第3話-11 それ、ビミョーに失礼やでw
進まない上に、ミーハー話……。
不敵な笑みを見せる蓮。
「とはいえ、いきなりそんな事言われても信用出来んよな。オレが何者なんかは答えてへん訳やし?」
と周りを見回すと、未だに厳しい表情のタイチと困惑気味のミヤビ。
どこか期待に満ちた様な目の色を隠さない正冬、そして肩の力の抜けた卿夜に、ずっと眠ったままの環樹。
「スマンけど、それについては上から固~く口止めされとるから、オレや卿夜からは言われへんのや。
でも、一応そっちの階級的には"準特"並の実力は充分あると思うで、オレ」
「「「準特ッ?!」」」
驚愕ッ!! な三人だが、ため息をつきつつ蓮が当たり前な理由を話す。
「そらそやろ。そやないと、仮にも一級の卿夜のお守り役なんて仰せつからんやろ?」
「仮にもは余計だ!! ……ちゃんと受かってるんだから」
「……蓮兄ちゃんが春破兄さんより上だなんて……全然見えないよ……」
「まーくん……ショックなんは分かるけどな、それ、ビミョーに失礼やでw
まぁ、使う術とか得意分野、環境とかの差なだけであって、そう大差ないとは思うで?」
慰めようと掛けた言葉にも、まだ表情が落胆したままの正冬。
「―――んー……困ったな。したらまーくん、これ知ってるか?」
おもむろに右手の平を正面に立てる。
「? ゴメン??」
「んじゃー、次コレ」
ゴメンポーズの手の平に、左手の拳を当てる。しかしよくある正拳をまっすぐ当てるのではなく、親指の面が手の平に接している。
「??? ―――あ!! あ―――ッ!!!! 分かった!!!! NOISE FULL CITY!!!」
蓮は微かに笑うとそのまま手を離していく。その手には、光り輝く何かが握られていて。
訳が分からず眺めていた高校生組からも声が上がる。
「"心剣"―――、それも魔王の!!!」
「は? しんけん???」
やはり流行り物と言うか、世俗に疎い卿夜だけが置いてきぼりになっている。
「あー、そのな? ちょっと前にもの凄く流行ったドラマがあったんだよ。
そのタイトルが"NOISE FULL CITY"って言って……まぁ、その中で使われる武器の名前が"心剣"って呼ばれる、心の強さを具現化したっつー設定の剣なんだ」
その心剣に集まってキャーキャー言っている正冬とミヤビに呆れながら、タイチが簡単に説明すると、漸く卿夜が納得する、が。
「なるほど……で、魔王というのは何だ?」
「あー……。魔王は……その、ラスボスだ。分かるか? 一番終わりの最終の敵」
―――ちょっとムカ。
「ラスボスくらいは分かる。そこまで馬鹿じゃないぞ、俺だって」
なんてやりとりを高校生男子がしている一方で。
ミーハーな人達は"魔王モデル"の心剣に目をキラキラさせている。
「わー、凄いや!!! 召喚方法も同じだし、形も色も、全部一緒だ!!!
ボクね、マサキ主任やルーの心剣も格好良いけど、魔王の心剣が一番好き♪」
「わたくし魔王のキャラも大好きですわよ?
だって好みのイケメンですし、それに愛故に墜ちた悲劇の王……。
もー、ドストライクなんですもの!」
「へ~。魔王はラスボスやし、嫌われてるもんやと思てたけど。
じゃー、コスプレもしてみよか?」
「コスプレ?」
「まぁ、見てて。ここやったら簡単に出来るから……」
正冬とミヤビが固唾を飲んで見守っていると、耳の上少し後ろ辺りからねじれた形状の角が音もなく生え始め、ぐるりとこめかみ辺りまで羊のように巻きつつ"魔王の角"を形成する。
また、服もモーフィングするように形を変え、精緻な装飾が施された"魔王の衣装"へと変化する。
「―――こんなもんか?」
「……ま、まんま魔王じゃありませんか!!」
「す、凄い!! 凄いや、蓮兄ちゃん!!! 春破兄さんより上でもいい!!」
おいおい、良いのかよ; とまたも内心ツッコむタイチ。
「まー、こんな事もこの世界やからこそ楽に出来るねんけどな……。
訓練積んだらまーくんやミヤビでも出来るようになるで、多分。
とは言えあんまり使いどころは無いかも知れんけど。
そもそも精神分野系は得意なヤツが少ないから、勉強しとくとええかもな。
まぁ、なかなか先生が居らんかもやけど」
なんてことを言うから、正冬は素直に思った事を返してみる。
「じゃあ蓮兄ちゃんが教えてくれたら良いんじゃないの?」
「あー……スマン。悪いけど、オレは人に教えられるほど専門やないんや……。
―――っと、そろそろ先行こか。いつまでもここに居っても話進まんし」
と魔王のコスプレのまま、蓮はズンズンと砂の海を進んでいく。
「ちょ、ちょっと待ってよ~!!」
「って、行き先分かりますのー?!」
ミーハー組が慌てて追いかける後ろで、男子組が眠ったままの環樹をよっこいしょと背負っている。
「蓮に関しては、敵じゃないってだけじゃ納得出来ないか?」
「―――お前より実力が上とかって話はまぁ、信じるよ。今までも見てきてるしな。
でも……。話せる時が来たらちゃんと話してくれ。
俺達を信頼してないんじゃないなら」
そう言って視線を外すタイチに、卿夜は沈痛な面持ちで頷いた。
「……ああ、分かってる。」
* *
五分ほど歩くと、ぽつんとドアが置いてあるのが見えてきた。
「何これ……見た目はどこでもドアだよね?」
「次のエリアへのドアや。さて、次はどんなトコやろな?」
ドアノブに手を掛ける。
「ちょ、ちょっと……待ってくれ……; 卿夜、神崎背負うの変わってくれッ……!」
見るからに疲労困憊のタイチが、がっくりと膝をつく。
「俺、お前より絶対体力無いぞ……」
と言いながら受け取る為に横に膝をつく。
「タイチ、見かけより体力ありませんのね?」
「……大鴻池さん、またHPバー減ってる」
正冬が言う通り、頭上の棒が20%ほども減っているだろうか?
「え、またかよ?! 俺ホントに体力無いんだな……」