第3話-9 ―――あんなモン、有ったか?
相変わらず、のんびりしております……。
皆が固唾を飲んで見つめていると、次第に形を成していくそれが、大振りの拳銃なのだと分かる。
すっかり出来上がったそのデカブツを、蓮は軽々と片手で構える。
その先にはそれまで影も形もなかった筈の岩と、その上にちょこんと置かれた……空き缶?
「―――あんなモン、有ったか?」
思わず漏れたタイチの言葉に、周りがぶんぶんと首を振ったり、傾げたりしている。
―――ドンッ!
重い音が響く。
カン、と言う乾いた音を立てて空き缶が跳ね上がる。
ドンッ、ドンッ、ドンッ!
続け様に3発。空き缶は地に落ちる事無く、空中を高く舞う。
一番高い所でまたドンッ、と音がして空き缶の土手っ腹に穴が開いて落下した。
そのあっという間の出来事を見つめていたメンバーが我に返る。
「―――本物の銃?! しかもそれ……見た目がスミス&ウェッソンの……」
「そうそう。M29ってヤツや。ダーティーハリーの頃は最強て言われてた。
て、タイチ拳銃詳しいんやな? まぁ、ゆーてもこれは『この世界でしか動かんM29そっくりな銃』でしかないケド」
「どういう事ですの?」
「ん~、内部構造は本物と変わらんけど、威力や射撃時の反動なんかは大分軽い。
あくまで『ココだけ』の銃なんや」
「……何となく言いたい事は分かった。
俺達のこのSF銃は”張りぼて”だから撃てないが、内部構造まで再現して造れば銃としては攻撃力を持つ、んだろ?」
「卿夜、ビンゴ! って説明省けたわ~♪」
「内部構造って……お前なんでそんな事まで分かってるんだよ……;
しかもダーティハリーってむちゃくちゃ昔の映画じゃないか……」
「えーやん、オレあの映画好きやねん♪
でもなコレ、ここだけの『なんちゃってM29』なだけに、逆に使いやすく出来るねん。
”どれの何処に当てる”って強く念じるだけで、ろくに狙わんでもホーミング弾宜しく当たってくれるからな~」
現実世界ではないからこその、裏技やで~と蓮が笑っている。
「へぇ~、便利ですのね? でしたら、そんな厳つい銃ではなくて、それこそこのSF銃? を撃てるようにして下さればよろしいのに」
と、ミヤビが見た目レトロでラブリー? なSF銃を構えてみせる。
「それは無理だろう。今の技術力ではレーザー拳銃なんて確立されていない筈だからな。
再現したくても出来ないんだろ?」
卿夜が最後は確認するように蓮を見る。
「そう言う事。ここはあくまでミトちゃんの精神世界。
今の時代の、今時の小6女子の認知世界が基本設定になるからな。
実弾銃は存在しても、レーザー拳銃はない。
とは言え、その辺の線引きがビミョ~と言うか、面倒やねんけどな……。
まぁ、そんな訳で取り敢えず……はい」
蓮が銃床を向けて正冬に差し出す。
「え、ボク?! こんなの使った事無いよ……;」
「大丈夫大丈夫♪
弾倉は6発やけど、弾込めんでも自動で装填されるし、まーくんやったら十分ホーミング弾で撃てると思うで。
何なら一遍練習してみるか?」
「練習???」
「ほれ。あの空き缶に当てるって念じながら全然明後日の方向いて撃ってみ?」
指差された先にはさっきの岩の上に、何事もなかったかのように穴の開いていない空き缶が乗っかっている。
「なんなら、目標に対して後ろ向いてそのまま前に撃ってもイケルで?」
「え―――ッ?! ほ、ホントに?! 蓮兄ちゃん、またそんな適当な事言って……」
「まぁまぁ、騙されたと思て撃ってみそ?」
人懐っこい笑顔で言われては仕方ない。でも、外したら折角期待してくれて居るのにがっかりさせてしまうんじゃないか、とも思ってしまって……。
―――パンッ! ガッ!!
蓮の時よりも大分軽い発射音がして、多分空き缶ではない物に当たった音がした。
「惜しい! ―――場所やない。物や。今は『空き缶』に当てるって念じるねんで」
―――場所ではなくて、物……。
バンッ、カンッ!!
パチパチパチ。
「本当に当たったな。なんだか凄いな、夢の中って……」
高校生組が思わず拍手している横で、蓮が両手に1丁ずつ銃を発生させている。
「そしたら卿夜とミヤビも。はい、これ。試し撃ちしてみてな~」
「―――俺は?」
じゃあ、とまるで新しいおもちゃを手にした子供の様に、二人が試し撃ちし始める横で『頂戴』
とでも言うように手を出すタイチだったが。
「―――話聞いてたか? お前は格闘タイプやから要らんちゅうねん。
フツーの打撃に氣纏わすだけで、この世界じゃ充分ダメージデカイんやからな」
「え~……差別だ……。―――ッてコラ、何すんだよッ?!」
いきなり殴りかかられて、慌てて避ける。
「”試し撃ち”ならぬ”試し組み手”? ほら、気ィ抜かんと相手してや~♪」
口調はいつも通りへらへらしている癖に、攻撃自体はやたらと本格的だったりする。
ちゃんとガードしたと思っても、その上から結構削られる感覚がある。
これがこの世界の特性ってヤツなのか?
* *
「一通り済んだら聞いて~」
にこやかにパンパンと手を鳴らして、『注目~!』と蓮が声を掛ける。
その脇には、疲労困憊でゼーハー状態のタイチがorzっている。
「この世界では、ありがたい事に、分かりやす~く耐久値……ゲーム的に言うならHPやな……とかが、意識すりゃ簡単に視覚化される。
まぁ、習うより慣れろかな~。ちょっと試しにやってみて?」
「やってみて、と言われても、具体的にどうすれば良いんだか分からん……」
至極ご尤もな事を返されて、ん~……と蓮が考え込む。
「そうやなぁ……ゲーム分かる人は、常時表示のUIイメージしてもろたらええかな?
―――分からん人居る?」
卿夜がおずおずと小さく手を上げる。その横で、正冬の頭の上に突然上下2本の棒が”ピコン!”という効果音と共に現れる。
「まーくん早ッ! そうそう、そんなん。
上がHPで、下の段がMPやで。
とはいえ、ここじゃ術も魔法も使えんから、あんまりMP意味ないねんけどw」