次々とデコピンしていく。絵璃奈、まーくん、雅、タイチ、卿夜。デコピンされた順番に姿が消えて……この世界から”退場”していく。そして残ったのは蓮とミトちゃん。


「ミトちゃん、聞こえるか?」

「ん……んん……あぁ、助かったんだね、私……」


 少女が目を開く。安心したように笑みを浮かべる。


「ああ、よく頑張った。

 それで、最後にミトちゃんに聞いておかないといけない事があるんだが、構わないかな?」

「聞きたい事? 何?」

「今回の一件で君の中の『力』が目覚めた事は感じているだろう?」

「うん……何となく、分かる」

「その『力』は、正冬君達の持っている『力』と同等の物だ。

 『力』を持つ者には、良い事もあれば悪い事もある。

 今回の一件は正に悪い事の一端だが……君には選択肢が二つある。

 一つは『力』を受け入れ、鍛え、仲間と共に人を護る盾となる事。こちらは当然簡単な道ではないのが前提だ。

 そしてもう一つは、全ての記憶と力を封じ、只の人としての生を生きる事。

 ―――君は、どうしたいかな?」


 突然の究極の二択。これまで一般人だった小学生女児が、いきなりそんな事を言われても困るだろう。


「ゆっくり考えて答えをくれれば良いよ」

「私……私は―――」

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