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第3話-13 野郎、やっぱり手ェ抜いてやがったな……

こちらもぼちぼち……。

「何だ、ここ?」

「公園といいますか……どちらかと言えば広場っぽいのでしょうか?」


 雅がきょろきょろと辺りを見回すが、確かに公園であれば普通にあるだろうブランコや滑り台といった遊具はない。

 かといって、芝生でもなくむき出しの……砂利混じりの土の地面が広がっている。


「おお! コレはアレやん? 毎回終盤に怪人と戦うトコ!」


 異様な程楽しそうにしている蓮に、小学生の正冬(まさと)が口を尖らせる。


「え~~~; あの場所ってホントは採石場とかなんでしょ?

 こんなだだっ広い広場じゃなくて」

「ホントはとかゆーたらアカンってば;

 安全な爆破とか、背景の映り込みとか、色々事情はあるんやから」

「いや、お前の方が身も蓋もなくねーか?」


 この一行ではもうすっかりツッコミ担当のタイチが口を挟む。


「おい、そろそろ無駄口は閉じろ。漸くお出ましのようだぞ?」


 一人、その姿を捉えた卿夜が警戒を促す。


 その視線の先には確かに、特撮の怪人らしきモノが戦闘員もどきを多数従えて登場していた。

 しかしてその姿は―――???


「え、ええっと……アレは何なのでしょうか?」

「うーん、キメラ、、、とか?」

「キメラってギリシャ神話のやつか?

 確か、ライオンの頭に尻尾が蛇、山羊の胴を持ち、口からは火を吐く……」

「どー見てもソレやないやろ; この場合は嵌合(かんごう)体……異質同体の意味やろ」


 喧々諤々(けんけんがくがく)、あーだこーだと敵を無視して話し込む面々に卿夜がまたも警戒を促す。


「そんな話は後にしろ! 退場したいのか?!」


 怒鳴られてやっと敵に向き合うと、待ちかねたように怪人が口? を開いた。


『……よくここまで来たな、ハイスクールレンジャーズ』

「ああ、そういやそんな名前で呼ばれてたっけ?」


 何とも締まりの無い展開だが、仕方ない。

 ”戦隊物”だという認識が一部を除いてイマイチ薄いのだ。


『この先に進みたければ、我らを倒すことだ。まぁ、出来ればの話だがな』

「―――どうせ一回倒したって巨大化するんだろ? 面倒くさいから一回で済ませろよな」


 早く終わってくれとでも言いたげなタイチに、


「なんで倒したのに巨大化するんだ??? 意味が分からんな……」


 ”お約束”を知らない卿夜。


「あ、そーや。クロちゃん、アレってココでも使えるんか?」


 (かたわ)らでまたしても意味の分からないことを言い出す蓮。


「「クロちゃん???」」


 首を傾げる雅と正冬に目もくれず、蓮は満足そうに笑みを浮かべると、左手を真横よりもやや上気味に差し伸べる。

 するとその指先から特殊効果のように艶やかな黒の甲冑……と言うよりも、やはり特撮の全身アーマー状の物が蓮の体を覆った。


「か、カッコイイ!! 蓮兄ちゃん、それカッコイイ!!!」

「蓮会長ばっかり格好いいのってズルくありません事?!」


 最後に正義マフラーとでも言うのか、白の布が首周りに出現して出来上がり、らしい。


「さー、サクッと片付けるで? 皆は雑魚敵の掃討頼むわ」


 蓮のこの言葉で、不承不承戦闘員もどきの相手をする生徒会メンバーと正冬達。


「やんなきゃ終わんねーんなら仕方ない;」


 どうも蓮と関わってから、流されすぎなんじゃないかとタイチは思う。

 とはいえ幼馴染みの雅が巻き込まれてしまえば、自分が”否”と言える筈もなく。

 ……いや、そもそもの話、雅は前のめりになって自分から巻き込まれに行ってるのだから始末に負えない。

 一体蓮の何がそんなに気になるんだか。


 あれ……? 待て待て。俺だって蓮の正体? は気になってる。

 多少今回の件で分かった事もあるけれど、まだまだ謎は多い。


 ああ、そうか。

 その謎が明かされるまではこの状態が続く、んだろうな。

 ―――クソッ、面倒くせぇ!!!

 

 内心の苛立ちをドカバキグシャと3HITコンボで戦闘員もどきにぶちまける。

 はっきり言って八つ当たりだ。

 時々攻撃を貰いながらも、横目で蓮の方を見ると某SF映画よろしく光る棒状の剣を使ってチャンバラをやっている。

 ―――しかしどう見ても本気じゃない。

 下手くそな殺陣(たて)の練習か!? とでも文句を付けたくなるような、そんなやりとりの繰り返し。

 何やってんだよ、アイツはよー?! とブチ切れそうになった横から、思わぬクリーンヒット!

