第3話-10 レベル……エイト?
いやー、進まない進まないw
「お、タイチも出たな。て、ミヤビのん、デザインが女の子やな~。
アレか? 乙女ゲーのステータスバー的な?」
見ればミヤビの物は、名前宜しく雅な感じの装飾がついている。
「うーん……見てみたいですけれど、自分では見えないのが残念ですわね」
嘆くミヤビだが、もっと深刻そうな表情を浮かべている人物が一人……。
「―――卿夜……; ゲームした事ないんやな……」
後、頭上に"棒"が出ていないのは、未だに目を覚ましていない環樹以外はもう卿夜と蓮だけ。
「まぁ、卿夜は……なんつーか、ずっと勉強と修行だけの生活だったからなー」
しみじみとタイチが零す。
「そうですわね。一体何がそんなに卿夜さんを追い詰めてるのか、何にも話してくれませんでしたからわたくし達には分かりませんでしたけれど……。
でも一級になってからは、あのどこか鬼気迫る感じは無くなりましたわよね?」
幼なじみの二人は、心配でもあっただろう。一人、何にも囚われず一心不乱に打ち込んでいる彼の姿は―――。
「……しゃーないなぁ。ちょっとは息抜きも必要やで?
ま、今回はオレが手伝うけどな」
蓮が人差し指を卿夜の額にぴとりと付けると、ピコン! と2本の棒が表示される。
同時に蓮の頭上にも同じように……?
「蓮、それなんだよ、表示が違うぞ?」
タイチの言うとおり、蓮の頭上に表示された棒には、上下とも右端に文字が書かれている。
―――LV.∞
「レベル……エイト?」
いやいや、ミヤビさん。それは某アイドルグループだから。
「エイトじゃなくて、無限大だな、この場合」
淡々と卿夜が訂正する。
「そんなのアリなんだ? まさかチートでBANされたりしない?」
正冬が至極現実的な事を気にする。
「いや、まぁ……別に運営が居る本チャンのオンラインゲームやないしなぁ。
これは、そうやな。LV.999くらいに思といて」
充分チートじゃねーか……。
内心ツッコみつつ、もう口に出すのも疲れてきたタイチが先を促す。
「で? わざわざこんなモン表示させるって事は何か意味があるんだろ?」
「話が早いなぁ、タイチは。そうや。一番肝心なんはこっからやで」
それまでヘラヘラとしていた蓮が、すっと表情を戻す。
「―――主に大事なんは、さっきも言うたけど上の方の棒、HPの方やねん。
もしか、敵から攻撃を喰ろて、このHPがゼロになったら、この世界からは退場してしまうんや。
そうなると、精神体が受けたダメージが肉体まで通って暫く寝込まんとアカン羽目になる。
万が一、超オーバーキルの一発K.O.とか喰らったら、最悪再起不能の可能性かてある。
まぁ、そんな事はまず無いけどな」
なんて軽~く蓮は言うけれど。
「さらっと脅かすような事言うな!!!」
さすがにタイチがツッコむし、
「そ、そんなの困りますわ、タイチの上の棒、既に半分くらいじゃありませんかッ!!」
ミヤビがタイチの頭上を見つつ、悲鳴を上げる。
「―――えっ?! は、半分?!」
「そうですわよ!
タイチ、自分では見えないから分からないかも知れませんけれど……」
「あー、ソレ、多分さっきの組み手ん時のダメージやな。
て、タイチ意外と打たれ弱いんか? そんな減るほど強烈にした覚えないけど」
と呆れ気味に手を伸ばし、額に手のひらをぺったりくっつけると、
「『小癒』!」
と唱える。
するとそれこそRPGの様なエフェクトと同時に、タイチのHPバーがギュインっとMAXまで回復する。
「わぁ、ホントに魔法みたい!!」
正冬は素直に喜んでいるが……。
「……ここじゃあ魔法は使えない、んじゃなかったのか?」
「オレは特別。ちゃ~んとこっちでも使える術式確立してあるからな」
エッヘン、とでも言いたげにドヤるが。
「待てよ、蓮。―――お前、本当に何者なんだよ?
どうしてそんな事出来るんだ? さっきの銃といい、回復魔法といい……お前は一体"何”なんだ?」
これまで募った疑念を吐き出すように、タイチが蓮を睨み付けていた。
ミヤビを庇うようにしながら。
「―――まぁ、疑うのもしゃーないわな。そやなぁ、何て言うたらええやろな?
流行りモンに例えるなら、『異世界転生してきたチート賢者の現代無双』って感じか?」
まるでラノベにありそうなタイトルっぽい。
「―――はぁ?! な、何だソレ?!」
「それとも『転生したら男子高校生だった流転の大賢者は現代社会で無双する』とかか?」
「―――”賢者”は変わらないんだ……」
ボソッと正冬がツッコむ。だが、案の定タイチは更に怒りが増した様で。
「蓮、お前、馬鹿にしてんのかッ?!」
「―――いい加減にしろッ!!」
激高しているタイチを卿夜が一喝する。
「こんな所で仲間割れしてる場合か?!
前に言ったかも知れないが、蓮は俺より能力も、実力もずっと上だ。
一級になりたてで頼りない半人前の俺のお目付役としてついて貰ってるんだ。
そもそも、この一件で本部が俺達に対処命令出した事だって、蓮が居るからこそ、出たようなもんだ。
正直、こんな特殊な案件扱えるのも、蓮くらいなんだよッ!」
気まずい沈黙が流れる。
「まぁまぁ、卿夜。ありがとうな。でもオレが胡散臭いのんは確かやしな。
そやけど、これだけは言うとく。オレはお前らの敵やない。
むしろ逆や。
けーいちろーにも重々言われてるし、お前らを鍛えて押しも押されん様な"戦力"に仕立て上げるんが一応の目的でもある。
それまでは、死なす様な目になんざ、一切遭わす気ィもない」