 視界と脳が揺れる感覚。ぐらついた所へ追撃を掛けようとしていた戦闘員もどきが、ヘッドショットを食らってザラッっと崩れ落ちる。


「大丈夫か? タイチ―――少し下がれ。上の棒がかなり減ってるぞ」


 卿夜に言われて背筋が冷える。こんな所で一人だけ退場する訳にもいかない。

 慌てて雅や正冬の所へと下がる。

 その頃には戦闘員もどきもすっかり一掃されて残すは怪人だけとなった。


「さぁ、そろそろ決着付けさせてもらおか~。―――よいしょっと」


 それまでギリギリと鍔迫り合いっぽく(あの剣で出来るのか?!)力比べをしていたのに、易々と怪人の刀代わりの長い爪を弾くとズバァッと返す刀で袈裟斬りにする。


「野郎、やっぱり手ェ抜いてやがったな……」


 ヘルメットだけ脱いだ状態の蓮が戻って来るのと同時に、怪人が爆発する。


「おお~、倒しましたわね!」

「うん、倒したねー。巨大化したらどうやって倒すの? まさか、ビークルに乗って合体とか……」


 見るからにワクワクドキドキな正冬が期待の籠もった眼差しで聞いてくる。


「さすがにそれはちょっとな~。お、巨大化来るで!!」


 本当に身も蓋もない会話をしていると、爆発した筈の怪人が不思議な効果音と共にみるみる巨大化していった


『んんんんんー、キサマら、絶対に()るさーんッ!!!』


「地味に他のネタも混じってるやん、なかなかオタクやな~。親近感湧くわ~♪

 じゃー、こっちはこんなんでどうや!」


 蓮の手招きで全員が集まると、腰辺りから下にキラキラと光が見え始め、大きな筒状の物が”転送しました~”とでも言いたげに出現する。


「何ですの、これ? 見た感じ、桶みたいですけれど?」

「えー; 桶って……う、ホントだ、深めの大きいバケツみたい」

「いやいや、こんなメカメカしいバケツないやろ?! バズーカバズーカ!

 えーと、そう、”レンジャーバズーカ!”」

「―――うっわ、ダサ。ネーミング酷すぎじゃねーか?」

「あーもー、何でも良いから早くしろ。踏み潰されるぞ;」


 緊張感の欠片も無いとは(まさ)しくこの事だ。


「ほら、もー、怒られたやんか~。全員手置いて集中して。

 せーので”レンジャーバズーカ!”な?

 言わんと終わらんからな?! お約束やから!!」


 そう念を押されると仕方が無い。ノリノリで、或いは渋々、全員がその筒状の代物へ手を伸ばす。


「はい、せーの!!」

「「「「「”レンジャーバズーカ!”」」」」」


 五人分の声が揃って叫ぶと、各人の色に蓮の黒を足した6色の光の束が、回転しながら怪人に直撃する。


「レインボー、には一色足らへんのか~」

「アクア○レッシュとか?」

「あれって三色じゃなかったか?」

「早退したたまちゃんの白も入ってましたわね?」

「そういや6色だったな」


 なんて話の向こうで巨大化怪人が大爆発を起こして消滅した。

 直後に広場の景色に大きなヒビが入り、まるでガラスでも割ったような音と共に崩れ去った。その後に広がるのは夕暮れのような一面の空と、学校の校庭くらいの大きさの芝生の地面。


「そろそろオーラスやな。時間的にも丁度ええ……」

「丁度良い、の?」

「ああ、夢香(ゆめこう)の効果時間的にも、皆の体力とか色んな事的に締めに入らなアカン頃やからな。

 それに、あんまり異物が長期間侵入してるんもミトちゃんの精神には良うないんや」

「脱線しまくってた張本人が言う台詞かよ?!」


 噛みつくタイチに、今気付いたのか回復魔法を掛けてやりながら蓮が続ける。


「段階を踏んで行かんと、中心部へは辿り着かれへんから仕方ないんやがな;

 表層、深層、更に中心部ってな。目指す敵はこの中心部に巣食っとるんやから」

「敵……また、さっきの怪人みたいなのが出てくるんですの?」


 雅の言葉にうーん、と考え込む。


「いや、多分見た目とかはそんなんでもない、筈やけど……。

 種類で言うたら、”夢魔”に該当する」

「”夢魔”って、美人のおねぇさん?!」


 某ゲームでの仲魔でも思い浮かべたのだろう、ワクドキな正冬がすかさず聞いてくるが、蓮はゆるゆると首を振って否定する。


「それはサキュバスで、女性型やな。

 今回のんは男性型のインキュバス……の特異型に当たる、んかなぁ」

「何だ、言い切った割には曖昧なんだな?」

「いや、そのなー、インキュバスは別名”淫魔”とも言うて、やんらしい事するのがフツーやねん。

 でも今回のはそーゆー事してへん……つーか、出来ひんくらいへっぽこな”夢魔”っぽいねんけど、異常な程思いが強いみたいで。

 さすがは人間辞めただけの事はあるわ。偏執狂ここに極まれりやな」


 事もなげに蓮が言い放った言葉に全員が思わず息を飲んだ。


「人間……? 今回の原因は人間なのか?」

「人間が夢魔に?」

「そんな……」

「え、ええ……どういう事?!」


 戸惑う仲間を置いてきぼりに、蓮は誰も居ない筈の空間へと語りかける。


「さぁ、いい加減姿見せぇな? 言われた通り、ここまで来たんやから」

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